想い、始まってます!?


地球に帰ってからのお話。
両片思いな二人がうだうだデートするだけ





 ★
 午後九時まであと三十秒。十、九、八……。
 壁にかかった時計の秒針を睨んでいたら、約束よりほんの少し早くに電話が体を揺らして着信を知らせる。期待しながら見たディスプレイには予想通り「マツカゼテンマ」と表示されていて心臓が大きく跳ねた。名前だけでこんなに緊張するなら番号登録なんてしなけりゃよかった。待っていたと思われたくなくて、大きく息を吸って準備をしてからゆっくり受話器をとる。
「……はい、もしもし」
 必要以上に低い声を出す。受話器越しの天馬の声もちょっと緊張している。他人の自宅にかけるあのなんともいえない心地の悪さはよく分かるけど、いつ聞いてもやっぱり面白い。
『えっと松風です、けど、瞬木さんのおたくですか?』
 体育系のくせに敬語がぎこちなくて大丈夫なんだろうか。
「人違いだと思います」
『えぇっ、嘘、だってどう聞いても瞬木の声だよ。ていうかお前笑ってるだろ』
 ご名答。受話器の向こうにも聞こえるようにわざと大きく音を立てて拍手を送った。昔いた家でこんなことをしたらテレビを見ている弟達に迷惑だから、広いところに引っ越せて良かったと思う。報酬様々だ。広い分の寂しさとか不便さとか、そういうのがないって言ったら嘘になるが。

 毎週金曜日午後九時、天馬とオレは電話をする約束をしている。

 宇宙から帰って来て、インタビューだの何だのの煩わしいことも全て終えてとうとう解散する時、天馬がオレを呼び止めた。
「瞬木携帯持ってないから、週に一回、一回で良いから電話したいんだけど、良い!?」
 顔から湯気まで出して不自然な早口でまくしたてられて、押されるように頷いた。
「ほんと?やったぁ!」
 電話番号を書いたメモを手渡した時、それを受け取る天馬の指が微かに震えていたのをよく覚えている。
 週に一度の声での逢瀬は、次の日に支障がないように週末で、部活から帰って食事や風呂も済ませてゆっくり時間が取れるように、金曜日の午後九時に決まった。それでも地球に戻ってすぐは引越しだったり他の雑事に追われてそんな約束すっぽかしていたんだが、ようやく近辺も落ち着いてやりとりを始めた。回線を伝わせて交わす会話は案外楽しく、回数はもう今日で両手が足りなった。毎日この時間は弟達とぼんやりテレビを見ながらストレッチをするのが日課だが、今日だけはしない。どうせ頭に入って来やしないから。
 何でか? 簡単なことだ、オレは松風天馬クンのことが好きだからでした。はいお終い。
『えへへ、久しぶりだね』
「たった一週間だろ。だいたいアンタこの前も同じこと言ってたぞ」
『えっそうだっけ!?』
このやりとりは今日で片手が足りなくなった。大きくため息をついたら全く申し訳なさそうじゃない声でごめんねと返ってくる。
 総計十一回の電話で分かったのは、天馬の話すことには脈絡がないってことだ。今日の弁当にタコさんウインナーが入ってたんだ、と話し始めていつの間にか最近剣城のうちで観たらしいホラー映画の話になっていて、適当に相槌を打っていたらいつの間にか動物園の話を経てサッカーの話題に落ちている。寝食をともにしていた時にも色々会話はしたが、オレが猫を被っていたり天馬も若干遠慮していたりでここまで支離滅裂な話運びになったことはなかったと思う。まぁ別に、今のめちゃくちゃな話方も嫌じゃねーけど、剣城とか神童とか空野は苦労してるなとは思う。これが毎日だとちょっと頭が痛そうだ。随分見ていない元チームメイトを頭に思い浮かべたら、三人とも穏やかに笑っていた。
『それでね、サスケがそれ食べちゃったんだ』
「はぁ? キャットフードをかよ。腹とか壊さなかったのか」
 サスケって確かあいつが飼ってる老犬じゃないのか。
『うん。どうなっちゃうのかなって秋ねえとハラハラしたんだけど、あい美味しそうに食べてた。でもやっぱり健康に悪いみたいだから気をつけなきゃ』
 天馬の話には登場人物も多い。飼い犬のサスケに親戚で住んでいるアパートの管理人でもある秋ねえにチームメイトの狩屋と輝。担任の教師の名前や顧問の名前もよく出るから覚えてしまった。どんどん無駄な知識が増えて行って、確実に邪魔なはずなのにこれも悪くねぇなって思う。
『それでね……』
 すらすら進んでいた話に突然沈黙が降りる。
「……? どうした、もう眠いか」
 睡魔に襲われると一気に口数が少なくなると知ったのもつい最近だ。いつもは一時間くらい喋ってるくせに、今日は普段より短い。疲れてるんだろうか。
『違うんだ、あのね瞬木、日曜日空いてる? 実は秋ねえから映画のチケットもらって、日曜日が期限で、それで練習もたまたま休みで』
 怒っているようにも取れる声でまくし立てる。でもそうじゃないのなんて明白だ。通話口を塞いで漏れそうになる笑い声を隠す。すーはーと大げさな深呼吸が聞こえてもう限界だった。
『オレと一緒に観にいかない!?』
 OKを出した時には面白すぎて目尻に涙が浮かんでいた。オレの答えを聞いた天馬の声に花が咲いた。
『本当に!? いいの!?』
「断った方が方がいいのかよ」
『う、ううん! 瞬木と一緒に行きたい! じゃぁ朝十時に駅でいい?』
「分かった。十時だな。寝坊すんなよ」
『絶対しないよ!』
「はいはい、じゃぁ日曜日にな」
 電話を切って一息つく。これって。足が勝手に踊り出しそうだった。電話がかかって来る前睨み合っていた時計を見ればもう十時を過ぎていた。ちょっと早いがもう寝るか。伸びをして振り返ればいつのまにか居間の戸が開いていて瞬が口元を緩めながら顔を出していた。
「兄ちゃん、もしかしてデート?」
「はぁ?」
「違うよ瞬、さっきの電話キャプテンのお兄ちゃんからだから、ただ遊びに行くんだと思うよ」
「なーんだ」
「……そういうことだ。おらもう電気消すぞ、雄太も瞬も歯磨いたか?」
「まだー!」
 ぱたぱたと二人が洗面所に消えていく。デートというのかただ遊びに行くというのが正しいのか、この場合どっちなんだろうか。いや付き合ってないからデートはおかしいのか。どう考えたってあいつもオレのこと好きだけど。……好きだよな?
 母親から譲り受けた古びた辞書を引こうとして、やめた。




 秋も深まって、行き交う人たちはどこか不機嫌そうに寒さに耐えている。「比較的暖かいですよ」なんて澄ました顔で言う天気予報を鵜呑みにせずに上着くらい羽織ってきても良かったかもしれない。血が通いにくくなって痛みを訴える指先に息を吹きかければ、騒々しい足音が聞こえた。宇宙で何度も聞いて鼓膜にこびりついた駆け足の音だ。
「瞬木ー!」
 天馬もオレを見つけたようだった。
 クセが強くて硬い栗色の髪がひょこひょこ跳ねてこちらに駆けてくる。蛍光色のTシャツに白いパーカーにチノパン。私服は初めて見たが何と無くもっと野暮ったい格好をするのかと思っていたから拍子抜けした。サッカーボールがでかでかと描かれたトレーナーとか。
「ごめん、待った?」
 時間通りどころか十分以上早いことに気がついてないんだろうか。わざと目を眇めて大きなため息をついてやる。
「待った」
「えぇぇ、ご、ごめんね!?」
 素直に謝られると何と無く居心地悪くて、天馬の向こうにある時計台を指差した。
「え、なに?」
「時間。まだあるから別に謝んなくていい」
 まだ12に重なっていない針を捉えた目がパチパチ瞬きしてから首を傾げた。ガキくさい態度がよく似合うのはただ単に年下だからなのか、ちょっと弟みたいに思ってるオレの頭でおかしなことが起きてるのか。
「だけど瞬木は早く来てたんでしょ? 待っててくれてありがとう」
 こいつの、こういうところが。柔らかく上がる両頬の左側を思い切りつねった。心臓がまたどくどくうるさくはしゃぐ。
「ひだい、いだひよまたたひ」
「うるせーばか。ほら行くぞ」
 歩き出したら追いかけた天馬が性懲りも無く「今日の服似合うね」なんて笑うから無言で睨んでおいた。
「アンタもな」って言ってやったらビックリして転んだりすんのかな。頭の中で盛大に転ばせて笑うだけにしてやった。



 目的地は、どこにでもある小綺麗なショッピングモールの最上階にあった。カラフルなポスターの一つを天馬が指す。
「オレあれがいいな」
 外国人が格好つけてポーズを決めているアクション映画だ。こいつはこういうのが好きなのか、ちょっと意外だ。オレはバカみたいに演出が派手な映画は好きじゃない。
「オレはあれが良い」
 古臭い探偵の格好をした男が不敵に笑うポスターを指差す。天馬が渋い顔をした。
「いっぱい考えなきゃいけないやつはやだな……」
 なるほど、そこは期待を裏切らない訳か。賑わうチケット売り場の隅で二人で相談してもう十分は経っている。絶対時間の無駄だ。でも興味のない映画を長々と観たくない気持ちは一緒らしい。電話で先に決めとけば良かった。
「ジャンケンにする?」
 目の前に拳を出される。
「…………」
 それが妥当か。頷きかけた首が天馬の大声で止まる。
「うわ、うるせえ大声出すな」
 周りにいた奴らが迷惑そうに、あるいは不思議そうにオレたちを見る。ことの元凶は周りなんて歯牙にもかけず嬉しそうにぴょんぴょん跳ねた。
「あれ! あれにしよう瞬木!」
 示されたポスターの中ではテレビで観たことのあるアニメのキャラクターがオレに笑いかけている。ようこそ場違い。確か瞬と雄太が好きな、日曜日の朝早くにやってる番組だ。映画なんてしてたのか。
「弟くんたち、あれ見てないの? 観たの話せばきっと喜ぶし、それにああいうのって結構面白いよね! オレ早起きしたらたまに見てるよ」
「見てる。瞬なんかよく真似もしてる」
「じゃあこれにしよう!」
 言うが早いか天馬の背中はもう店員の元へと向かっていた。チケットと引き換えにもらったその映画専用の小さな入場券二枚をひらひらさせながら戻ってくる。
「はい、これお前の分」
「サンキュ……おい、これあと十分で始まるぞ」
「ええっ!? わっほんとだポップコーンとか買ってない」
「知らねぇもう行くぞ」
 首根っこを掴んで入場しよう店員に入場券を渡せば「ご兄弟? 仲良しね」なんて笑われながら半券を返された。もやもやを抱えたままスクリーンのある部屋に入ったら瞬くらいの子どもとその親しかいなくて気後れする。だが天馬は気にもならないみたいだった。
「すごい、満員だね。ほら早く座ろう」
 声を潜めながら楽しそうに席を探す背中を見ながら、弟よりは息子を連れてきた気分だと思う。

「面白かったね……!」
 照明がついて館内が現実に戻る。隣で画面に見入っていた天馬が興奮を隠さずにこっちを向いた。
 世界征服しようとする悪者と戦うだけのよくある話だったが、子ども向けだけあって構成が分かりやすかった。それなりに良く出来ていたと思う。近くに座っていた子どもたちが興奮を隠さずに両親に感想をまくし立てていた。瞬と雄太にも観せてやりたい。テレビ放映する日がくるといいけど。
 席を立ち上がって出口へ歩く。
「まああそこで裏切りに気づかない主人公が悪いよな」
「でもあいつも最後には戻って来てくれたじゃないか」
「いつまた裏切るかわかんねーだろ」
「夢がないなぁ」
 それは申し訳ない。エスカレーターを降りて専門店が立ち並ぶ通路に来れば、隣でぐうと腹がなった。
「えへへ……なんか食べに行かない?」
「麺類が食べたい」
「オレハンバーガー!」
 つくづく好みが合わない。だけど素直に意見を言われるのは好きだ。例え正反対のことでも。オレは松風天馬のこういうところが好きだ。
「じゃぁハンバーガーでいい」
「本当に? やったー! 早く行こう!」
 背中を押されながら人混みの中を進む。





「ハンバーガーなんていつぶりだろうな」
 包装紙を剥きながら、オレの向かいに座った瞬木が呟く。見えないようにそっと深呼吸した。冷静に冷静に。のぼせそうな頭をなんとか冷やす。
 は、恥ずかしい……! ねえ瞬木、これってもしかして、もしかすると、で、デート!? デートなのかな。うわー恥ずかしい!
 何を隠そうオレ松風天馬は瞬木隼人のことが好きだ。あっやっぱりウソ、隠したい。照れるや。でもやっぱり好きだよ、どこが好きとかそういうのはナイショだけど。一個だけ言うなら真面目で優しいところかな。あれ、二つだ。サッカーしてても時々瞬木のことを思い出して胸が痛くなる時があるくらいで、やっぱり恥ずかしい。それで多分瞬木もオレのこと好きだと思うんだけど、ちゃんと聞いたことはない。知りたいような怖いような。
 こうやって二人で出掛けてくれるのが答えなんだろうなっていうのも本当は分かってるんだけど。
「天馬、ついてる」
 案外と細い指先がオレの唇の近くをかすめた。ケチャップをこぼしていたらしい。
「あ、ごめんありがと」
「……アンタ照れないんだな」
「え?」
「別に。何でもない」
 どう言う意味だろう? しばらく首を傾げてようやく頭の中で繋がった時には瞬木はもう指を紙ナフキンでふいていた。おくばせながら赤くっていく頬に気づいてニヤニヤ笑われる。
「かわいーね天馬くん?」
「ばか!」
「瞬もよくこぼすけど、アンタも大概だよな」
 なんとなく早口になった、気がする。少し恥ずかしいと思ってる時の瞬木の癖だ。瞬きもいつもより少し多い。
「夕飯の時とかポロポロこぼすんだよ、雄太はそうでもなかったんだけどな。大きくなれば直るかと思ってたけどアンタ見てたら望みは薄そうだな」
「うるさいなー! 瞬木だってこぼしてるよ」
 さっき瞬木がそうしたように身を乗り出して唇の端に触れる。触れ合った場所から電流が流れて、オレは慌てて手を離した。
「ご、ごめん」
「いや……」
 目が合わせられない。今日で一番恥ずかしい。今年一かも。黙っててもおかしくないようにストローに吸い付いた。



 食事を終えて、目的もなくショッピングモール内を歩く。お互いが見たいものがあったら立ち止まる、くらいの気軽さで。オレは新しいタオルを買ったし瞬木はさっき観た映画のキャラクターのキーホルダーを二つ買っていた。きっと弟くんたちへのお土産だ。
 もうかなり見て回ったと思う。そろそろお開きの時間かな。
「そろそろ帰る?」
「あぁそうだな、あれ……」
 つまらなさそうに見ていた瞬木がふと足を止めた。駆け足で進んでいたオレは急いで戻る。子ども服の店みたいで、瞬木は店先を食い入るように見ている。銀色の安っぽいワゴンの中に、少しよれたトレーナーが投げ売られていた。立てられた値札には二着千円とマジックで書かれてる。
「買うの?」
「あぁ、安いなと思って。瞬も雄太もすぐ服ボロボロにするから高いの買えねえんだよ」
「あ、じゃぁこれがいいと思う」
 山の上の方でクシャクシャ担っている一枚を引っ張り上げて渡したら厳かに却下された。
「あれ、おごそかってどう言う意味だっけ」
「はぁ? なんの話だよ。あんたほんと頭の中で思いついたことそのまま話す癖やめろよ。とりあえずそれはなし」
 選んだシャツを山の中に戻されてしまった。
「いいと思うんだけどなぁ」
「アンタと違ってうちはサッカーばか外ねぇんだよ」
 右胸にサッカーボールの刺繍が入った深い緑のトレーナーを元に戻す。白い線も入ってて、フィールドっぽくていいと思うんだけどな。かわいいし。
「それよりこれだろ」
 瞬木が掲げたのは黒地で、真ん中に大きく白いドクロが描かれているものだ。下の方に印刷されてる英語は読めないけど、なんとなく攻撃的なのは理解できた。噂のダメージ加工? なのかところどころ破れている。正直本当にボロボロになったようにしか見えない。
「……それ、本気でいいと思ってる?」
「あぁ」
 これまでになく瞳が輝いていた。頭の中でこれを着た二人を想像して、慌ててかき消す。だめだだめだ、それだけでいじめられそうだよ!
「も、もっと無難なものにした方がいいと思うよ! あんまりかっこ良くて気に入っちゃったら動きにくいと思うし」
「物が長持ちしたらそれはそれで良いだろ」
「それはそうだけど……」
 決まり。上機嫌に言って、大きいのと小さいの、一着ずつ同じデザインのものをかかえる。ごめんね瞬くん雄太くん。時々受話器越しに声が聞こえるむじゃきな二人を思い出して胸の中で謝る。ま、まぁでも瞬木の弟だしこれが気に入ることもあるかもしれないよね。せめて他のものがましになるように瞬木以上に真剣に選んだ。




「食料品売り場に寄って行っていいか」
 会計を済ました瞬木が聞く。結局あのシャツを阻止することは出来なかった。またいつか会う日に二人があれを着てても似合うねって言ってあげられる自信がないよ。
 瞬木は慣れた手付きで店先に積まれたカゴをとって野菜売り場に向かった。
「今日の夕飯なににするかな……」
 値段を見比べながら呟くからオムライスが食べたいとつい返してしまった。不思議そうにオレをみる視線が痛い。
「……食いたいのか」
「えっ、う、うんまぁ……」
 瞬木が料理上手だっていうのは本人から聞いたことだ。まずいもん弟に食わせられねーだろって言ってて感心した。そういうところ優しいよねって言ったら多分瞬木は怒るんだろうけど。
 ため息とともに「まぁいいけど」と言われて思わず瞬木の顔を見た。
「え、いいの」
「映画の礼だ。貸し作るのも嫌だしな」
「わぁ! やったーありがとう瞬木! そういえば新しい家オレ行ったことないや! 楽しみ!」
「はいはい分かったからでかい声だすな」
「楽しみだなー! じゃぁお土産買ってかなきゃ」
「だから黙れって」
 そんなことを言いながら瞬木の持つカゴにはどんどん食材が入っていく。本当にオムライスを作ってくれるみたいだ。楽しみだな。近くにいたお兄さんとお姉さんがオレを見て優しく笑っている。そのうちお兄さんがカゴに勝手にお菓子を入れてお姉さんに怒られてたけど。でも仲が良さそうな二人だった。
「おい天馬それとってくれ」
「え、オレピーマン嫌いだからいいよ」
「はぁ? 好き嫌いすんなアンタの皿にだけ大量に入れてやる」
「えーひどいよー」
「あらあら仲の良いカップルだこと」
 突然声が飛んでくる。え、もしかしてオレと瞬木? え、えぇ!?
「いやオレ達はカップルじゃないしそもそも男同士だし……!」
「……アンタ何言ってんだよ」
 思い切りバカにした目だった。
「え?」
 瞬木が顎で指した方を見たら、若いお姉さんとお兄さんが気恥ずかしそうにお互いを見つめてから、手にもっていたものを元に戻しているところだった。それをおばあさんがにこにこ見ている。あ、あぁそういうこと。
「何、勘違いしたのかよ」
 呆れ一色の声だった。う、確かにはずかいいのは認めるよ。だけど、オレ気づいちゃったんだ。
「オレたち、やってることあの二人と同じだよね……」
 ──つまりオレたちも傍から見れば。
 隣で盛大にむせる音が聞こえた。冷房の効きすぎたスーパーが、何だか熱い。




「オレたちもあの二人と変わらないよね」
 つまりはまるでカップルみたいじゃないかってことだよなそれ。天馬が変なことを言ってから何だか気まずくてせっかく続いていた会話がまた途絶えてしまった。今日は楽しいのにどうもやりづらい。
 二つに分けられた買い物袋の片方を持ちながら、もう片方を自主的にもって駅への道を歩く背中をぼんやり見る。来た時より随分早足だ。なぁそんなに照れてるってことはやっぱりオレのこと好きなんだよな? 躊躇ったり怖がったりするのもうめんどくせえ。
「おい、天馬」
 振り返って合った視線は甘い。見るだけで胸焼けしそうだった。怯む心臓を抑えながら聞く。
「アンタ、オレのこと好きだよな」
「えぇ!?」
 青天の霹靂を図で現したらこんな顔になるんじゃないか。荷物を落とさんばかりの勢いで後ずさるのはちょっと面白い。
「えぇっな、なんでそんなこと聞くの」
「いや、ずっと気になってて」
 オレも天馬も声が上ずっていた。心臓が悲鳴を上げる。こんなに鼓動が早いのはサザナーラ以来じゃないか。天馬の顔を見れない。
「そ、そう言う瞬木はどうなんだよ……」
 告白するならって色々考えてたはずなのに、出てきた言葉はシンプル極まりない。
「え、好きだけど」
 いつもせわしなく動いている小柄な体がピタリと止まる。いつかみたいに天馬の肌が赤く染まって行くが、オレだって顔が熱い。ばれないように少し目を逸らした。
「好きだぜ、アンタのこと。アンタは?」
 返事がない。両想いだと思ってたのはオレだけで気持ち悪がられたのか。恐る恐る顔を上げたら太陽みたいな笑顔が待っていた。
「……オレもだよ」
 うわぁ、なんていうか。分かってたはずなのに信じられなくてこそばゆい。
 さすがにもう、真っ赤な顔をオレも隠せない。
 とりあえず、オムライスは気合いを入れて作ってやろう。



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