この距離、温度ギルドでナツと接触してから一週間が過ぎた。 あの後も、私は変わらずにギルドへ行って、仕事をして。 けれどあの日以来、ギルドでナツを見ていない。 ――私のこと嫌いになったのかな。 いつか来るその日が怖くて逃げ出して、私から距離をとってこの間は酷いことを言って。 嫌われるなんて、当たり前なのに。 覚悟ぐらい、してたのに。 ――心のどこかに穴があいてしまったような、この虚しさは何だろう。 はぁ、と大きく溜め息を吐いて目の前にある紅茶を一口飲んだ。 例えば、他の誰かを好きになったらこの穴は埋まるのかな。 今は、無理だけど。 でもこうやってナツと距離をとり続けて、ちょっとずつ、ナツへの想いを減らしていって、その分誰かに想いを寄せて。 そうして他の誰かを好きになって。 そしたらまた、ナツと仕事に行けるのかな。 …――なんて。 は、と思わず自嘲気味に笑った。 そんなこと、できるわけないのに。 それに、ナツは私のこときっと嫌いになったから。 仕事行きたい……会いたい、なんて、今更どの口が言える。 つ、とカップの中に残っている紅茶を喉へ流し込んだ。 ちょっと早いけど、もう寝よう。 そう思って椅子から立ち上がると、こんこん、と遠慮がちに玄関の扉が叩かれる音がした。 「はい」 ナツの前にティーセットを置くと、机がことん、と小さな音をたてた。 「久しぶりね、ナツが来るの」 くすり、と笑ってそんなことが言える冷静な自分に、少しだけ驚いた。 ノックされた玄関を開けると立っていたのはナツだった。 伏し目で遠慮がちに入っていいか、と尋ねられて思わず家に入れて、紅茶まで出してしまって。 卑怯よ、今までは勝手に入ってきてたのに。 すとん、とナツの向かいに座るとじっと手元を見ていたナツが顔を上げた。 「あのこと、ずっと考えてたんだけど」 あのことって、ギルドでナツに言ったことだろうか。 分からない、ナツには、私の気持ちが分からないって。 「分からなかった、でしょ?」 「分からなかった」 ほらね、と自分に言い聞かせるに小さく呟いた。 心の奥で、少しだけ期待していた。 ナツが気付いてくれるんじゃないかって。 けど、やっぱりナツは分からなくって。 少しだけ、泣きたくなった。 「わざわざそんなこと言いに来たの?」 なら帰ってよ、と言うと、その顔、と言われた。 「え?」 「最近のルーシィ、俺を見る度そんな顔してて」 そんな顔って何よって言いたいけど、きっとそれは泣きそうな顔。 「その顔させたくないから、ルーシィに会わないようにしてたんだけど」 ――なん、だ。 じゃあギルドで会わなかったのも、嫌われたわけじゃなくって。 ナツが気をつかってくれたからで。 「でも、もうルーシィが足りない」 「足りないって、」 なによ、と全部を言い終わる前に、目の前には桜色が広がっていて。 抱き締められてるんだって気付いたときにはもう、体温も呼吸も心臓も、何一つ正常に機能してなくて。 ただナツだけを感じてて。 あぁ、これだ、とすとんと胸の中に何かが納まった。 結局、ナツなしじゃ私は生きていけない。 離れられるのが怖い私が、今、ナツが抱き締めてくれてることが嬉しい私が、ナツから離れるなんて無理で。 触れ合う肌が教えてくれるそれは、決して自惚れなんかじゃなくて。 ――ナツも私と同じ気持ち。 「ね、一緒に仕事行こうよ」 「いいの、か」 ナツが腕の力を緩めて私と視線を合わせる。 うん、と小さく笑って答えると、やっと笑った、と安心したように呟いた。 |