々拓宗


今日は俺が主導権を握ってやる



「しんどう」
身を屈めた井吹が真っ正面から俺の肩を掴んで震える声で名前を呼んだ。強く何かを訴える形の良い瞳も、肩に置かれた両手も、面白いくらいに揺れている。
重みに耐えられないのかそれとも井吹がじれったいのか、俺の下でベッドがギシギシ小さく悲鳴をあげ続ける。何もかもが愉快だった。
真っ赤に染まっている頬に手を添えればじんわりと暖かい体温が伝わってくる。少しずつ上がっていく熱に微笑んで、そのまま指を滑らせ白い髪を耳にかけてやる。
「……」
赤と紫の間くらいの不思議な色をした丸い瞳が不満を訴えるが、逃げようとはしなかった。
肉付きの薄い頬の輪郭をなぞって頭のてっぺんへと登り髪をかき回すとようやっと静止がかかる。
「やめろよ」
手首をつかんできた井吹の指を優しく外す。
「髪を触られるのは嫌いか」
「そういう話じゃなくて」
今日こそお前から主導権を奪う、なんて戯言を吐く唇を引き寄せて同じもので塞いでやる。解放してやったと同時に漏れてきた吐息は熱っぽく、素直に興奮を伝えてきた。
「可愛いな」
「ふ、ふざけるな! お前の方が可愛いだろ……」
「容姿だけなら否定はしない」
井吹よりは若干中性的な顔立ちをしている自覚は無くもない。
「だがな」
今度は細い首ごと抱き寄せる。井吹と同じ温度の吐息を耳元に吹きかけた。
「……っ」
「そういう反応するお前に言われたくはないな?」
小さな子供のように素直に動揺を見せる様は愛らしい。井吹には随分勿体無い形容詞だが。とうとう俺の目から逃れた薄紫の瞳を無理やり追いかけて覗き込めば、そこにはみっともなく興奮した自分が映っていた。これが可愛いなんて井吹の頭は末期かもしれない。
「しんど……」
最初の目的はどこへやら、熱で蕩けた声を出す唇を啄ばんだ。
ほらやっぱり、お前の方が可愛い。






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