「ほらルーシィ、あーんして?」
「ちょっと…!」

右手にスプーンを持ち、ね?と微笑みながら首を傾けるロキと両手でグッとその顔を押し返すルーシィ。

「スプーンぐらい持てるから!」

そう言うルーシィの人差し指には白い包帯が巻かれていた。

唇に残る君の体温



昨日の夕方のギルドからの帰り道。
買ったばかりの新品の靴がいけなかったのかもしれない――ルーシィは何もないところで派手に転んだ。
幸い大きな怪我はなく、右手の人差し指を突き指しただけですんだ。

「ルーシィ、ほら」

右手に持つスプーンの上にグラタンを乗せ、口を開けろと要求してくるロキ。
一体誰から聞いたのか、お昼にグラタンを食べようとしたルーシィの前にいきなりロキが現れた。

「しないって!」

人差し指を突き指しているだけだからスプーンぐらい持てる、何度もロキにそう言っているがやめてくてない。
きっとからかっているのだ。

誰かいないかしら、と辺りを見渡すとナツと目が合った。
助けて!っと視線を送ると、ナツがこちらに近づいてきた。

「何してんだ、お前ら」
「ルーシィにご飯食べさせようと思って」

ニコニコ笑いながらナツに言うロキ。
食べさせる?と首を傾けるナツに、ほらと視線でルーシィの右手へ促すロキ。
あ、と小さく声を上げるナツを見て、スプーンぐらい持てるの!とルーシィが声をあげる前にナツが言った。

「ロキ、それ貸して」

これ?とスプーンをあげるロキにあぁ、と言ってスプーンを奪った。

「オレが食べさせる」

口開けろよ、と言うナツに大丈夫だから、とルーシィが言えばむっとした表情になった。

「ロキは良くてオレはダメなのかよ」
「違くて、そうじゃなくて…!」

助けてロキ、とルーシィは視線を送ろうとして…そこには魔力の残痕しかなかった。

「とにかく!大丈夫だから!」
「ダメ。大丈夫じゃない」

何を根拠に、とルーシィは突っ込みを入れるがナツは聞いていない。
ぐいぐいルーシィに向かってスプーンを押し付ける。
ちょっと、と先程のロキと同様に押し返すルーシィだったが、突然手の力を抜いた。

――こうなったナツはやるって言ったらやるのよね。
それにさっきのロキみたいにいたずら心でやっているわけではなく、真剣なのだ。

ルーシィは小さく溜め息を零し、あー、と口を開ける。
諦めたとは言え、恥ずかしいものは恥ずかしい。
早く終わらないかな、と目を閉じてスプーンが口に入るのを待つ。
顔が赤く染まっていくのを感じた。




ん?とルーシィは首を傾げた。
待てども口の中に物が入らない。
目を開けてみるとナツが顔を赤くしてこちらを見ていた。

「なんでナツまで顔赤いのよ!」
「知らねーよっ!」

ルーシィが、とか、目閉じなくたって…!と口の中でごにょごにょ言うナツ。
この調子じゃ無理ね、とルーシィはナツの手にあるスプーンに手を伸ばした。

「返して」

そう言ってナツの手から取ろうとした。
けれどヤダ、と言って手を離さない。
は?と声をあげると、グッとスプーンを押し付けてきた。

先程のように口をしっかり開いていない。
こんな状態で押し付けられては…

「「あ」」

案の定ルーシィの唇の端にグラタンがついた。

「どこ狙ってんのよ」

ティッシュはどこだ、とポケットに手を向かわせようとしたとき今度はスプーンではなくナツの顔が迫ってきた。
同じ位置に、今後は湿ったものが触れる。

「きゃあっ!」

突然の出来事に叫ぶルーシィと舌で回収したグラタンを食べるナツ。

「ん、うまい」

そう言って二カっと笑うナツはルーシィに殴られるまで口の中に広がる幸福を味わった。




Guroriosaの碧っち。様へ相互記念小説です。
リクエストが"ちゅー"でしたので、普通のキスじゃダメだな、と考えた結果これになったぱんだの残念な脳みそです。

スプーンは持てますが、人差し指を突き指すると箸がとっても持ちづらいです。

碧っち。様のみお持ち帰りOKです。
これからよろしくお願いします。
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