今夜は流れ星が見えるかもしれない


肘をついて手に顎をのせ、最近の自分は変だとぼんやり考える。例えばルーシィの顔や声や仕草に、心臓が他の人のそれとは違ったリズムを叩いたり。例えばルーシィと他の人との会話が気になって、盗み聞きしたり。今も、ルーシィがギルドにまだいるから、だから家に帰りたくないなんて、馬鹿みたいな事を思っている。

あ。笑った。
だらだらと考え事をしながらも、ナツの視線の先にはルーシィがいる。レビィと話しているとき、彼女はいつも楽しそうに笑った。自分の時はどうだったけ、と目を閉じて脳裏に写し出す。
と。
がたん、と大きな音をたてて誰かが隣に座った。一瞬期待して、けれど良く知っている煙草の臭いに気付き、眉を顰める。

「ナツさんよぉ、」

少し呂律が怪しいので何かと思えば、グレイの手には酒の入ったグラス。酔っ払い、と呟くと、あぁ?と睨まれた。
が、いつものようなケンカには発展せず、グレイは酒でごくりと喉を鳴らし、ナツはふい、と視線をそらす。再び視界に入ったルーシィは、何やらカナに絡まれていて、頬を赤く染めていた。

「見すぎだろ、お前」
「は、」

何言ってんだ、と続けようとしたが、意外にも真剣な表情のグレイに言葉は飲み込んだ。じっとこっちらを見てくるグレイは何を知っているのだろうか。どこまでも黒い瞳に吸い込まれそうだ。

「…無意識、か」

そう小さく呟いたかと思うと、カナ、レビィ!とルーシィの周りにいる女子を呼び、マカオ達の所へ行く。一体何なんだ、ルーシィを見ると、彼女も不思議そうにしていた。無視するのも変だしな、と誰に対する言い訳か分からないことを考えながらルーシィの隣へ移動した。

「…まだ帰らねーの?」
「ナツこそ」
「オレは、いい」
「そう、じゃあ私も」

何に緊張しているのか、手は少し汗ばみ、喉の奥が渇く。いつものようにテンポの良い会話ができない。普段、何も考えずに発言している自分が恨めしかった。

「…さっき、グレイとなに話してたの?」
「あ?特になにも」
「そうなの?見つめ合ってたから仲良いな、て思ったんだけど」
「気持ちわりぃこと言うなよな」

鳥肌立ったぞ!と腕を見せると、あはは、とルーシィが声をたてて笑う。さっき見たレビィとの会話と同じように彼女は笑っていて、安心した。

「帰ろーぜ!」
「えぇ!?」

ほら早く、と腕を引っ張ると待って、とルーシィが慌てて仕度をする。

「さっきまだ帰らないって言ったじゃない」
「そうだっけ?」
「そうよ」
「あー、まぁいいじゃんか。それより今日の夕飯なんだ?」
「一晩寝かせたカレーよ!って食べてくの!?」
「当たり前だろ」

もう!と頬を膨らまして怒るルーシィ。いつもの感じだ、と心がほくほくする。気付けば心の中のもやもやも、なくなっている。

「ルーシィといると、いーのか」

ぼそっと呟いたその言葉に、何?とルーシィは首を傾けた。なんでもねー、と言ってルーシィの手を掴む。ぎゅっと、その手に力をいれて、ナツは家へ向かって走り出した。
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