つないで、おやすみ。










合わせた手のひらに、安堵する。
直ぐ傍に、直ぐ横に、彼がいるんだと、確認して、安堵する。
温かさに自然に笑みがこぼれて、ぎゅ、とこちらから手を握ってやる。


(長かったな…)


そう思って、ため息をつく。
世界大会に、俺は出れなかったけれど、やっと大会が終わって、ヒロトが帰ってきた。
やっぱりなんだかんだで寂しかったのだ、と空港で再び会ったときに思った。
横で眠るヒロトの顔を見て、そんなことをぼんやり考える。
重力に従順なさらさらとした赤い髪に触れる。
触れれば触れるほど、伝わる熱が、心地いい。
もっと触れたくて、もっと感じたくて、体ごと擦り寄った。
ヒロトの胸にそっと頬を寄せると、じんわりと熱が伝わる。


(ヒロトの匂いがする…)


手をもっと、もっととぎゅ、と握って、顔を擦り寄せた。
広がる匂いにどうしても、我慢がきかない。
もっと近寄りたくて、熱を感じたくて、すん、と鼻を動かす。
するとヒロトが身じろいだ。
顔を上に上げるととろりと寝起きさながらの眼をしたヒロトと目が合う。


「ごめん、起こした?」
「いや…大丈夫、どうしたんだい。」
「う…えっと…」


帰国したばかりで疲れているに違いないのに、ヒロトは優しい。
にこりと微笑んで、俺の答えを待っている。
俺はどうしても素直になれなくてもごもごと口ごもっていると、勝手に繋いでいた手が、今度はヒロトからぎゅ、と握られた。
突然のことに、どうにも嬉しくなって、自然と緩む頬にヒロトのもう片方の手が触れる。
あったかい。


「…その、」
「ん?」
「久しぶり…だから、」
「うん。」
「…甘えさせてください!」


勢いで何故か敬語でそう言ってしまってから空いている片方の腕でヒロトの背中にしがみつく。
言ってしまった!と後悔してからでは遅いのだが、赤くなる頬を隠すように、より一層擦り寄せる。
するとヒロトは頬を撫でていた手で、今度は俺の頭を撫でてくすりと笑いながら「よく言えました」と言った。
そして暫くそうしていて、絡められた指からも、頭を撫でる手のひらからもヒロトの体温を感じることができる。
うれしくて、うれしくて、たまらなくて、気付くとどうしようもなく、好きで。
頭の中を堂々巡り、一回りして帰ってきてもその気持ちは全然変わらない。
寧ろ大きくなっていく気持ちに、自分でもうろたえるほどだ。
心地よさに目をつぶって、ヒロトをいっぱいに感じると、どんどんどんどんぽっかりと空いた空白の時間が埋められていくようだ。


「ヒロト、俺、やっぱりヒロトがすきだ。」


普段は恥ずかしくて口に出せないけれど、今日だけは特別に。
口に出して”好き”だということでもっともっと自覚する。
好きだ!大好き!愛してる!
流石にここまでは、言えないけれど。


「どうしたの…今日はやけに甘えただね。」


あ、そうか、久しぶり、だもんね。と続けたその口はずっと微笑んでいて。
なんていうか、幸せだな、とかそういうのを通り越して、もっともっとその向こう側で。
永遠って言葉を、信じたくなる。
まだ俺たちは子供で、そんなことなんて、絶対ないのかもしれないけれど。
小さな希望に縋ってもいいじゃないか。
今が良ければ、それでいいじゃないか。
漠然とした不安なんて、後回しでも。
ヒロトは今、俺の目の前にいるんだから。


「ねえ、緑川?」


ヒロトがふいに喋り出したので、顔を上げてヒロトのほうを見る。
穏やかで、少し眠そうなヒロトのとろんとした猫目が、とても可愛いと思う。
よしよしと撫でる手が、俺の右頬に、繋いでいた手が離され、俺の左頬に。
添えられて、顔を固定されて、もう一度微笑んだヒロト。
あったかい。


「俺もお前が好きだよ。俺も、今日はリュウジに甘えされてくれる?」


俺は嬉しくて、嬉しくて、でも少しだけびっくりして、こくんと頷いた。
どんどんヒロトの顔がそのまま、近づいてきて、目の前がヒロトでいっぱいになる。
少しだけ、鼓動を整えようと大きく息を吸うと、そのままその唇に、ヒロトのそれが重なった。
味なんて、あるわけないのに甘い。
びりりとキスだけで痺れる脳髄は、きっとヒロト仕様。
ヒロトにしか俺の深いところは反応なんてしない自信がある。
好きだなんて言葉がチンケに思えるほど、欲しくて、好きで、触れたい。
それほど長い時間、触れていたわけではなかったけれど、満たされるには充分。
離れたヒロトが少し照れくさそうにほほ笑むので、俺もつられて笑ってしまう。
そのあとぎゅっと抱きしめられて、それから眠りに落ちるのに全然時間がかからなかったけれど、明日朝、起きてもヒロトが隣にいる、という事実がとてもうれしかったのだった。






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ひなぎ様からの基緑甘甘でした!
フリリク企画にご参加ありがとうございました!




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