「また泣いてんのか」 いつものように、ナツが勝手に部屋に入るとベッドの上で寝転ぶルーシィ。目は腕で隠されていて、表情が分かりにくい。 「泣いてないよ、ちょっと反省中なの」 「じゃあ手どけろよ」 「…やだ」 「そうかよ」 ルーシィの隣、ベッドの上に腰かける。 「またアイツ?」 「…」 「図星、か」 今日は何度目だったか、と思考を巡らした。 涙なんか見たくない 仕事の日以外は、ほぼ毎日行くルーシィの家。口では文句を言いながらも結局受け入れてくれるルーシィがいて、そこはとても温かい。 けれどその日は違った。 「…ごめん、帰って」 窓を開けた瞬間、振り向きもせずそう告げたルーシィ。はいそうですか、と帰るような自分じゃない。 「なんだよケチだな」 ふざけてるのか、と呑気に考えて正面に回り込んで顔を覗くと――目を赤く腫らしていた。 「ルーシィ…?」 「ん、ごめんね」 無理して笑おうとしたので、その頭を胸に押し付けた。びくり、と肩を震わしたルーシィは"ナツは仲間に対して優しいね"と、そう言って静かに泣き始めた。 聞けば、好きな人がいてそいつと何かあったらしい。 ――ルーシィに好きな、ひと… あの時ハッキリと自覚したルーシィに対する想いは、きっと伝わらない。 ぎゅ、と手が冷たい手に握られて、ハッと回想中の脳内が現実に戻る。 「ルーシィ、手冷たいな」 「うん」 あまりに冷たいので、はぁと自分の息を吹き掛けた。一瞬、手が強ばったが、すぐに力が抜ける。ルーシィの手は、柔らかい。 「今日は…例のヤツと何があったんだ?」 「不用意に近づいてきたから、思わずやめてよ、て声張り上げちゃったの」 「ふーん」 「そしたらそれきり会話がなくて」 失敗しちゃったな、て思ったの。 苦笑いをするルーシィは、酷く小さくて今にも泣き出しそうだった。例のアイツはルーシィがこうして悩んでることを知らないのだろう。 自分の気持ちが伝わればいいのに、と手に力を込めた。 「…どんなヤツ?」 「彼のこと?」 「ん」 「うーん、無邪気、かな。自覚なしにいろいろ仕掛けてきて、男女とかそういうのが彼の中にないって分かってるつもりなんだけど、つい期待しちゃって。そうして勝手に私が裏切られて。全部空回り」 ルーシィにそんなふうに想われるヤツが本気で羨ましいと思う。 今日はギルドでルーシィと話しているときに光る金糸に触ろうとしたらやめて、と拒絶された。アイツ以外に触られたくないのかよ、と少し傷付いてそれきり話してない。ルーシィは、あの後アイツに会いにいったのか。 長い時間共有してるのはオレだけ、だと思ったのに。 あの日、初めてルーシィが独りで泣いてるのを見たときだって、そうだった。ずっとオレといたのに。ただ帰り、一緒に帰ろうと言われたタイミングでリサーナに話しかけられたから断って。じゃあルーシィはその後アイツと会ったのか。 「好き、なのか?まだ」 「うん、好き」 あーあ、と言いながら、つう、と頬に一滴流れた。 その涙を見た瞬間、頭の中で何かが弾けた。 もういいや、例のアイツの気持ちとかとかルーシィの気持ちとか。もうどうでもいい。ただ、誰よりも笑顔が似合うルーシィが笑ってくれれば。アイツのせいで泣くのをやめて、オレと笑ってくれれば。 笑え、笑えよ。 でも、何をするべきか分からなかったから。 小さなルーシィの唇に自分のを押し付けた。 「好きだ。ルーシィが、好きだっ…!」 精一杯の想いを乗せて。 |