城京介からみた二人


タイトルまんま。
拓宗+剣城のギャグ二つ



神童神童神童神童。食堂へ入りトレイを取ろうとした瞬間井吹のラブコールに迎えられ、剣城は思わずため息をついた。和解したんじゃなかったのかこいつらは。
「しんどぉぉぉぉぉっ!」
一日の練習で疲れただろうに井吹の声は無駄に大きい。疲労している他のメンバーが迷惑そうに彼を見ているが、井吹は意にも介せず、一人テーブルを陣取っている神童の眼前に立ちはだかる。
「何だ?」
形のいいグレーの頭がゆっくり上がる。剣城の位置からその表情は伺えないが、少なくともーーいや絶対に怒りも嫌悪も浮かんでいないだろう。あの何週間かのピリピリとした彼からは想像もつかない程に柔らかな声音と仕草だった。彼の素を知っている剣城でさえ驚くほどに。
井吹は子供のようにわざとらしく咳払いをし、なぜか踏ん反り返った。
「俺といっしょに食え!」
「……構わないが、もうすぐ俺は食べ終わるぞ」
「なにっ!?」
ぱたぱたばたばた、慌てて向かいの席に座った持ち主に合わせてジャージも揺れた。チャックの留め具が軽く音を立てて、それに紛れるように神童が小さく笑った。それを見て井吹は少し頬を膨らませる。
いよいよホラーだ。
隣のテーブルに座る鉄角が縋る様に目を向けてきて、仕方なしにそこへ座る。気持ちはわからなくもない、あれだけ険悪だった二人が仲良くキャッキャと食卓を囲んでいるのなんて恐怖以外の何物でもないだろう。神童が天馬と剣城以外の人間に笑いかけているだけでも鉄角達には衝撃だろう。
証拠に森村は離れた席でガタガタ震えているし、九坂も肩をすくめて何時もより困った顔をしているし、瞬木なんていつのまにか消えている。頭脳コンビもあれやこれやと的外れな推測を交わしている。天馬がここにいないのが素直に腹が立つ。何とかしてくれ、この状況。
「神童、やる!」
何の嫌がらせか井吹は自分の皿の食べ物を神童の皿へと移して行く。ひょいひょいと素早く器用な箸遣いは性格に似合わないが、神童は特に驚くでもなく澄ましてそれを見守っている。
「何だ?」
「これ食ってたら同じくらいに食べ終わるだろう」
「いらないよ」
「俺をおいて行くのか神童……」
しゅんと頭を下げる井吹の頭に垂れ下がる犬の耳をはっきり見た。目をこすればなくなっていたが。見えない尻尾もちからなく地についている。
「神童」
「……」
神童は身を乗り出してわしわしと井吹の頭を撫でた。
完全なホラーだ。鉄角が小さく悲鳴を上げた。剣城の方はもう、頭が痛くて仕方ない。何の茶番だこれは。井吹の肌が微かに上気しているのなんかもう認識したくもない。
深い紫が三つ瞬き、それから白い手が神童のそれを払った。
「や、やめろよ」
恥じらうなそこで!
もうツッコミをいれるのも見守るのも嫌になって剣城は好物のカレーを食べることに専念する。鉄角が助けを求めてくるが無視だ。
待っててやるからちゃんと食え。マジか!? マジだ。ほらこぼれてるぞ。繰り広げられる茶番は、それからきっかり三十分続いた。





剣城君と葵ちゃんと天馬くん

誰もいないグラウンドに、剣城の低い声はよく通った。
「ぶたれた!」
真っ白な頬を珍しく上気させて駆け寄ってくる。芝生がガサガサ賑やかに声を立てて剣城の動揺を知らせた。俺はちょうど葵と練習メニューの打ち合わせをしていたところだった。二人で顔を見合わせる。こっちを見る青い目はまんまるだ。多分俺も同じ顔してるんだろうな。
「ぶたれたって、誰に?」
葵が首を傾げると。剣城はゆっくり神童さんだと言った。
「えぇっ」
「何があったの!?」
確かに神童さんは初めの頃随分と機嫌が悪かったけど、決勝戦も終わった今は穏やかに過ごしていた。それにどれだけ腹を立てていても手を出したりは絶対しない。そういう人だ。かと言って二人が喧嘩するのも考えられない。
「分からない。ただ、突然殴られたんだ……」
息を整えた剣城が力なく目を伏せる。ショックなんだろうな。俺の目線より少し高い位置にある肩に手を置いた。黄土色の瞳は揺れながら俺を見つめ返す。
「大丈夫だよ剣城、何かの間違いかもしれないじゃないか」
「何のだ」
「何のよ……」
二人のため息が重なる。考えても分からなかったから笑って誤魔化すと葵がまた息をついた。仕方ないなぁ、呆れながらも笑ってるような明るいため息。
「とりあえず殴られた所冷やさなくっちゃ! ちょっと待ってね、私氷とってくるから。痛いと思うけどちょっとだけ我慢して」
「え?」
走り出そうとした背中を間抜けな声が止めた。
「空野、ぶたれたのは俺じゃない」
俺と葵はまた顔を見合わせる。多分頭上にははてなマークがいっぱいだ。
「ぶたれたのは井吹だ」
「あぁ……」
風が俺のため息を攫っていった。よく言い争いをしている白髪のチームメイトを思い出す。
「もうそれはほっとけばいいんじゃないかな」
多分、痴話喧嘩みたいな感じだから。サスケだって食べないよ、なんて。






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