※緑川がおんなのこです。


控えめな主張










緑川は俺の幼なじみだ。
いつも元気で負けず嫌い、頑張り屋の彼女が至極真剣な顔で俺の前に佇んでいる。
どうしたのか、と聞くと顔を真っ赤にしながら短いスカートから生える健康的な足震わせた。
噛み噛みになりながら、だがしっかりと、お願いがあるんだ、と言った。


「…とりあえず、深呼吸したら?」
「う、うん…」


すう、と大きくオーバーリアクション気味に息を吸って、同様に吐き出す。
そして胸に手を当てて小さくよし、と気合いを入れた。
一連の流れが面白くて若干口角が緩んでいたのを引き締める。
何かここまで緑川を動揺させるものがあるのかもしれない。
お兄ちゃん的存在の俺としては、助けてあげるのが道理だ。
緑川がもう一度深呼吸を開始し、今度こそ口を開く。
その口からは全くの予想外の言葉が飛び出るのを、俺はまだこのとき、知る由もなく。


「…ヒロトっ!」
「ん?」
「あ、あの、その、えっと…っ」
「恥ずかしがらずに言ってごらん。力になるから。」
「ほんと…っ!?じゃ、じゃあ…」


少し目を輝かせて笑って、それからこほんと咳をする。
そして俺の右手を両手でぎゅ、と握って、ようやくそれを言い放った。


「お、お、お、俺のおっぱい、揉んで下さい…っ!!」
「えっ!?」


思わず上擦った声がでたのは仕方ないと思う。
いや、まさか胸を揉んでくれ、と要求されるなんて思わなかった。
というか緑川の口から『おっぱい』とか聞けるとも思わなかったし。
いやしかし…と悪いと思いながらも緑川の胸元を見る。
緑川の胸は、小さい。
まぁまだ中学一年生だし、仕方のないことだと思うけれど、小さく主張する2つの山は10人くらいに聞けば5人くらいは「え?あるの?」と返すレベルだろう。
しかし顔を真っ赤にしながら真剣な目で俺を見つめる緑川に「力になる」と言った手前、後に引けるはずもなく。


「えっと…どうして?」


とりあえず理由を聞いてみた。
正直なところ、俺も男。
女の子の胸を揉むなんてそれは願ったり叶ったりなんだけど、そのままほいほい触れる程強靭な精神を持ち合わせてはいない。
要するに、心の準備をさせてほしい、ということだ。
緑川は視線を逸らし、俺の手を握ったまま、ごにょごにょと小さな声で何か言っている。


「いや…揉んだら大きくなるって…雑誌に書いてたから…」


やはり大きさを気にしているようだった。
羞恥からか、若干潤んだ目で見つめられると、なんだかいけないことをしている気分になってしまう。
いや、実際しようとしている真っ只中なんだけど。
冷静な部分が、緑川もそういう雑誌、読むんだと変なところで関心していたり。


「…駄目…かな?」


気付くと緑川の手はかたかたと震えていて。
やっぱり異性が体に触れる…というのは相当勇気がいるのだろう。
今にも消え入りそうな声でそう言われては、頷くしかなく。


「…いいよ。」
「ほんとっ!?」


そう言ってやれば、パッと明るい笑みが俺に向けられる。
くるくる変わる表情がとても可愛らしい。
そして俺の右手をそのまま、一瞬躊躇ったあとに自らの胸元に持って行った。
ふに、と控えめな感触が手のひらに広がる。
小さくとも確かに、女の子のそれ。
左手で俺の腕を掴んで固定したまま、今度は右手で左腕を掴まれた。
そしてそのまま緑川の右胸へ。
両方の胸の上に乗せられた手のひらから、緑川の早すぎる鼓動が伝わってくる。
こちらまで今更恥ずかしくなってきてしまって、顔が紅潮してきたのがわかる。


「み、緑川…」
「うぇっ!?な、なに…?」


なんとかこの空気を払拭させようと、必死で言葉を紡ぐ。
手のひらの感触が妙に生々しくて、手の感触を考えないように。


「触るの、俺でいいの?」


多分この初々しさから、触れられるのははじめてなんだろうと思う。
はじめてを俺なんかに…いいのだろうか。
それに、緑川は晴矢や風介とも仲がいい。
俺じゃなくてもいいんじゃないだろうか。


「ヒロトじゃないと意味…ないから。」
「俺?」
「だって、雑誌に好きな人に揉んでもらったほうがいいって書いて…あ、」


言ってしまってから緑川は目に見えて狼狽する。
顔は耳まで真っ赤で、今にも湯気が出そうだ。
それは俺も同様で、しっかりと耳にしてしまったその“好きな人”という言葉に硬直してしまう。
俺じゃないと意味ない、好きな人じゃないと意味ないって…あれ?え?そういうこと?


「わ、わ、わ、忘れてっ!今の忘れてっ!!」
「あ!みどりか…わ…」


慌てて俺の腕から手を外し、走り去ってしまった。
1人残された俺は小さく溜め息をついた。


「まいったな…」


そう呟いて、まだ微かに感触の残る自分の手のひらを見つめる。
いつまでも、緑川の『お兄ちゃん』のままでいるわけにはいかないなとぼんやりと考えるのだった。






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結城さんからいただきました、基緑で女体化でした。
リクエストありがとうございました!




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