近いところに人は見当たらない。大通りから外れたところにある公園は住宅街が近いこともあり馬鹿騒ぎするハロウィンの集団もいなくて、さっきまでぽつぽつと姿が見えていた人影も今はない。大丈夫だろうと思いつつ一応警戒しながら臨也を小脇に抱えて公園の片隅に建っているトイレに入る。
「なに、こんなとこ、やなんだけど……」
 嫌な予感がしていたのか、運ばれている間ずっとなんとか降りようと叩いたり蹴ったり暴れていたのだが、全く拘束が緩まないので仕舞いには尻尾でぺちぺち叩かれた。そのやけくそな仕草が場違いにもほんわかとした気持ちを静雄にもたらす。こういう無駄なことが可愛いと思わせるとわかっているのだろうか。
 普段から静雄をからかって上手に立とうとするくせに、最後の最後で詰めが甘い。そんなところは友人と言うだけあってあの幼馴染によく似ている。
 トイレの中は公衆にも関わらずそこそこ清潔。遊具も綺麗だったし、最近公園の改装に伴って建て直しされたのかもしれない。住宅街が近いともなれば子供連れの母親も多いから地区の清掃もこまめに行われているのだろう。
 男子トイレにしては広い洗面ブースへ臨也を座らせる。女子トイレよりかは使用頻度が低いのか、水滴が飛び散っているということもない。しかし臨也は文句を言い続けている。
「ほんとにトイレなんかでするの?誰か入ってきたらおしまいだよ?」
「うるせえよ。いいかげん黙れ」
「俺は嫌だって……!もうさ、そのへんのラブホでいいから……」
「うっせえっつってんだろ。んなとこまで待てるか」
 いつまで続くかわからない愚痴を聞くのも面倒になり、口で塞いでさっき散々指で嬲った舌を吸った。隙間なくくっつけてるつもりでも合間から吐息とぴちゃぴちゃと音が漏れ、響いて反響する。夜なので常夜灯の明かりしかなく、薄ぼんやりとした淡い光の効果もあるのかやけに音が耳についた。
 臨也もそうなのだろう。どことなく不安そうに集中してない。まあ入口は奥まって仕切られているとはいえ、この状況で集中しろというのが無茶な話なのかもしれないが。
「うー……んん、ん、ふぁ……」
 それでも角度を変えながら何度も貪れば、だんだんと溶かされてきたのか押し返すように添えられていた手が首に回されて、こうなるともう止まらない。
 夢中で口の粘膜を合わせていてもどこか冷静な静雄は、先ほどからの疑問を解消するべく臨也のズボンのジッパーを寛げると、再び中に手を突っ込んだ。だからパンツがどうなってるのかという、あれだ。
「んぅっ!?ん、んー!」
 一気に奥まで突っ込んだらすぐにわかった。手には冷たく柔らかい感触がして、尻たぶがむき出しになっている。要するにTバックだ。前を布一枚でしか包まれていないも同然なのでひどく冷たく、それを手のひらで揉みこむと温度差に驚いたのか洗面台の上で身体を捩った。
 手の温度を染み込ませるように揉みながら、尻尾をくぐらせパンツだけ残して下を取り去る。せっかく暖かくしてやってるのにまた冷えてもかわいそうだな、と思い、ズボンは下に敷いた。足をくぐらせるときに少し嫌がるように抵抗されたが、それも口蓋を舐めるとすぐになくなる。
「ふぁ……ん、ふぅ、ぁ、……や、さむ……」
「すぐに熱くなる。こんな下着履いてるからだろ……なんだこのエロ下着」
「エ、ロとか言うなっ……!だって、しっぽ」
「あーそうだな。しっぽ窮屈だとかわいそうだもんな」
 こっちもな、と言って尻尾とは反対側の性器を布地の上から擦り上げる。軽く指先で、つつっと上下になぞっただけなのに、もう少し硬くなっているそれから染み出した先走りが布地を色濃く変色させていた。繰り返すと溢れるままに広がっていく。
 布地はつるつるとしている肌触りのいい感触なのに、濡れたところだけ指の滑りが悪くなりそこだけ殊更引っかきながら擦ると、微妙な刺激に我慢できなくなったのか嬌声をあげ始めた。この声も、ヤバい。いつも嫌味を紡ぐ声が恥ずかしげにしているだけで相当くるものがある。
 吸ったり噛まれたりしてたせいか、いつもの薄い唇は赤く色づき腫れている。僅かな光を拾って反射しながら喘ぎ声を漏らす濡れた唇が欲情を誘う。
「ひゃ、ん、ん、あっ、あっ……ふ……あっ、やだっ」
「やだやだ言ってねえでもうちょい脚開け」
「ううー、やだっ……」
 ──しずちゃん見えない、こわい。
 そう、ぼそっと言われたのがまずかった。つなぎは着ているので姿として捉えることはできているのだろう。だけどフードは被ってなく、包帯も取り去ってしまった今となっては見えない部分、しかも臨也に触れる顔と手が見えないのは不安と言いたいらしい。
 しかし、その言葉は静雄を煽るだけで。息を荒げて消えそうな声で言われても下着の中から主張する性器はますます硬くなってるのがわかるのに。今ここでそれを言うのかと。
「……っ、てっめ、ふざけんな!」
「は……ひぃっ!や、いきなりっ……!」
 こうしたのは臨也だ。なのにそれを怖いと言われるのは心外だったし、その言い方にのせられてしまうのが悔しくて緩やかに動かしていた手を勢いよくスライドさせた。
 座って静雄の見えない首にしがみついている臨也は、布地越しに擦られるのが逆に気持ちいいのか、快感を追い切れなくてだんだんと腰が引けてきていて手が動かしにくい。
「おい、起きろ」
「むり、やだってっ……きもちいーの、こわい……」
「ちっ……しょうがねえ」
 もう一度しっかりと臨也の腰を引きあげ自分の首に掴まらせると、洗面ボウル部分を跨がせ膝立ちにさせた。当然後ろは鏡なので、それに向かって尻を突き出すような格好になってしまっていることに本人は気付いてない。
 こうして見ると生の尻がぺろんと出ているのとほぼ変わりなくて。Tバックというだけあって、後ろは紐だけだ。
 尻尾が立っているせいで全部丸見えで、そのはしたない格好がたまらない。
「もっと気持ちよくしてやるよ」
 まず先に前に手を入れると当たり前だが性器はぬるっと濡れていて、少し静雄の手が離れただけで下着は冷えて中だけが熱い。どうせなら冷たくなる暇もないくらいぐちゃぐちゃにしてやりたい。
 とりあえず撫でる程度で指を濡らすと静雄の首筋に顔を埋めて声を殺しながらも、腰は揺れて同時に鏡の中で白い尻が揺れる。どこからどう見ても卑猥なその尻をぐっと掴むと、濡れた指で後孔を解し始めた。
「あ、あ……う、ふ、ふう、ん、んん……っ!」
「あ……?なんだこれ」
「んっ!や、ああ……っ」
 解そうと思って縁周りから弄っていたら、臨也が腰を振った反動で指がぬるんと飲み込まれる。慣らしもしていないのに何事かと横目で見ても、臨也にしてみても予想外だったらしく驚いて顔をあげ口をぱくぱくさせている。
 中はローションをたっぷり注入したようにぬかるんでいて、指を抜き差しするとじゅぷじゅぷと音が立つ。入口の括約筋を広げてふと視線を上げたら赤く肉壁がめくれあがった穴が鏡に映っていて、中から何か液体を零しているそこは独りでにきゅっと窄まったり広がったりしていた。
 実際は挿入されている指が見えないので、それをいいことに両手を回し縁に指を引っかけてもっと見えるように広げる。
「やあっ……!な、に、なんかもれ、る……!!」
 邪魔になってきたので谷間に挟まっていた紐を指で捻じ切ったせいか、よく見える。広げた瞬間、透明な雫がぽとぽとと奥から溢れてきて肌を伝った。
 奥から逆流してる感覚にぶるりと震えているが、本人にもわからなくて身体がついていかないのだろう。静雄にも何がなんだかわからないが好都合でしかない。
「漏らしちまえよっ……」
「……っ!!ひぃ……んっ!ああ、あ、あ……!」
 いつも中に精液を出したあと掻き出してやるときと同じに、それより若干激しく指を動かした。指先を軽く曲げて擦りながらも、くまなく濡れているせいか指の付け根まで簡単に入ってしまう。奥までぎっちり含ませたまま最奥の粘膜を引っ掻くと、先走りがぴゅぴゅっと臨也の先端から飛んだ。
 後ろの部分を切ったので前も申し訳程度に布がぶら下がっているだけの下着は、水に浸したかのように濡れて邪魔そうだ。なのでついでに全部千切って取り払う。
 最近、臨也は入口の浅いところを擦られるより、奥の狭まった内壁を突かれるのが感じるらしい。
 前立腺を擦られると射精するのは変わらないが、できるだけ奥に埋まってる性器を締めてるだけで達しそうになる、と、ちょっと前の行為中に白状させたときは、抜き差しせずに緩く動かすくらいで奥まで入れたまま静雄の精液が出るまで粘らせた。その間、締めながらびくびくと中を蠢動させて何度も達していたが精液は飛び散ることはなく、こぷりと溢れるだけで性器も萎えない。
 その状態になったときが壮絶にいやらしい。ただ性器を突き入れられながら気持ちよくて泣いている、知っている静雄はそれを見たくて仕方ないのだ。
 だからその前準備としてできるだけ奥まで指を進ませぐりぐりと刺激した。
「あ、あ、おくっ……!おく、だめっ、や、あああ!」
「すっげえ……中、まる見え。エロ……」
「……?あ、あぅ、やだぁ……みない、でっ……」
 やっと自分の置かれている状況に気付いた臨也は、声を抑えることも忘れ見ないでくれと頭を振る。そう言う口とは逆に、後孔は静雄の指をぎゅっと挟んで離さない。
 それを惜しいと思いながらも、ずずっと指を引き抜く。するとまた栓が外れたようにまた何か垂れてきた。
「ひぃ、やっ……!あ、は、はぁ、ふ、んん」
「マジでなんだこれ……新羅の薬のせいか?どろっどろ」
 言いながら漏れてきた液体を掬い取って匂いを嗅いでみたが、特に妙な匂いはしない。
 むしろ少し甘ったるい気もするので舐めてみると、見えるはずもないのに気配で嫌な予感がしたのか臨也が顔をこちらに向けた。
「しずちゃん……なにして」
「こういうときだけ勘いいな……お、そうか。脱げばいいか」
「……は?」
 前ジッパーのつなぎなので脱ぐのに手間は一切かからない。手際良く衣服が床に落ちていくのを唖然とした表情で見ていた臨也は、最後にするっと袖が抜け落ちるのを確認すると全て取り去った何もない空間に向かって顔を真っ赤にして怒鳴った。
「ばっ……ばか、じゃないの!それじゃ見えない……!」
「てめえが見えなくしたんだろーが」
「そ、だけど!……ひゃっ!触るなぁ!」
 焦ってじたばたと暴れているが、身体に力が入りきらない状態では押さえつけることは容易だ。その薄い身体を持ちあげてくるんと回転させると後ろから抱え込む。
 トイレに相応しく脚を開いて用を足す姿勢。何をされるかすぐにわかったのだろう。首を振ってずり上がろうとする、その頭から生えている方の耳はぺたんと後ろに倒し、今まで立っていた尻尾も下がってしまい、静雄の腰をさわさわとくすぐった。
「入れるぞ」
「あ、ああああっ……!あ、あ……はっ!」
「はっ……一気かよっ……!」
 どろどろに溶けていた後孔は、臨也の自重の助けもあり性器を押し込むこともなく最奥まで一気に開かれ包み込む。陰嚢が尻たぶとぶつかる衝撃で肌を打つ音が鳴ったと同時に鏡に白く精液が飛んだ。
 入れられて奥まで性器を食んだ瞬間、射精してしまったのだろう。あーあーと意味を成さない呻き声を発しながら内股を突っ張って震えている。
 まだ脱力せずに力をこめているせいか、中に埋まった静雄の性器も不規則な締めつけに持っていかれそうになった。いつもそうだ。臨也の中はどれだけ解してもきつく、吸いついて静雄を射精させようとする。
 中にたっぷり射精して汚してもらいたがっているとしか思えない。
「だよなあ……出されたいんだもんな。なら仕方ないよ、なっ!」
 まだびくついている膝裏を抱え直すと、一旦引き抜き再び抉った。そうすれば抱えた脚の先でつま先が反り返り、ぎゅうぎゅうと締まる粘膜が臨也の快感を伝えてくれる。満たされていると感じるときにこれが伝わると、同じ気持ちを共有できてる気がして充足感から脳裏がやけつく。
 快感と、独占欲と、幸福感。ばらばらに見える全ての感情を繋ぎとめてぶつけあい発散するセックス。
 ──それは大事なことだと思っている。きっと臨也も。
「あ、あ、あ、……っ、あ……で、てる、あー……っ!」
 何度しても足りないのだから、いつ出してもいいと射精感が募るままに奥に精液を吐き出した。出しても腰の動きは止まらず、精液をかき回しながら上下に揺すった。
 鏡の中では脚を大きく開いた臨也が一人でゆさゆさと跳ねて動いている。激しい動きに口元からは飲み込みきれない涎を垂らして、苦しげに眉を寄せている様は中に入れている性器をまた増長させた。
 それに合わせてさらに開いた穴の肉壁から目が離せない。限界まで開いているそこは、静雄の大きさにぴったり沿っているので中の奥まで丸見えで。赤い熟れた色に出された白い精液がこびりついていて、中を突かれるたびに精液を飲もうと蠢いていた。
 動くたびに上のインナーも捲れ、脚を片手で支え直し腰に乗せると裾から手を侵入させて胸を弄る。打ちつける速度は緩やかに、それでもすでに敏感になっている乳首を弄られてるせいか、むしろ身体は大げさに反応した。
「うぅ、あ、はあ、もっ……も、やぁ……!」
「揉みすぎてでかくなってきたよな……ここ」
 これまでも散々弄ってきたので、臨也の乳輪は若干大きい。なんでそんなことになったのかと言われたら、それは静雄が揉んだからだが、それにはちゃんと理由もある。
 静雄は臨也が男ではなかなか感じない器官で感じるところを見るのが好きだ。それを恥じて嫌がって、それでも流される仕草と浅ましさが、とても好きだ。愛していると言ってもいい。
 胸は一番のお気に入りだ。
「だ、って、しずちゃ、がぁっ……!」
「そうだな……俺が大きくしてやったんだもんなあ?気持ちいいだろ?」
「……っ!き、もちー、よ……ばか」
 摘まめるほどしかない乳首に対して乳輪が大きいのは当然恥ずかしいのもある。しかしそれより服に擦られて普段から意識してしまう恥ずかしさが耐え難いと思ってることを静雄は知っていた。
 それを認め、消え入りそうな声で羞恥で顔を染めている。

 ──ああ、終わらない。何度やっても飽き足りない。

 何か言葉を発するのも億劫だ。とにかくこの身体を快感に溺れさせ、それを抱いて気持ちよくなりたい。
 しっかり固定させるために臨也を床に下ろし手をつかせる。片足だけ持ち上げると、強引に突き入れた。
「……あっ!あっ、あぁっ、あ、あっ!」
 急に激しく揺さぶられ、喘ぎ声以外出すことのできない身体は、背中を弓なりに反らして達した。内壁が動くのが止まらず、確認するまでもなくイったまま戻ってこれなくなっている。
 気持ちいい。ヒクヒクと蠢くそこに叩きつけるように何度も腰を打ちつけた。
 馬鹿みたいに、しずちゃん、しずちゃんと呂律の回らない声が呼ぶ。それに促されて奥の一番深いところに劣情を放出すること数回、ようやく一旦治まったところで脱力した身体を抱き潰してないかとひっくり返す。
「……しず、ちゃん……」
「……なんだ」
 性器を抜くと、どろりと残滓が流れてきたが、すでに快感が麻痺しているのか力尽きたのか、臨也は身じろぎもせずに静雄に呼びかけた。
 そして言う。
「……やっぱり見えてた方がいいね」
 ──じゃないとキスしたくてもできやしない。

 塞がれた唇は甘く、それを受けた静雄は鏡の中に薄く見覚えのある金髪が浮かびあがるのを認めた。




「新羅の野郎、朝っつってたぞ。まだ夜じゃねーか」
「なんでだろうねえ?俺はまだそのままだし……」
 トイレで身支度をしながらぶつぶつと言っていると、まだ尻を出したままの臨也が尻尾を揺らしながら鏡を覗きこんで自分の犬耳を触っているので、ぺちんと音がするくらいの強さで叩いて早く服を着ろと急かした。
 痛い!と、大げさに騒ぎながら床に投げ捨てられているズボンを拾って身に着ける。下着はびっしょりと濡れて千切られ布と呼ぶのもおこがましい、ただの残骸。触るのも嫌なのか、トイレットペーパーをくるくると巻き取って包んでゴミ箱へ捨てている。
「てめえは俺よりあとで薬飲んだんだし、切れるのはもうちょい先なんだろ」
「ほんと新羅って詰めが甘いよねえ。シズちゃんの体質が順応して早く切れることくらい計算しなかったのかなあ」
「…………」
「……なに、笑ってんの」
 つなぎを着るだけで特にすることもない静雄は、壁にもたれながら一服していた。あれだけ体力を消耗したのに目の前でちょこまかと動く犬は自分のことを棚に上げ、友人に対して同じことを思っているのがおかしくて仕方ない。
 笑っていることに気付いて理由を探そうと思考を巡らせてるらしいが、本人である臨也には一生気付くことのできないことなのだ。それがおかしい。
「なに。なんか面白くない……馬鹿なシズちゃんに馬鹿にされるなんて……」
「馬鹿はてめーだ。おら、準備できたんなら帰るぞ」
 すでに日付は変わってしまっている。静雄は今日も仕事で、これから新宿のマンションに実は歩くのもしんどい臨也を担いで帰って、無駄にでかいベッドで一緒に眠るのだろう。
 文句を言いながらも、朝になれば静雄よりも早く起きた臨也が適当な朝食を用意してから起こしてくれる。時間に余裕があれば二人で朝風呂に浸かるものいいかもしれない。

 ありふれた日常にスパイスを入れたって、結局着地するのはいつもと同じ日常なのだ。
 しかしその日常こそが自分と臨也にとって到達することが奇跡のような生活だということを静雄は知っていた。

 これは全て得難い日々の一部分。
 それを臨也を抱く度に痛感することを、この男は知らないだろう。
 訝しげに自分を見ている臨也にまた苦笑を零して、静雄は短くなった煙草を洗面台で捻じり消した。



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