「いいのか静雄?彼女、待ってるんじゃないのか?」
 今日も色々と破壊しつつも取立ての仕事を終え、久しぶりに少し飲むか!とのトムからの誘いに当然頷き、最近気に入ってるという立ち呑みの居酒屋に来ていた。
 安上がりな割にはそこそこに味もいい。回転率を上げる為に座席のない店内は適度に混みあっていて、テーブルにトムと向かい合わせで立ちながら静雄はアルコール度数の低いカクテルをちびちびと飲んでいる。そんな静雄と対照的にビールの大ジョッキを豪快に傾けているトムは、最近になって早々と帰路に着く後輩と呑むことに嬉しさもあるが、せっかくの関係に亀裂を入れやしないかと少し心配げだ。
「いいっス。そんな長居しないならいいって言ってました」
「お、連絡したのか!いやー、お熱いねえ」
「んなことないっスけど……うるさいんで」
「いやいや、静雄が遅くなるって連絡入れるなんて成長した証拠だべ?トムさんは嬉しい!パーッと飲んでパーッと帰ろうな!」
「うす」
 トムの勢いにいつも押されてしまうのと、なんとなくタイミングが計れずに、彼女ではないということを今日も静雄は言えないままゲソのから揚げを口に放り込む。咀嚼すると口に広がる油分に、油っぽいものあんまり食べられると精液美味しくないからもっと野菜とか食べてと言われたのを思い出した。
 声付きで脳内再生されたそのセリフに眉は寄ったが、目の前に並んでいる中から比較的しつこくない料理に箸を入れる。葱と茗荷が添えられた豆腐に手をつけたものの、その白さにさっき思いだしたセリフが相まって、その時に相手の口周りに飛び散った自分の精液が頭を過った。濡れた唇の間からチロチロと覗く赤い舌まではっきりと思い出され、思わず行儀悪く箸でぐちゃぐちゃと混ぜてしまう。
「なんだどうした静雄?やっぱり気になるのか?」
「んなことないっス」
 そうは言っても、誰から見て今の静雄は気もそぞろだ。まして、付き合いの長いトムからしたら一目瞭然だった。
 トムは心の中でひっそり溜息をつく。その溜息は主に安堵が多く含まれていて、静雄にやっと大事な人ができたことや、それでも自分を優先してくれることへの複雑な感情が微妙な混ざり具合で彩っていた。
 それを静雄に悟られるようなことはせず、上手く会話もこなしながらさり気なくピッチを上げて稀に見る短時間で自分もほろ酔い気分まで持っていった。静雄は本当に舐める程度で済ませてしまっていたので全く酔った様子もないが、これから恋人の元へ帰るのならそれでいいのかもしれない。
 自分も払うと言ってきかない静雄に頑として譲らず会計を済ませると、危なげない足取りで店を出た。
「ごちそうさまでした」
「いいっていいって!気にすんな。まーあれだ、早く帰ってやったらどうだ?」
「……っス」
 明日は静雄のシフトは休みだ。だからこうして誘ったわけだが、早く帰らせて恋人と一緒にいさせてやるのが先輩としての優しさだろう。
 静雄はトムが一人納得してうんうんと頷くのを不思議そうに見ていた。しかし、開いた携帯で時間を確認すると、そのままペコリと頭を下げる。笑って手のみで早く帰れと促すと、もう一度頭を下げて少しだけ速足で歩きだした。
 背の高い後ろ姿が見えなくなるまで見送ると、ゆっくりと煙草に火を点ける。そういえば静雄も煙草を吸うけれど、恋人は嫌がらないのだろうかなどと考えても仕方ないことを思いながら、自然と笑みを浮かべたままトムは不器用な後輩の幸せを願った。



 帰ると可愛い奥さんがエプロンを付けてお決まりの「お帰りなさい!ご飯にする?お風呂にする?それとも……」という出迎えをしてくれる、という妄想をしたことは当然ある。静雄だって健全な男だ。今となってはDVDが普及しているが、昔の俗に言うアダルトビデオでだってもうあまり見ないその設定は、それでも今も昔も男心を刺激することに変わりはない。
 だけど、これはどうだろう。
「あ……んんっ!しずちゃあ、お、かえりぃっ!あ、んう……」
 目の前で盛大な喘ぎ声を上げて悶えているのは、紛れもなく男だ。男のくせに細い腰や足や、薄めの胸板は違和感なくそれを着こなしてしまっているが、身につけているのは純白でヒラヒラしたレースが付いている、まさに新妻の王道フリルエプロンだ。というか、それ一枚のみだ。
「ね、ね……んん、ごはん、たべ、る……?や、ひぅ、んーーーっ!」
 仰向けのまま床に転がった男は、びくびくと身体をくねらせると大きく開いた脚の間で反り返る自身をエプロンを被せたまま強く握った。激しく擦っていたのだろう、エプロンの薄い生地には染みが広がっていて、その汗だか精液だかわからない液体で着ている意味など持たないほど透けてしまっていた。特に股間の部分が。
 性器を扱いているのとは違う方の腕は身体の後ろへと伸び、精一杯ぐっと腰を突き出してなんとか指先で軽く後孔の縁をなぞっている。性器にまでしかエプロンがかかっていないせいでそこは立っている静雄からも丸見えだった。跳ねる身体と同じタイミングできゅっと窄まる穴の皺までくっきり見てとれた。
 一人上手に自分の事務所兼マンションの玄関先でよがっている男は、最近殺し合いをしながら時々セックスをする仇敵という立場から恋人と呼べるような、そうでもないような立場へと静雄の心の中で昇格した折原臨也だ。
 前からセックスの時は箍が外れたようになってしまうのが常だったが、静雄がほんの少し臨也を許容し態度を変化させた頃から変態と呼んでしまいたくなるほどに特殊なプレイを好むようになっていった。もちろんまともなセックスもする。でもそれ以上に臨也のテンションが上がるのが、この手のプレイなのだ。
 今もひんひん言いながら静雄がこのドアを開けるまでの間に自慰に励んでいたのだろう。整った顔は上気し、口元からだらしなく垂れる涎も気にせず、ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てて性器を擦っている。完全に盛っている状態の臨也に、半分予想していた静雄はとりあえずドアに鍵をかけ努めて冷静に状況を分析していたが、男の性でスラックスの上からでもわかるくらいに股間は張り詰めてしまっていた。
 それに気付いたのか、期待に満ちた視線が静雄の股間に突き刺さる。煽る目的か、無意識か、ペロッと舌で唇を舐める様が実に淫猥だ。それが無性に苛立たしく感じ、のってやるのも癪で期待には答えない。
 十分に広い玄関に立ったまま靴さえ脱いでないので、上がり込みまずは床に転がってる臨也の横を素通りしてバスルームに向かう。ちょっと、シズちゃん!という若干焦った声が背後から響いてくるけど喘ぎ混じりなので少しの間放置しても、まあ問題ないだろう。一人で楽しむのも大好きなはずだ。
 そんな態度を取っていても、別に冷たくしてるわけじゃない。むしろこれでも気を遣っているのだ。バスルームに入ってまずはベストを脱ぎ、サングラスとタイを外した。あとで勝手にクリーニングに出されるだろうから、無造作に洗濯カゴに投げ入れた。
 ドアを開けっ放しにしているので、しずちゃんしずちゃんと舌足らずに自分を呼ぶ声が引っ切り無しに聞こえる。切なげな響きに、堪えようとしてもどんどん下半身に重く熱が溜まるのがわかった。
 それでも急がず、手と靴下を脱いだ足先を今度はバスルームで洗う。爪は切ったばかりだが、一応念入りに確認もする。一度、伸びた爪のまま臨也の内部を探っていて傷をつけてからは尚更慎重だった。その後しばらく傷が治るまでセックス禁止を言い渡されたのも原因だ。
 そんな静雄の努力は臨也には伝わらないようで、早く早くといつも急かされる。やっと準備を終えて再び玄関先へ戻った頃には、何度か軽く達してしまったのか反ったペニスで持ちあげられていたエプロンも肌蹴られていた。芯がなくなり先走りと精液を先の窪みから滴らせたままのそれを、まだぐにぐにと指で押し潰していた臨也は、静雄を認めると恥も外聞もなくおねだりしてくる。
「しずちゃあ、ん……!!も、はやくぅ……っ、し、てよ、んんっ!あ、ふぁ」
「ずいぶん一人で楽しんでたみたいじゃねえか?もういいだろ」
 わざと突き放せば間髪入れずに縋ってくる。
 わかりやすい誘導にそれと知って引っかかってるのもわかっている。こんなやり取りは毎回の通過儀礼で、いわゆるお約束のようなものだ。それでも毎回することに意味がある。定番というのは外せないからこその定番だから。
「や、やだぁ……!しずちゃ、が、いいのっ!……ひゃっ!あああ、んっ!やあ、いきなり、なにっ……!」
 静雄がいいと言わせたことに満足して、入口ばかりを弄っていたらしく物足りなさにぱくぱくと動く尻の穴に足の親指を突っ込んだ。手の指も節ばっていて長めの静雄は足の指も長い。しかも手の指よりもずんぐりとした太い足指は、奥までは届かなくても散々弄り倒した浅い部分に新たな刺激を与えた。
 軽く蹴って突き入れ、リズミカルに出し入れしても、ぬるっとした感触でスムーズに進む。くいっと引っ掛けるように指を上下に動かすせば細腰はびくびくと跳ね、ぐったりしていた性器も再び頭をもたげてきていた。
「ケツぐちゃぐちゃ言ってんぞ。どんだけ弄ってたんだよ手前」
「……だって、おそいんだもっ……!!待ってたのに、おそぃ……から、あっ、あっ」
「またちんぽ勃ってきたな。何回出した?」
「んう!や、むり、そんな奥はいんな……!」
 なるべく奥まで押しこむと、その指に吸いついて肉壁が蠢き絞めつける。長さが足りないので足指の付け根まで差し込んでぐるぐると回してやった。
 嬌声がいっそう高くなり、いやいやしながら止めようとしてか太腿で静雄の脚を挟みこんだ。
「ひろがっちゃ……!う、ああっ!」
「おら、脚開け。締めつけきついから大丈夫だろ」
 弱々しい太腿の抵抗を物ともせずに一度指を引き抜くと、そのまま滑らかな太腿を割り今度はぷるんと揺れるペニスを足裏で踏みつけた。もちろん力は加減してある。色んな液体で濡れ滴っているペニスは踏むたびに足裏で形を変え、ぴょこんと先端や陰嚢が横から飛び出すのが面白い。
 やられてる本人は面白いどころじゃないようで、意味を成さない声を上げながら涙と涎が頬を伝っていた。目元に涙を溜めながらうっすらと開けた瞳が、同じく欲を覗かせ見ていた静雄の視線と絡んでたまらない。
「ほんと、エロいよなあ……ほら、そろそろ舐めろよ」
 言えば、臨也の顔に隠しきれない喜悦が浮かぶ。すでに力の入らない腰を何とか起こし、ごくり、と唾を飲み込んだ。薄いレース生地のエプロンがほんのり上気した肌に映えて、それを身に付けた臨也が脚を開いて性器を勃起させているのが明るい照明の下ではっきりと晒され、扇情的な光景にまた下半身が反応する。
 そろそろ本当にきつくなってきたそれに引き寄せられるように臨也が顔を近づけ、スラックス越しに静雄のペニスに頬ずりした。むにむにと頬でひとしきり弾力を味わってからファスナーを下ろし下着をずらすと、勢いよく硬く立ち上がった静雄のペニスが出てきて臨也はうっとりと口づける。
 荒い息が熱くて、唇が当たるとビクンと震えた。すでに先端から滲んでいる雫を舌先でちろちろと舐めながら、細く綺麗な指が陰嚢を揉み、てのひらでその重みを確認する。
「んぅ、重い……溜まってる……?三日ぶりだもんねぇ……んふ、おっきい……」
「……っせーよ。ごちゃごちゃ言ってねーで早くしゃぶれ」
 実際、舐めたくて舐めたくて仕方ないくせに、と静雄は思う。臨也はフェラが好きだ。というより、静雄のペニスを弄っているのが好きだ。
 本人は無意識でしているのかもしれないが、寄り添って眠りに落ちた日の次の朝にガッチリ静雄のペニスを握りながら寝ていたときはさすがに脳がついていかなかった。生理的な朝勃ちで身体はついていってしまっていたが。
 今ではもう慣れてしまったし、そうされればされるほど静雄も興奮してしまう。現に目の前で、根元まで口に収まらないので茎の半ばまで頬張り、両の手指で下生えを梳いたり先走りを絞り出すように下から押し上げられたりの巧みな愛撫も、臨也にされているということで異常なまでの快感を静雄に与えてくれるのだ。
 頬の内側の柔らかい部分で擦られるとまるで後孔に挿入してるのと同じ熱い感触で、歯を立てないように気をつけてるせいで苦しそうな顔に、先走りがどっと溢れる。油っぽいものばかり食べてたわけじゃないが、もしかしたら苦いのかもしれない。挑発するような言葉を投げつけてくるくせに一心不乱に静雄に奉仕する姿は従順ですらある。
 それでも綺麗なままの顔をもっと歪ませたいと思ってしまう。
「んむっ……!う、ん、ん、んううーっ!!」
 丸い後頭部をぐっと引き寄せると喉の奥深く捻じ込んだ。そのまま強く抜き差しを繰り返す。開きっぱなしで顎に力が入らないのか、されるがままの唇がうまく息継ぎが出来ずに吸いついてきて思わずこちらも声が漏れる。
「……ヤベ、出そう」
 居酒屋で思い出してから今日はあの時みたいに口に出そうと決めていた。叩きつけるように自らも腰を振る。相当苦しいのだろう、端から零れる涙は激しく頭を揺すられているせいか、ぱらぱらと周囲に飛び散った。
 引き抜いたときに先端に当たった舌が、再び押し込んだら全体を包みずるりと滑る感覚にぐっと射精感が込み上げる。
 ──あー……出る。
 我慢はしない。久しぶりに精液を吐き出すと目の奥でチカチカと光が点滅し、ぶわっと汗が滲んだ。勢いよく口の中に含ませるのと同時に、脚を開いて膝で身体を支えている臨也の性器をつま先で強く弾く。
 刺激にがくんと腰を落とし、驚いて静雄のペニスを口から出してしまい、まだ全て放出しきってなかった精液が顔に飛び散った。頭は固定したままだったので射精しても硬いままのペニスがビクビクと動き臨也の頬を打つ。自分の目から見ても赤黒く血管が浮いている性器と、透明な白い顔が並んでいる様は何とも言い難い。
 荒い息で肩を上下させる臨也はうっすら開いた瞳にも霞がかって、ぼんやりと続いている快楽に耐えていた。最後に与えられた衝撃で元から張り詰めていた臨也も達したらしいが、飛び散るほどの勢いはなくなったのか、ただだらだらと溢れては流れ、床に水溜まりを作っている。
「……なんで、萎えないの?」
「なんでって……まだ入れてないから、だろ」
 そっか、と、声は出さずに唇で音をなぞった臨也にカッと身体が熱くなるのを感じてどうしようもない。いつもこうなのだ。

 互いに仕事もあるいい大人だ。臨也は自由業に近いとはいえ、静雄は一般的なサラリーマンとほぼ変わらない時間帯に働いている。人付き合いもあって、今日のようにトムに誘われたり、他にも最近になって色んな人と約束する機会が増えてきた。
 臨也がさっき「三日ぶり」と言ったように、こんなことはざらだった。むしろ短いと言っていい。最近は一週間空くのも当たり前、酷いときは半月以上会わないときもある。
 その間を埋めるわけじゃないが会えばセックスセックスで。穏やかに、臨也とのんびり過ごしたいという気持ちは少なからずあるのに、会って視界に入れただけで、どうしてもムラムラしてしまい傾れ込んでしまう。何度吐き出しても満足できなくて結局別れる時間まで繋がったままのときもある。
 熱に浮かされた状態がずっと続くのは、正直しんどかった。臨也の方も同じなのか、どんどん変な誘い方をしてくるのも歯止めを効かなくしている原因だ。これに耐えられる人間がいるならお目にかかりたい。
 それでも臨也の質の悪さは、この裸エプロンのような直接的なものじゃなくて。
 今、目の前で。耳に届くか届かないか程度の震える声しか出せなかったり。人の精液を恥ずかしげもなく飲んでみせるくせに、静雄からの欲に少しだけ俯いて頬を染めてみたり。どれだけ無茶をしたときも大丈夫と笑う声が掠れていて、誤魔化そうと咳払いを繰り返したり。
 その全てが質の悪さだと、静雄は思うのだ。
 押さえつけても、一方的に痕を残しても、捕まってるのは静雄の方だ。この関係の主導権を握っているのは自分じゃない。そしてその檻をいつでも抜け出せるのに静雄は内側から鍵をかけた。
 それが臨也に対する静雄の気持ちの全てだった。

「じゃあ……もう、入れてよおっ……!!」
 耐えきれないとばかりに小さな声で叫ぶという器用なことをやってのけた臨也に覆い被さった。こっちだってもう限界なのだ。
 ここにきて初めて至近距離で見た臨也の顔は、涙で目元が赤くなり一見では清純そうな表情がかえって静雄の下腹部を刺激する。そんなことも知らず、顔が近付いたことがそんなに嬉しかったのか、臨也にしては余裕のない仕草で唇をぶつけてきた。
 思えばキスも三日ぶりだ。するっと入り込んできた舌に絡ませれば、熱い息まで閉じ込めようと先に吸い上げ薄目を開けて反応を待つ。キスの間に目を開けるのは静雄の密かな楽しみだった。近すぎて焦点が合わないくらいの距離でも、長すぎる睫毛が震える蕩けた表情を見てると、もっと隙間なく溶けてしまうくらいに身体を密着させたくなる。
「ん、ん……、は、しずちゃ、もう、」
「わかってっから……ここに」
 押し倒した身体は適度に筋肉が付いて出来のいい彫刻のようだ。でも静雄はその作り物のような身体がどれだけ貪欲か知っている。それを本人に突きつけ、羞恥心を煽るのがたまらないのだ。それを実行に移すため弾力のある尻肉を両手で割り開くと、指で後孔の縁をくるくるとなぞった。
 穴の周りは臨也が自分から出たものを塗りこめていたのか、すでにベトベトに濡れていて。指が今にも入り込みそうなのが気になるのか、きゅっきゅっと力が入って蠢くのがわかる。今度は焦らさない。
 中指と人差し指を一気に根元まで突っ込んだ。
「ひぃ……!ぐ、んぅ……や、やあああっ!」
「なんだよ……ここに入れて欲しかったんだろ?」
「そ、だけどおっ!……あ、やだ、やだ、きもちい……」
 ぐちゅりと音を立てながら奥深くまで差し込んだ指を腹の方に軽く曲げたあたり、そこに臨也のなけなしの理性を吹き飛ばすポイントがある。
 少し盛り上がったそれを指先に力を入れて擦れば、口端から飲み込む余裕もなくした唾液を流しながら矛盾した言葉を口にする。どっちだよ、と形のいい貝殻のような耳に唇を当てて笑う静雄の声にも反応するのか、指がぎゅっと締めつけられるので、小刻みにバラバラと振動させて嬌声と食いつきをさらに引き出すことに専念した。
「う、あ、もっ……と、おくに、ほしっ……」
 やはり指では全て満たすことができずに、肝心の刺激が与えられず焦れて腰を振りだす。臨也のペニスは完全に勃ち上がっていて、もともと濡れていたのに新たなカウパーが先端から噴き出すほど溢れていた。それを腰を揺らして静雄の腹筋に擦りつけようと必死だ。
 その様が浅ましく──愛おしく感じずにはいられない。
「そんなに俺のちんぽ入れてほしい?それとも擦るだけでいいか?」
「……しずちゃんの、ちんぽいい……の」
「この中にちんぽ入れていいのか?ん?」
 こんな風に、と、三本に増やした指を激しくピストンした。
 粘膜はもうどろどろで、それでも衰えない圧迫感に、早くここで擦って快感を得たい気持ちのまま首筋を吸って白い肌に朱を散らす。
「いれて、はめて、……いっぱいおれでこすって……?」
 俺で擦って気持ちよくなって、と言われて我慢できずに凶悪なまでに怒張したペニスをひくついた後孔に押し当てた。当てただけで力も込めていないのに、カリまで一気に飲み込まれる。
 カリ高な静雄のペニスに内壁を擦られ、声もなく臨也が仰け反った衝撃で残りもぐんと勢いよく臨也の最奥まで突き進んだ。深く、陰嚢がぶつかるまで繋がった瞬間、臨也のペニスからまた精液が漏れたが、今度は先ほどと違い申し訳程度に飛んで自分の胸を汚していた。
「ああっ、あっ!いった、いっちゃっ……!ん、ん、んうっ!」
「……俺はまだ出してねえよっ……!!」
 入れただけで出しやがって、どんだけエロいんだよと言葉で嬲れば、ぬるついた粘膜が収縮し包み込む。ゴリゴリと擦れば引くときにカリが前立腺を引っ掛けて、その都度律儀に臨也のペニスから白濁が零れた。
 上がり口の床は色んな体液でぬるぬると滑り、硬いフローリングに押し付けたままでは臨也の身体が痛いのではないかと、繋がったまま持ち上げ自分の腕を間に挟んでクッション代わりにし壁にもたれさせる。ほんの数秒の移動だったのに無理に体勢を変えて中の良いところを突いてしまったようで、臨也の身体はくたっと弛緩したままズルズルと崩れ落ちそうだ。
 力の抜けてる腕を頼りないながらも首に回させ、しなやかな片脚を持ちあげ腕に抱える。落ちそうな腰はこのまま中に穿ったもので支えてやればいい。
「やぁらっ……!しうちゃ、つよい、い!あ、あ、ぐりぐりやあ……!」
 角度が変わったのと、自分を支えることができない臨也の自重でさっきよりずっぽりと入り込んだ性器を、最奥に含ませたまま肉の吸いつきを確かめるように揺すって回転させた。どんなに動かしてもヒクヒクと絡みつく内壁に満足して、再び抽挿を繰り返す。
 意味を成さないほどに肌蹴てただ引っかかってるだけのエプロンの合間から、触れてもいないのにしこり立った乳首が見え隠れして、こねてやりたいのに手が足りない。仕方なしに少し背中を丸め、飛び散った精液と一緒に舌で舐め上げた。
「も、らめ、いっちゃ……!」
「中、出すぞっ……!」
 臨也とこういう関係になってから、一度も外に出したことはない。一滴残らず臨也の中に注いできたのでそれが当たり前なのに、それでも聞いてしまうのは舌足らずに求められたいからかもしれない。
「だして、いっ、ぱいにしてえっ……!しずちゃ、だ、して、あ、あーっ!!」
 強請られてる間にギリギリまで引き抜き、何度も中を犯す。とにかく出したくて、早いストロークで腰を振ると、案外早く絶頂は訪れた。
 ぶるっと震えて、熱いものが大量に臨也の奥深くで弾けるのがわかる。長い射精はなかなか終わらず、残滓を吐き切ろうとビクビクと不規則に快感に蠢くペニスをいまだ収縮する内部で揺らめかせた。
 こちらも色の薄くなった精液を途切れ途切れに吐き出しながら、がくがくと最早立っていられない臨也は、突き入れられたペニスでしか体重を支えることができずに、過ぎた快感に身を委ねたまま意識を飛ばしかけている。うわ言のように、あつい、あつい、と口から零れているのに、まあ寒気ではないだろうが身体はぷるぷると震えていた。
 宥めようと触れるだけのキスを顔に降らせる。こんな甘ったるい行動も今では自然とできるようになっていた。もう少し、少しでも長く溶けていたい。
 最後にぷっくりと膨らんだ唇を吸ったときに、僅かに意識が浮上した赤みがかった瞳が切なげに瞬く。同じ気持ちを共有しているのだとわかれば、他に言葉は必要なかった。
 欲は果てがなく、いつまでこうしていられるのか考えることは放棄して、もう一度行為に没頭するために場所を移動しなければ、と、薄い身体を持ちあげた。





 次にいつ会えるのか、そればかりが頭を占める。
 いつの間にこんなにのめり込んでしまったのか。普段から自分だけがこんなことばかり考えてしまって、それを知った臨也が気を遣って妙な誘い方を仕掛けてくるのだ、と静雄は思っていた。
 気付けば臨也なしではいられない。この身体を抱けないなどと考えたくない。酷く汚して、自分しか見えないように閉じ込めてしまいたかった。
 ──そんなこと出来る筈もなく。
 それでも今この瞬間だけは自分だけのものと身勝手さに自嘲しながら、静雄はその日何度目かわからない精液を臨也の中に流し込んだ。



←back