煩い心臓、誰のせい?「キスをしましょう」 その声に、ナツは窓から片足を入れたままの状態で固まった。 「キスをしてもいいですか?」 今度は疑問系のそれにハッと我に返って声の主、ルーシィを見る。 椅子に座り、机に向かっているルーシィは壁に向かってぶつぶつ呟いていた。 「キスってなんだよ」 背後から声をかけると、ひゃあっ!と悲鳴を上げてこちらを見た。 吃驚するじゃない!と声を荒らげるルーシィをひょいっとかわして、机の上を見ると何枚かの紙と書きかけの文章があった。 「あー、小説か?」 「そうよ」 見ないで、と言わんばかりに紙の上に腕をのせる。 興味ない、とひらりと手を振れば、それもムカつくわ、と言われた。 「で、キスってなんだよ」 キスの意味ではなく、キスと言っていた理由。 教えろ、と言うとそうだわ!とルーシィは手を合わせた。 「今小説でキスシーンを書いてるんだけど、分からないの。ナツなら女の子にキスする前に何て言う?」 キスしたいです?キスするぞ?キスしていい? どれを言う?とこちらを見上げるルーシィを見ながらナツは体が疼くのを感じた。 大きな瞳でこちらを見上げるルーシィの小さな口から紡がれるキス、という単語。 自分に言われているわけではないと分かっているが、妙に気恥ずかしい。 何も言わないでいると、ルーシィが答えを催促した。 「な、何も言わねぇ!」 は?とルーシィは眉間に皺を寄せた。 「何も言わないってなによ」 ええと、と慌てて考える。 咄嗟に出した答えだから何も考えてない。 「う、奪うんだよ」 「奪うの?何も言わないで?」 ふっと、頭にいつだか目にしたキスシーンが浮かぶ。 どういうこと?と首を傾げるルーシィに言葉で伝えるよりも行動だ、と手を伸ばす。 「こうやって、」 ぐいっとルーシィの顎を掴んで自分も近づき、距離を縮める。 突然のことに大きく見開かれたルーシィの瞳に自分が映る。 互いの息が互いの唇に触れる距離。 キスって、こんなに近いもんなのか…? ドキン、と大きくナツの心臓が跳ねた。 それを合図にナツは慌てて手を放して、ルーシィと距離をとる。 ルーシィもハッと我に返り、ごにょごにょと口の中で何か呟きながら体の向きを机に戻した。 ドクドクドク、と大きな音をたてる心臓。 ナツはそっと右手を心臓に当てた。 煩い心臓、誰のせい? |