風のよう











「…ん、」


学校の校舎裏で、キス。
なんとも背徳感があって、どんどん体の熱が上がっていく。
人目を憚りながらこんなことをしているだなんて、と夢中になって源田の唇を吸う。
舌を入れてくる源田に精一杯応えながら、もっと、もっとと体の奥底から欲してしまう。
誰かに見られてしまうのではないか、というそういう危機感が、刺激になる。


「へえ、見せつけてくれるじゃねぇか。」


背後から、そう声がして思わず源田を突き飛ばす。
思い切り突き飛ばしたのに別によろけるということをしない源田はやはり流石といったところだ。
勢いよく振り向いて、今はもう使われていない焼却炉に不動が座っていた。
嫌な奴に見られた、と思う。
正直なところ、こいつを信用などしていない。
弱みを握られた…と舌打ちをする。


「…何の用だ、不動。」


腹の底から低い声を出して不動を睨みつける。
不動は少しおどけるように「お〜こわいこわい」と言って焼却炉から飛び降りる。
不動がひらりと落ちた地面に土ぼこりが舞い、少々目に入るが気にしない。
こいつは、何をしでかすかわからないのだから。


「不動、久しぶりだな。今日は学校に来てたのか。」


こともあろうか空気読めないおばかな源田(略してKOG)は気安く不動に話しかけた。
つかお前、今この場で俺らがほもってるところ見られたんだぞ。
少しは焦れよ。
と思うが不動から目が離せない分、背後の源田をちらりとでも見る余裕はない。
すたすたとこちらに近づいてくる不動を警戒していると、俺の横をすり抜けるときに不動がにやり、と笑った。
勢いよく不動のほうを振り返ると、源田の真正面に立っている奴がいた。


「ああ、今日はまあ、気が向いたから。」
「それはいいことだな。明日も気が向くとよりいいな。」
「お前はおかんか。」


とまあそれは親しく話しだすので少々呆気にとられてしまう。
源田を軽くどつきながら酷く親しげに話すので、こいつらこんなに仲良かったか?とクエスチョンマークが脳内をひしめく。
源田は不動に馴れ馴れしかったが、不動が源田とこんなにも気安く喋るところをみたことがない。
その光景を眺めていると不動がちらり、とこちらを向いた。
そしてにやり、と笑う。


「…ところで源田、」


そう言って、何気ない話をしながら源田にゆるり、と近づく。
どんどん距離が狭まって行って、これは、もしや、と思う。
何が起こっているのかは脳味噌があまり理解したくないようであった。
そしてそのまま、すらりとした腕で、源田の首にまとわりついたのだ。
まるでカップルのそれ。
どうしていいのやら、なんというかよくわからないもやっとした感情が渦巻く。
これはなんだっけ。


「なんだ不動、」
「いや、あのさあ、目にごみ、入っちゃって。見てくんね?」
「わかった。どっちだ。」
「右。」


どうしてその体制に何も言わない。
と理不尽にも源田にすら憤りを感じる。
そのまま、源田の手が不動の頬に伸びていき、触れる。
先程まで俺に触れていた手が。
俺の好きな、源田の手が。
どんどん距離が近くなって、不動の右目を覗き込むように、近い、近いって。
不動が、また笑った。
目線は源田を見つめたまま。
でもその目が射抜く先は、俺。
喧嘩を売られている、瞬時にそう思った。


「不動、いい加減にしろ。」


先ほどより、もっともっと低い声が出た。
そのまま不動と源田の元に近づいて、源田の首に絡んだ腕を軽く捻る。


「冗談だって、そんな怒んなよ。」


そう言って笑う不動の腕を源田の首から力づくではぎ取って、体を強く押した。
薄い不動の体がよろけて、はっと我に返る。
何を、やっているんだ、と。
押されたにも関わらず、にやにやと笑う不動に、やられた、と思う。
これさえも、不動の思う壺じゃないか…!!
しまった、と頭を抱えたくなるが、それも出来ず。
どうせなら最後まで格好悪いまま、となるようになれと思い不動を睨みつける。


「よかったな、源田ァ。佐久間、妬いてんぞ。」


そう源田に言い放ってしまったのだった。
後ろからえ?と源田の驚いた声が聞こえてきてしまい、羞恥で死にたくなる。
俺は、「源田に好きな女の子が出来てもいい」とすら思っていたのに。
心の奥底ではこんなにも独占欲が強かったのだ。
その見たくない女々しい部分の蓋を、目の前の憎いモヒカン野郎にまんまと開けられてしまったというわけだ。


「じゃ、まあ、ごゆっくり。」


そう言って、背を向けてゆらり、と歩きだす不動。
羞恥で動けず、不動の背中をぼんやりと見つめる。
失態だ。


「佐久間、」
「…んだよ。」


後ろから源田の声がして、振り向いた瞬間ぎゅ、と抱きしめられてそのまま抱きあげられてしまう。
所謂お姫様だっこというやつで、足が宙を浮いて、逃げ出すことなど不可能だ。
同い年なのにこの体格差、憎らしい。
暴れるのを諦めて、不覚ではあるが安定を求めて先程不動が絡めていたその場所に、同じようにして腕を絡める。


「嬉しい。」


そう言って源田が笑うのでなんというか、偶には素直になるのもいいか…と思ったがあまりにも源田がにやにやするので腹が立つ。
調子に乗るんじゃねーよと、言おうとしたがその言葉は源田によって吸い取られてしまった。






* * *

シキ様から、源佐久に辺見か不動あたりが邪魔をするでした!
リクエストありがとうございました。




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