玩具の正しい遊び方









腹が立った。
無償に、腹が立った。
俺が奴にイライラするのはいつものことなので気にはしなかったが、どうしても、昨日は無理だった。
怒って、暴れて、物をちぎっては投げちぎっては投げ、あんなに大騒ぎしたのは久しぶりだなあ…となんだか感慨深かったりもする。
だけどそれだけでは腹の虫はおさまるところを知らない。
今日一日、奴の顔を見るだけで殴り飛ばしてしまいそうだ。
だから極力、近づかないようにしていたのに、あろうことか奴は、普段絶対しないくせに、通学路の途中で待ち構えていたのである。


「………」
「………」


お互い静かな攻防戦が、もう5分ほど続いていた。
目が合った瞬間、何故かあっちも睨みを利かせてくるので、俺もそれに答えたまでだ。
そもそも、途中でわざわざ待っていたのに、それが喧嘩を売るためだった、なんてどういう了見だ!と思う。
俺を馬鹿にしてんのか。
睨まれて、放っておくほど、俺は大人しい人間でもないし、男としてそれは黙っていられない。
売られた喧嘩は、倍返し。
それが俺のモットーだ。
「…なあ、土屋」


やっと口を開いたあほは、へらりといつもの調子で笑いかけてくる。
胸糞悪。
直ぐに暴言が出そうになるが、我慢する。
こういうときに先に言葉を発してしまえば、相手の思うつぼなのである。
喧嘩とは、そういうものだ。


「一緒に学校、行こうぜ。」


…ここにちゃぶ台があったら、ひっくり返しているところだ。
睨みきかせたあとに「学校、行こうぜ」ってどういうことだ。
学校と行こうぜの間の間が、うざい。
うざすぎる。
そのお姫様カットだかちょっと長いテクノカットだかわからない髪型をちびまるこちゃんの前髪のようにギザギザにしてやろうか。
今なら、髪なんて切ったことないけれどうまくできそうな気がする。
勿論、使うのはカッターである。


「………死ね。」


出来るだけ低く、そう声を絞り出す。
そもそも、こいつと一緒に登校なんて、喧嘩してなくても嫌だ。
断固!拒否!する!
本当に文字通り「No,Thank you...」である。
ご遠慮願いたい。
そしてこう、続ける。


「………貴様、それで許しを乞うているつもりか…?」


そんなあたかも「昨日?なんかあった?気まずいけど俺が話しかけてやったよ」みたいな態度はいらん。
俺が欲しいのは謝罪であり、地面と仲良くしてほしいだけだ。
そう、プライドの高いこいつに、地面と仲良く、跪けと、言っているのだ。
正直なところ、何故こいつと付き合っているのか、こいつのことが好きなのかよくわからない。
だが、俺のためにあの無駄に厚塗りなプライドがベッキベキに折れても、謝れるか。
女々しいかも知れないが、俺はそれが知りたかったのだ。


「………謝れ。」


酷く低い声が出た。
謝れ、謝れ、謝れとまくし立てる。
少し怖気づいたのか、また笑う根本にもう怒りを通り越してなんだか泣きたくなってきた。
お前にとって俺はそんなもんか。
もうしらん。


「………もういい。」


そう言ってするり、と根本の横を抜ける。
もうしらん、もういい。
するとがしり、と腕を掴まれた。
地味に痛い。
怒りが抑えられないまま、思いっきり睨みつけながら振り向く。


「土屋!悪かった!」


そう、言い放ったのだった。
別に土下座をしているわけじゃないけど。
こいつは産まれてからはじめて謝ったんじゃないか?というほど勢いだけの謝罪だったけれど。
謝ったときの恥ずかしいのかよくわからん顔を見れたので、なんとなく可笑しくなってしまう。
写真でもとればよかったとすら思う。
だが、しかし。


「………許してやるつもりはない。」


鳩尾に、きついの、一発。
その場にうずくまる奴をみて、とりあえず、満足。
暫くは慌てふためく根本で楽しもうと、そう思う腹黒い俺。プライスレス。
プライド高い癖に、妙に気の小さいこいつは、やっぱり小物なのだった。






* * *

小鳥遊そら様から、喧嘩して次の日超焦るうざい根本でした!
うざ…いか…?^^これ
リクエストありがとうございました。




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