経験値、不足中。











好きな相手が目の前にいる、というのはとても気まずいものであると、僕は知った。
今日はたまたま姉さんが仕事で出張しているため、つい最近、同性という障害を越えて晴れて恋人同士に慣れたムッツリーニを部屋に招き入れたのだった。
僕が作ったご飯を食べて、それぞれお風呂にも入って。
さて、いざ寝よう、という時だった。
非常に、気まずいムードが漂い出したのは。
僕たちは高校生である。
健全な、高校生である。
そんな僕たちが、寧ろ他の人よりオープンにそういうことに興味がある僕たちには、そんな空気が流れることなんて予想済みだったはずだ。
寧ろこの日の為にイメージトレーニングは欠かさなかったし、いろいろエロ本を読み漁るという、勉強だってしたのだ。
でも、僕はどうにも、ひとつだけ愚かなことをしでかしていた。
そう…ことに及ぶまでのイメージトレーニングをしていなかったのである。
ドラマとかではよくそういう雰囲気になってベッドになだれ込む、というのが主流…だと僕は思うのだが、だがしかし、


「そういう雰囲気って…何?」
思わず声に出してしまったが、まさしくそれである。
そういう雰囲気ってなんだよ、と。
馬鹿にもわかるように丁寧に事細かに教えてほしい。
エロ本だって、AVだって、そんなリアルなことは殆ど描かれていないような気もする。
童貞にも優しいエロ本、AVを求む。切実に。


「………そういう雰囲気?」


僕が言ったことをそのまま、僕が欲望を向けている相手に発せられてしまった。
はっとしてムッツリーニの方を向くと、体を硬くしてかちんこちんな彼と目が合う。
無性に恥ずかしくなってしまって、顔に熱が集まるのを感じた。
慌てて手で顔を仰いで、熱を発散させる。


「あ、暑いね…!!」
「………そうだな。」


取り繕うようにそう言うと、ムッツリーニも意図も簡単に同意する。
暑いね、暑いよ、実際は字違いだけども…!!
正直なところ、そういうことには実に興味があるし、でも僕には勇気が足りない。
学校とかでも勇猛果敢…かどうかはわからないけれど比較的行動派な僕でも、恋愛関連に関しては非常に奥手で情けなかった。
直ぐにでも触れたいのにな、等と、なんともあさましい。
もう諦めて寝てしまおうか、とさえ思う。


「寝よっか。」


そう言って、なんとなくムッツリーニの顔が見れなくて、そのまま電気を消す。
そしてベッドの上に座る。
少しだけ緊張のあまり荒げてしまった呼吸を大きく深呼吸しながら整える。
すると不意に、ぎし、とベッドが弾む。
え?と思った瞬間に、目の前にはっムッツリーニの顔があった。
近い、近い。


「む、ムッツリーニ…!?」


情けないことに慌てふためいて声が裏返ってしまう。
するとむ、と少しだけ不機嫌そうに唇を尖らせた顔がどんどん近くなる。
どうしよう、どうしよう。
情けなさ過ぎる…!!


「………康太。」
「え?」
「………康太って呼べ。」


そう言って僕の胸に飛び込んでくるムッツリーニ…いや、康太をなんとか抱きとめてやる。
どくんどくんと鼓動が速くなって、いくら周りから鈍い鈍いといわれている僕でも、わかる。
これがそういう所謂、『いい雰囲気』というやつだ。
恐る恐る、肩から背中に、肩から頭に、それぞれ手を移動させる。
よしよし、と撫でながら、これからどうしたらいいのか、この雰囲気を逃すのはもったいないしなあ、と無駄にドキドキする。


「康太、」


とりあえず名前を呼んでみた。
普段からあだ名で呼ぶことが多いから、妙に緊張する。
唇だって、震えてるんじゃないだろうか。
そう呼ぶとぴくり、と小さく康太の体が跳ねた。
そして僕の胸に顔を埋めた状態のまま、顔を上げる。
頬がするり、と僕の胸を撫でて、見上げる康太の顔が妙に可愛らしく見える。
大きな眠たそうな目が、僕だけを映しているのだ。
好きな子に、こんな風に見られて、喜ばない男子なんていないだろう。


「………明久、緊張してるのか?」


そう康太が聞いてきたのでこくんと、素直に頷く。
ここで見栄を張っても仕方ないような気もするし、実際かなり緊張しているから。
すると僕の康太の頭に置いていた手をゆっくりとって、康太自身の胸に押し当てた。
どくんどくんと通常より早いそれに、驚く。


「………俺も。」


少しだけ恥ずかしそうにそう言って、目線を反らす康太。
ああ、もう駄目だ。
そのまま勢い任せて強く、抱きしめた。
僕はこれから、大人の階段をひとつ、登るのだ。






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ぽん様からの明康で初めての夜でした!
フリリク企画にご参加ありがとうございました!




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