憧れスパイス










「緑川、エプロンの紐、たて結び!」
「え?嘘!風丸、直してくれないか?」
「…全く、しょうがないな。」


そんなことと言いながら緑川と風丸くんがじゃれあっている。
なんとも微笑ましい光景を眺めながら、俺も俺でエプロンをつける。
今日はマネージャー達が不在なので、晩御飯はイレブン全員で作ることとなったのだった。
とりあえずエプロンをつけて、と。
それにしても、緑川のエプロン姿は可愛いなあとかそんなことを思う。
惚れた弱みか、正直どんな格好をしていても緑川のことを可愛いと思える自信はあるけれど。
学校給食で使うような白い布に紐がついているだけの簡素なエプロンではあるけれど、緑川にはよく似合う。


「ヒロト、ぼーっとしてどうした?」
「あ、円堂くん。」


後ろから円堂くんが心配そうに声をかけてくる。
俺、そんなにぼんやりしてたのかな?
円堂くんも皆と同じくエプロンを着用している。


「いや、緑川、似合ってるなと思って。」


ついつい、惚気てしまう。
いやでも、似合ってるのは事実だしね、仕方ない。
偶には俺の大事な子の自慢だってしてもいいんじゃないかな、と思う。
そう言って円堂くんの方を見ると、円堂くんも緑川と風丸くんのほうを見ている。
そして「そうだな」と相槌を打って、


「風丸も、似合ってる。」


と言った。
そういえば円堂くんと風丸くんも、と考える。
円堂くんもたまには惚気たくなったりするのだろうか。
珍しいこともあるものだなと思って、俺も「そうだね、似合ってる」と返す。


「円堂くんはさ、風丸くんのこと、好きだね。」


少し意地悪な発言をしてみる。
円堂くんの、風丸くんを見る視線があまりにも愛おしそうで、幸せそうだらだ。
まあそれなら俺も負けないけれど、普段極端に鈍い円堂くんを少しだけいじめてみてもいいかな、と思った。


「おう、好きだ。」


そうきっぱりと言ってのけた円堂くんに、風丸くん愛されてるな〜と内心思う。
真っ直ぐと、こちらを見ることもなく、風丸くんの方を見たまま。
少し意地悪したくて聞いたのだけれど、はっきりと即答されて、でもああ、こんなもの円堂くんにとっては意地悪のひとつにもならないんだなあ。
正直羨ましいと思うし、でも俺だってはっきりとそう言う自信なら有り余るほどあるけれど。


「どこが好きなの?」


いつの間にか女の子たちの恋愛話のようになってしまっている俺の問いかけに、やっと円堂くんがこっちを向いた。
幸せそうな笑みはそのままで、その笑顔ですら惚気られているんじゃないかと錯覚してしまう。
そしてそれは周りですら幸せにする、温かいものだと思う。


「いつも一生懸命なとこかな、偶に頑張りすぎてるときがあるからほっとけないけど。」


全部、とありきたりなことを言わないあたりが円堂くんらしい。
弱いところも、強いところも全部受け入れる、円堂くんの懐の深さは俺が身をもって知っている。
円堂くんも幸せそうだけど、きっと風丸くんはもっと幸せなんだろうなあ。
少し羨ましいくらいだ。


「ヒロトは?緑川のどこが好きなんだ?」


でも、俺には緑川がいるから。
羨ましいけれど、寧ろ俺が円堂くんが風丸くんにしているように緑川を守っていけたらなと思う。
願望で、実際には出来てはいないかもしれないけれど、同性同士、という障害を乗り越えられたんだから、どうせならもっともっと幸せにしたい。
漠然とした将来の不安なんか吹き飛ばして、そんなものなんて最初からなかったかのように、当たり前のように。
そう、出来ればいいと思う。
羨ましいというのはきっと、円堂くんのようになりたいと俺が思っている、ということだろう。


「…うーん、そうだね。無邪気なところかな。危なっかしいというか。」


いつも一緒にいたから、正直なところよくわかってはいないかもしれない。
でも、全部、という言葉は都合のいい言葉だと思う。
全部好きなんてありえないから。
好きなところ、嫌いなところ、ひっくるめて。
そういうのが愛だと、思う。
いや、そう思いたいだけかもしれないけれど。


「そっか。ヒロトも緑川のこと、ほっとけないんだな。」
「うん、その通りだ。」


円堂くんの言葉がしっくり胸に収まった。
うん、そうだね、ほっとけない。
放っておけないというのはイコール、要するに、傍にいたいのだ。
やっぱり円堂くんはすごいな、と思う。
そして円堂くんと風丸くんの関係より、もっとずっと、緑川といい関係を築いて行けたらいいなあ、と思った。


「緑川も似合ってるだけど、」
「うん。」
「風丸のほうが似合ってるな!」


うんうん、と最後に思いっきり自慢と惚気を炸裂する円堂くんに苦笑しながら、俺も、それについては声を大にして、言いたい。


「いや、絶対緑川のほうが似合ってるね。そこは譲らないよ、円堂くん。」


そういい放つと円堂くんが可笑しそうに笑うので、俺もつられて笑った。






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やぶうち様からの基緑と円風で嫁自慢でした!
フリリク企画にご参加ありがとうございました!




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