ただ、臨也には気になることがあるのだ。むしろ耐えられない。だから早く身体を流したい。 「ちょ、ホントにさ、あっ!……やめろって……!」 「ここでやめるとか無理にきまってんだろ」 性器同士がぬるぬると滑る。静雄が緩く腰を回すものだから、制止しようと脚をさらにぎゅっと狭めたら、逆に下生えが絡むほど肌が吸いついた。 腰の震えが止まらない。濡れて擦り合わせたペニスも、快感でビクビクと震えていた。こうして性器を合わせていると静雄の大きさまで感じとってしまい、息が弾む。 わざとらしく先端で先端をつんつんと突かれて、互いの割れ目から粘ついた液が糸を引いた。それがたまらなく卑猥で、見たくもないのに目が離せない。 「手前だってタマまでパンパンじゃねーか」 「う、余計なこと言うなっ……!もう……近いってば!」 「なんだよさっきから。なんか隠してんならさっさと言え」 あまりにもぐずぐずと釈然としない態度を見せる臨也に、無理と言っていた静雄もさすがに動きを止めた。 与えられていた刺激が止むと、浅ましくもその箇所がじんじんと疼く。それを堪え、この隙に押さえ込んでる身体の下から抜け出そうと試みるが、新たな刺激に今度はひゅっと息を飲んだ。 「いっ……!いた、や……やだっ!」 つん、と、主張していた胸の飾りを親指の腹でぐりぐりと潰される。もう片方は厚ぼったい静雄の唇に食べられた。 音を鳴らしてちゅうちゅう吸われながら合間に問い詰められる。 「逃げんな。このまま言え」 ねっとりと這う舌に色々な部分で限界がきて、しぶしぶ口を開いた。声にミュートがかかったのは仕方ない。 「俺、……臭くない?」 「あ?もっとでけえ声で言え」 ぎりっと乳首を摘ままれる。すでに痛みよりも痺れるような快感を拾っていたが、それはそれで耐えられない疼きが身体を支配していくので辛い。 凶悪な顔で凄まれ、やけくそで怒鳴った。 「……っ!だから!俺はね、飲んでたときから暑かったの!混んでたし、しかもその後歩いてきたし!汗だってダラダラだったわけ!制汗剤とかコートに入れてたしね、もう気になって気になって……」 「いつものノミ蟲臭しかしねえぞ」 「…………っ!!」 ぷっつんと何かが切れてしまって、怒涛のようにぽんぽんと言葉を吐き出す臨也を遮って、胸に寄せていた唇を脇へとスライドさせた静雄は鼻を押し当て思いっきり臭いを嗅ぎだす。 あまりのことに絶句してわなわなと震えるしかできない。たとえ念入りに風呂に入った後でさえ、そんな風にされるのは絶対にごめんなのに。 「……デリカシーとか、ないのかよっ……!」 「ああ?デリカシーねえのは手前の方だろ」 くだらねえことでストップかけやがってよお。 言うと、ずっと乳首を嬲っていた手が、今度こそ明確な意思を持って下肢に触れてきた。 さっきよりも後ろへ伸びた指先が尻の窄まりを円を描いてなぞる感触に、何か言い返そうとしても意味の成さない声しか出ない。むず痒くて腹に力を入れると、穴がぱくぱくと静雄の指先を少し飲み込んでしまう。 じたばた動いていたので全身くまなくローションに包まれていたせいか、そのまま指が一本、つるんと何の抵抗もなく根元まで入ってきた。 「うおっ」 静雄も驚いたのか、指を引きかけるのを反射で粘膜がきゅっと締め付ける。自分でも知らず勝手に反応して、それを静雄に見られてると思うとますます収縮が激しくなった。 「あ、あ、シズちゃ……なん、なに、ゆびいっ……!」 喘ぎ声が耳につく。それにも負けない静雄の荒い息が興奮を伝えてきて、どんどん昂っていく。 いつの間にか指は二本三本と増やされているのにも気付かないほど、スムーズに慣らされた。途中から涙が溢れて何度も「痛いか」と訊かれたけど全てに頭を振って答える。 痛くはない。それが怖かった。 体内の異物感は思った以上に丁寧な指づかいが、すぐに快感に変えてくれる。臨也の声と中の反応でわかるのか、過度に前立腺を責め立てられ一度我慢できずに達してしまっていた。 出した精液を手のひらで受け止めた静雄は、それを臨也のペニスに塗って先端にキスを落とす。そのままじゅる、と、ひと吸いすると、名残りでびくびくと震える先から精液の残滓がぴゅぴゅっと飛び散った。 「や、んんっ!あっ、あっ、あぁっ」 「わり、もう入れてえ……」 静雄が何度も唾を飲む音。それと粘膜を擦る音で耳から犯される。 「臨也……いざや。入れていいか……?」 見上げた静雄は頬を上気させ、切なげな表情で。それだけで許せてしまえると思った。でも、やっぱり確かめておきたい。 セックスの最中ならなんとでも言える。特に男は。 わかっていても、確実なことなんてなくても、それでも言葉に出せばこの行為の後の結果がどうであれ、それを理由に縛り上げることができる。 「シズちゃん、好き、好き……」 「…………!」 腕を精一杯伸ばして首に絡ませた。聞こえるか聞こえないか、小さい声で。それでも引き寄せて抱きついたまま耳の中に吹き込んだ声は届いたはず。 「……!?ひゃああっ……!」 静雄が息を飲む音がして、ぶるっと震えた。 その瞬間、十分に潤んでいた臨也の穴に勢いよく何かが流れ込んで、さらにぬかるんでいく。 待ち切れなかったのか自身の先端を臨也のそこに当てていた静雄が、そのまま入り口で達して精液が中に吸いこまれたのだ。 「……くそっ、煽んじゃねえよっ!」 唸るように吐き捨てた静雄の硬度を保ったままの性器が、精液と一緒に流れるまま、ぐい、と、侵入してくる。大きく張った傘の部分が飲み込まれると、出された精液が静雄の太さに圧迫されて繋がったところから漏れた。 これでもか、というくらい潤んでいる尻穴に根元まで一気に押し込むと、静雄は中の痙攣を味わうように小刻みに揺さぶって溜息をつく。 内側でますます大きく膨らんでいく静雄のペニスの形そのままに、臨也の穴が広がっていった。自分の身体が作り変えられることに、恐怖や背徳感が溢れて、それすらも快感のスパイスになる。 「やべえ……すげえうねってんな」 「やぁっ……!だめ、だめ、触んないでっ……!こすっちゃ、やだって、あ、んっ!」 静雄が抽挿を繰り返すたびに吸いついた肉壁が引きずられていくと、ぞわっとして何度もそれを締め付けてしまう。 びくびくと跳ねる身体を堪能しながら、静雄の指が反り返った臨也のペニスを激しく擦った。あまりの快感に達しそうになる。 「あー、マジで、長くもたねえかも」 インターバルは少しだけで、すぐに叩きつけるように腰を振られる。パンパンと肉がぶつかる音と共に、最初に出された精液がかき回されて泡になって結合部から垂れた。 「なあ、中、出していい?」 「え、ぅあっ!あっ!さっき、出したぁ……んんー!の、に」 「つーか出す、から」 断言し、腹をさらりと撫でる。 奥にいっぱい出してやる、と、耳に吹き込まれ、耐えきれず軽く達した。その衝撃でぎゅうと狭まった中を静雄がスピードを上げて抉る。 その間も止まらない精液でダラダラと幹を汚しながら意識を飛ばしかけた臨也に深く口づけると、低く呻いて静雄も中に放出した。 長い射精を身体の奥で感じる。熱い。 一滴残らず内壁で擦りながら絞り出して注がれ、出した精液を腰を回して奥に奥にと詰め込まれる。汗で霞んでうまく開けない目で虚ろに見上げれば、意外に真面目ぶった顔の金髪がいて。 なんとなく安堵した臨也は一旦意識を手放した。 ようやっと浸かれた浴槽で、ぼーっとしながら背中に感じる温もりに寄りかかる。 乳白色のお湯は臨也のリクエスト通り柔らかくいい匂い。少し温いが火照った身体には丁度いいくらいだった。 背後から臨也を抱き込んでいる男は、首筋を唇で辿って吸っている。 「痕、残さないでよ。そこ、見えるから」 「見えねえ服着ればいいだろーが」 簡単に言ってくれるが、すでに今コートを置いてきてしまった臨也にどうしろというのだ。 ちゃぷちゃぷと悪戯にお湯で遊びながら考える。 結局、すぐに意識を取り戻したあとも、静雄の気が済むまで身体は繋がったままだった。 何度も中に出され、滑りは良かったものの擦られ続けた粘膜はヒリヒリと痛んでお湯がしみる。まだ何か入ってるような感覚も消えない。 ──これで何か変わったのか? 変わったといえば変わったのかもしれない。身体を重ねれば情が湧く。そうじゃない人間もいるだろうが、間違いなく静雄はそのタイプだ。今まで関係を持った女だって無碍なことはしていないに違いない。 それと違い、臨也は最初から静雄だけが特別だった。どうしても自分のものにしたくて、高校時代のあれこれだって臨也の無駄な努力で静雄を構い倒していたようなものなのだ。 心の中でこじれにこじれたそれが、こういう関係も許容できる感情にまで発展するとは思ってもいなかった。でも、後悔はしないと決めた。 あの、非常階段で。俺のものだと言われたとき本当は。言わなかったけど本当は。 「腹減った」 雰囲気を壊す、全く色気のない台詞に思考が遮られ現実に戻る。 そういえば静雄は今日、開店前からあの店に入っていたと言っていた。ヘルプといっても池袋では目立ちすぎる容姿だ。大方、カウンター内ではなく、裏でドリンクを作ったりしていたのだろう。 これでも怒らせなければ仕事ぶりは真面目だし、手先も器用なので案外上手く立ち回ることができるのだ。 「俺もお腹すいたな……フードサービス24時間やってたと思うから何か頼もうか」 頷いた静雄が立ち上がる素振りを見せたので、浴槽の縁に手を付いて身体を起こそうとするけど無謀だった。腰も足もガクガクと力が入らない。 入る時も静雄に担がれながらの入浴だったので、当たり前と言えば当たり前だ。 「ちゃんと掴まっとけ」 もたついていたら、入る時と同じに持ち上げられた。お姫様抱っこだけは全力で拒否したので、小さな子供を抱き上げる姿勢で片腕に座らせられると肩口にしっかり手を置き掴まる。 目線が静雄より高くなり、ホテルに来る前、階段で同じ視点で考えたことを思い出した。 「シズちゃん」 「なんだ。……おい、もっとしっかり手え回せ。落ちても知らねえぞ」 根元がほんのちょっとだけ黒い金髪の旋毛を眺めながら、もぞもぞとその頭を抱え込んだ。濡れた髪に顔を埋め、ぽそっと呟く。 「いいの?」 臨也は後悔しない。しかし、静雄はわからない。 二人をよく知らない周囲の人間の評価はトントンかもしれないが、静雄が常人となんら変わらない感性で生きていけるのだということは臨也が一番よく知っている。 それを捻じ曲げてきた臨也だから知っている。 難しいのは臨也の方だ。周囲に溶け込んだふりをしながら溶け込めない自分をよく理解し、冷めた目で客観視して生きている。 熱くなるのは静雄のことだけ。いつだって感情を揺さぶるのは目の前の男だけなのだ。 「手前はよぉ……余計なこと考えすぎなんだよ」 ガンっと。目の前に火花が散った。 この額の痛みには覚えが、というか数時間前に経験したばかりだ。 「っつー……!デコピン、は、やめてくれないかなあ!?いいかげん俺のおでこ陥没しちゃいそうなんだけど!」 「耳元で喚くな。いいか。逃げようったってもう無理だからな」 「は?」 怒ったように、ひたすら顰められた顔は真っ直ぐに臨也を見ていた。 その薄茶色の瞳の中には自分だけが、臨也しか映っていなくて。 「俺のもんだっつったろ」 ああ、これはもう無理だ。捕まった。 出会ったときから静雄だけが他と違っていた。欲しかったのだと、今ならそう思える。 答えの代わりに笑みを浮かべ、間近で拗ねて唇を尖らせた静雄にキスを落とす臨也は、頭の中で縺れた糸が解けていくのを感じる。こじれ、こじれて絡まった糸。それは長くて解くのも時間がかかりそうだけど。 とりあえず、次に静雄の仕事が休みのときには波江と研究した手料理でも振舞ってあげようと考えながら、今はホテルの味気ない食事も我慢する覚悟を決めた。 ←back |