頬の内側の柔らかい部分で擦られるとまるで後孔に挿入してるのと同じ熱い感触で、歯を立てないように気をつけてるせいで苦しそうな顔に、先走りがどっと溢れる。油っぽいものばかり食べてたわけじゃないが、もしかしたら苦いのかもしれない。挑発するような言葉を投げつけてくるくせに一心不乱に静雄に奉仕する姿は従順ですらある。
 それでも綺麗なままの顔をもっと歪ませたいと思ってしまう。
「んむっ……!う、ん、ん、んううーっ!!」
 丸い後頭部をぐっと引き寄せると喉の奥深く捻じ込んだ。そのまま強く抜き差しを繰り返す。開きっぱなしで顎に力が入らないのか、されるがままの唇がうまく息継ぎが出来ずに吸いついてきて思わずこちらも声が漏れる。
「……ヤベ、出そう」
 居酒屋で思い出してから今日はあの時みたいに口に出そうと決めていた。叩きつけるように自らも腰を振る。相当苦しいのだろう、端から零れる涙は激しく頭を揺すられているせいか、ぱらぱらと周囲に飛び散った。
 引き抜いたときに先端に当たった舌が、再び押し込んだら全体を包みずるりと滑る感覚にぐっと射精感が込み上げる。
 ──あー……出る。
 我慢はしない。久しぶりに精液を吐き出すと目の奥でチカチカと光が点滅し、ぶわっと汗が滲んだ。勢いよく口の中に含ませるのと同時に、脚を開いて膝で身体を支えている臨也の性器をつま先で強く弾く。
 刺激にがくんと腰を落とし、驚いて静雄のペニスを口から出してしまい、まだ全て放出しきってなかった精液が顔に飛び散った。頭は固定したままだったので射精しても硬いままのペニスがビクビクと動き臨也の頬を打つ。自分の目から見ても赤黒く血管が浮いている性器と、透明な白い顔が並んでいる様は何とも言い難い。
 荒い息で肩を上下させる臨也はうっすら開いた瞳にも霞がかって、ぼんやりと続いている快楽に耐えていた。最後に与えられた衝撃で元から張り詰めていた臨也も達したらしいが、飛び散るほどの勢いはなくなったのか、ただだらだらと溢れては流れ、床に水溜まりを作っている。
「……なんで、萎えないの?」
「なんでって……まだ入れてないから、だろ」
 そっか、と、声は出さずに唇で音をなぞった臨也にカッと身体が熱くなるのを感じてどうしようもない。いつもこうなのだ。

 互いに仕事もあるいい大人だ。臨也は自由業に近いとはいえ、静雄は一般的なサラリーマンとほぼ変わらない時間帯に働いている。人付き合いもあって、今日のようにトムに誘われたり、他にも最近になって色んな人と約束する機会が増えてきた。
 臨也がさっき「三日ぶり」と言ったように、こんなことはざらだった。むしろ短いと言っていい。最近は一週間空くのも当たり前、酷いときは半月以上会わないときもある。
 その間を埋めるわけじゃないが会えばセックスセックスで。穏やかに、臨也とのんびり過ごしたいという気持ちは少なからずあるのに、会って視界に入れただけで、どうしてもムラムラしてしまい傾れ込んでしまう。何度吐き出しても満足できなくて結局別れる時間まで繋がったままのときもある。
 熱に浮かされた状態がずっと続くのは、正直しんどかった。臨也の方も同じなのか、どんどん変な誘い方をしてくるのも歯止めを効かなくしている原因だ。これに耐えられる人間がいるならお目にかかりたい。
 それでも臨也の質の悪さは、この裸エプロンのような直接的なものじゃなくて。
 今、目の前で。耳に届くか届かないか程度の震える声しか出せなかったり。人の精液を恥ずかしげもなく飲んでみせるくせに、静雄からの欲に少しだけ俯いて頬を染めてみたり。どれだけ無茶をしたときも大丈夫と笑う声が掠れていて、誤魔化そうと咳払いを繰り返したり。
 その全てが質の悪さだと、静雄は思うのだ。
 押さえつけても、一方的に痕を残しても、捕まってるのは静雄の方だ。この関係の主導権を握っているのは自分じゃない。そしてその檻をいつでも抜け出せるのに静雄は内側から鍵をかけた。
 それが臨也に対する静雄の気持ちの全てだった。

「じゃあ……もう、入れてよおっ……!!」
 耐えきれないとばかりに小さな声で叫ぶという器用なことをやってのけた臨也に覆い被さった。こっちだってもう限界なのだ。
 ここにきて初めて至近距離で見た臨也の顔は、涙で目元が赤くなり一見では清純そうな表情がかえって静雄の下腹部を刺激する。そんなことも知らず、顔が近付いたことがそんなに嬉しかったのか、臨也にしては余裕のない仕草で唇をぶつけてきた。
 思えばキスも三日ぶりだ。するっと入り込んできた舌に絡ませれば、熱い息まで閉じ込めようと先に吸い上げ薄目を開けて反応を待つ。キスの間に目を開けるのは静雄の密かな楽しみだった。近すぎて焦点が合わないくらいの距離でも、長すぎる睫毛が震える蕩けた表情を見てると、もっと隙間なく溶けてしまうくらいに身体を密着させたくなる。
「ん、ん……、は、しずちゃ、もう、」
「わかってっから……ここに」
 押し倒した身体は適度に筋肉が付いて出来のいい彫刻のようだ。でも静雄はその作り物のような身体がどれだけ貪欲か知っている。それを本人に突きつけ、羞恥心を煽るのがたまらないのだ。それを実行に移すため弾力のある尻肉を両手で割り開くと、指で後孔の縁をくるくるとなぞった。
 穴の周りは臨也が自分から出たものを塗りこめていたのか、すでにベトベトに濡れていて。指が今にも入り込みそうなのが気になるのか、きゅっきゅっと力が入って蠢くのがわかる。今度は焦らさない。
 中指と人差し指を一気に根元まで突っ込んだ。
「ひぃ……!ぐ、んぅ……や、やあああっ!」
「なんだよ……ここに入れて欲しかったんだろ?」
「そ、だけどおっ!……あ、やだ、やだ、きもちい……」
 ぐちゅりと音を立てながら奥深くまで差し込んだ指を腹の方に軽く曲げたあたり、そこに臨也のなけなしの理性を吹き飛ばすポイントがある。
 少し盛り上がったそれを指先に力を入れて擦れば、口端から飲み込む余裕もなくした唾液を流しながら矛盾した言葉を口にする。どっちだよ、と形のいい貝殻のような耳に唇を当てて笑う静雄の声にも反応するのか、指がぎゅっと締めつけられるので、小刻みにバラバラと振動させて嬌声と食いつきをさらに引き出すことに専念した。
「う、あ、もっ……と、おくに、ほしっ……」
 やはり指では全て満たすことができずに、肝心の刺激が与えられず焦れて腰を振りだす。臨也のペニスは完全に勃ち上がっていて、もともと濡れていたのに新たなカウパーが先端から噴き出すほど溢れていた。それを腰を揺らして静雄の腹筋に擦りつけようと必死だ。
 その様が浅ましく──愛おしく感じずにはいられない。
「そんなに俺のちんぽ入れてほしい?それとも擦るだけでいいか?」
「……しずちゃんの、ちんぽいい……の」
「この中にちんぽ入れていいのか?ん?」
 こんな風に、と、三本に増やした指を激しくピストンした。
 粘膜はもうどろどろで、それでも衰えない圧迫感に、早くここで擦って快感を得たい気持ちのまま首筋を吸って白い肌に朱を散らす。
「いれて、はめて、……いっぱいおれでこすって……?」
 俺で擦って気持ちよくなって、と言われて我慢できずに凶悪なまでに怒張したペニスをひくついた後孔に押し当てた。当てただけで力も込めていないのに、カリまで一気に飲み込まれる。
 カリ高な静雄のペニスに内壁を擦られ、声もなく臨也が仰け反った衝撃で残りもぐんと勢いよく臨也の最奥まで突き進んだ。深く、陰嚢がぶつかるまで繋がった瞬間、臨也のペニスからまた精液が漏れたが、今度は先ほどと違い申し訳程度に飛んで自分の胸を汚していた。
「ああっ、あっ!いった、いっちゃっ……!ん、ん、んうっ!」
「……俺はまだ出してねえよっ……!!」
 入れただけで出しやがって、どんだけエロいんだよと言葉で嬲れば、ぬるついた粘膜が収縮し包み込む。ゴリゴリと擦れば引くときにカリが前立腺を引っ掛けて、その都度律儀に臨也のペニスから白濁が零れた。
 上がり口の床は色んな体液でぬるぬると滑り、硬いフローリングに押し付けたままでは臨也の身体が痛いのではないかと、繋がったまま持ち上げ自分の腕を間に挟んでクッション代わりにし壁にもたれさせる。ほんの数秒の移動だったのに無理に体勢を変えて中の良いところを突いてしまったようで、臨也の身体はくたっと弛緩したままズルズルと崩れ落ちそうだ。
 力の抜けてる腕を頼りないながらも首に回させ、しなやかな片脚を持ちあげ腕に抱える。落ちそうな腰はこのまま中に穿ったもので支えてやればいい。
「やぁらっ……!しうちゃ、つよい、い!あ、あ、ぐりぐりやあ……!」
 角度が変わったのと、自分を支えることができない臨也の自重でさっきよりずっぽりと入り込んだ性器を、最奥に含ませたまま肉の吸いつきを確かめるように揺すって回転させた。どんなに動かしてもヒクヒクと絡みつく内壁に満足して、再び抽挿を繰り返す。
 意味を成さないほどに肌蹴てただ引っかかってるだけのエプロンの合間から、触れてもいないのにしこり立った乳首が見え隠れして、こねてやりたいのに手が足りない。仕方なしに少し背中を丸め、飛び散った精液と一緒に舌で舐め上げた。
「も、らめ、いっちゃ……!」
「中、出すぞっ……!」
 臨也とこういう関係になってから、一度も外に出したことはない。一滴残らず臨也の中に注いできたのでそれが当たり前なのに、それでも聞いてしまうのは舌足らずに求められたいからかもしれない。
「だして、いっ、ぱいにしてえっ……!しずちゃ、だ、して、あ、あーっ!!」
 強請られてる間にギリギリまで引き抜き、何度も中を犯す。とにかく出したくて、早いストロークで腰を振ると、案外早く絶頂は訪れた。
 ぶるっと震えて、熱いものが大量に臨也の奥深くで弾けるのがわかる。長い射精はなかなか終わらず、残滓を吐き切ろうとビクビクと不規則に快感に蠢くペニスをいまだ収縮する内部で揺らめかせた。
 こちらも色の薄くなった精液を途切れ途切れに吐き出しながら、がくがくと最早立っていられない臨也は、突き入れられたペニスでしか体重を支えることができずに、過ぎた快感に身を委ねたまま意識を飛ばしかけている。うわ言のように、あつい、あつい、と口から零れているのに、まあ寒気ではないだろうが身体はぷるぷると震えていた。
 宥めようと触れるだけのキスを顔に降らせる。こんな甘ったるい行動も今では自然とできるようになっていた。もう少し、少しでも長く溶けていたい。
 最後にぷっくりと膨らんだ唇を吸ったときに、僅かに意識が浮上した赤みがかった瞳が切なげに瞬く。同じ気持ちを共有しているのだとわかれば、他に言葉は必要なかった。
 欲は果てがなく、いつまでこうしていられるのか考えることは放棄して、もう一度行為に没頭するために場所を移動しなければ、と、薄い身体を持ちあげた。





 次にいつ会えるのか、そればかりが頭を占める。
 いつの間にこんなにのめり込んでしまったのか。普段から自分だけがこんなことばかり考えてしまって、それを知った臨也が気を遣って妙な誘い方を仕掛けてくるのだ、と静雄は思っていた。
 気付けば臨也なしではいられない。この身体を抱けないなどと考えたくない。酷く汚して、自分しか見えないように閉じ込めてしまいたかった。
 ──そんなこと出来る筈もなく。
 それでも今この瞬間だけは自分だけのものと身勝手さに自嘲しながら、静雄はその日何度目かわからない精液を臨也の中に流し込んだ。



←back