a half-eaten doughnut「おい、ナツ!あたしのドーナツ勝手に食うな!」 ん?と口にドーナツをくわえたままカナを振り返る。 返せっ!と手を伸ばして叫ぶカナを横目に、そういえばドーナツのそばには酒があったかもしれないと思い出す。 今くわえているこれも――酒くさい。 「ほらよ」 一回意識すると感じずにはいられなくなる酒の匂い。 あまり得意ではない匂いを発している食べ物をわざわざ食べようとも思わない、くわえていた部分をかじって、大人しくカナに返す。 返ってきたドーナツを嬉しそうに眺めた後、ばくり、とそれにかぶりつくカナから視線を外し、ついっとバーカウンターの方へ目を向けて――おや、と首を傾げた。 いつもなら蜂蜜色があるそこには開きっぱなしの本と、皿の上にのっている食べかけの何かのみ。 ふらり、とそこに近づくと食べかけの何かはさっき食べ損ねたドーナツと同じものだった。 酒くさかったが口に広がる甘さがちょうど良かったそれはとても美味しく、一口しか食べられなかったのが残念だった。 よっしゃ!、とドーナツを手にとり大きく開いた口に放り込もうとして、はた、と動きを止めた。 目を寄せている今の顔をグレイが見たら変な顔だとバカにするかもしれない。 そう思いながらもナツは目にぐっと力を込めて一点を見た。 ルーシィの、食べかけ。 歯形の付いたそこにつ、と舌を突き出して触れてみる。 ピリッと体に電気が流れたような刺激が走り抜けた。 「あー!ちょっとナツ!もしかして食べたの!?」 後ろからかけられた声に慌ててドーナツを皿の上に戻す。 食べてねぇ、と答えると、ウソよ!と大きな瞳に睨まれた。 「さっき手にドーナツ持ってたじゃない!」 「だから食ってねぇ」 「ウソよ、だってドーナツ少し……あれ?」 ドーナツを持って、減ってない…?と首を傾げるルーシィにもう一度食ってない、と告げる。 「まさかナツが食べてないなんて…」 ドーナツ嫌いなの?と聞かれていや、と否定する。 何で食べなかったのか分からない、何故かルーシィの食べたところが気になってしまった。 今でも舌先にあのときの感触が残っている。 今まで感じたことのない、何かとても大切なものに触れた気分だった。 ナツの否定の言葉にふうん、と呟いてルーシィはいただきます、と小さな口にドーナツを入れた。 口に入っているのは、ナツの触れたところ。 ナツがその様子をどこか落ち着かない様子で見ていると、くすり、とミラの笑った声がした。 ん?とミラに目を向けると、ナツにしか聞こえない声でポツリと呟いた。 ――間接キス。 「き、」 「き?」 突然発せられた奇妙な音にルーシィがナツを見ると、何故か頬が赤く目が左右に動いていた。 「ききき、」 「…ナツ?」 「き、す…!」 びゅっと、光の速さでギルドを飛び出したナツを呆然と見送るルーシィ。 近くでクスクスとミラの笑い声がした。 |