君の部屋へ


ちょっと甘える井吹くんも可愛いなとか




夜の沈黙の中、神童の部屋から微かに明かりが漏れていた。
井吹が控えめにコンコンとドアを叩けば少しして扉が開き、灰色の髪をした部屋の主が瞼をこすりながら出てきた。
「悪い、こんな時間に」
「構わないが。何の用だ」
「……部屋に入れてくれ」
虹彩の少ない赤の瞳が訝しげに細められる。だがこちらが「頼む」と手を合わせれば嫌そうな表情を崩さないままに通してくれる。僅かに湿っている髪から柔らかな匂いがして眠気を誘って、このままベッドに潜り込んでしまいたい衝動に駆られた。丁度いいことにベッドなら目の前にあるし。
自分のそれより幾分上等そうなそれに腰を下ろせば、部屋の主は重いため息をつきながらベッドの向かいにある机から椅子を引いた。
「それで何の用だ」
「別に」
「はぁ?」
話しながら眠気が強くなって、耐えきれず上体を後ろに倒した。
「おい、人の布団に勝手に寝転ぶな」
「うるせーないいだろ減るもんでもねぇし」
「減る」
「何がだよ」
「そもそもお前が寝転ぶと汚れそうだ」
喧嘩をふっかける声音は笑みをふくんでいる。神童は井吹の隣に腰掛け、白髪を優しく撫でた。
「ねれないか?」
子どもに話しかけるような調子がひどく心地良い。洗いたてのタオルのような、もしくは使い慣れた毛布のような。
「別に」
「一緒に寝たいとでも?」
図星。
髪に触れる指をとって、強引に引っ張った。当然神童も布団に寝転ぶ形になる。
「何をするんだ!」
赤い瞳は丸く見開かれている。心なしか頬も赤い。
「可愛い所あんだなお前」
「殴るぞ」
「やってみろよ」
吐息がかかる程の距離で罵倒しあうなんてなかなかないだろう。いよいよ愉快になってきて吹き出せば神童も頬を緩めた。細い指が今度は井吹の頬を両側から挟む。
「本当にどうしたんだ」
「……別に」
「そうか」
ただ一緒に眠りたくなっただけ、というのは内緒。
不思議そうな視線を無視して目を閉じれば額に暖かなキスが落とされた。それからまたため息。それじゃ嫌そうなポーズも出来てねぇぞ。
カチリと電気が消える音がした。
「おやすみ」
そして小さな小さな吐息が耳元で。
これが聞きたくてって言ったらお前は怒るかな。ひっそりと笑いながら井吹もおやすみと言う。




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