田舎にて 畦道を悠々と行く。 青々と茂った草や、瑞々しい田園に、なんとも開放的な気分になった。 水がせせらと流れる溝や、鳴き続ける蝉。 夏だな、と腕にじりじりと太陽を感じながら思った。 前を行く緑川のふわふわとしたポニーテールもまた緑色で、なんだか不思議な感覚になる。 ふらふらと鼻歌を歌いながら左右にぶれにぶれ楽しそうに歩く緑川に手を伸ばしてみる。 なんとなく掴みたくなって緑色のそれをえい、と掴んだ。 掴むと緑川からぐえ、と蛙を潰したような声があがった。 「なにしてんだよ、ヒロト!」 「いや、なんとなく、目の前にあったから。」 動いてるものを見るとなんだか触りたくなるだろう?というとヒロトは猫みたいだな、と苦笑された。 そして緑川は何かを探すように視線を泳がすと、あ、と嬉しそうな顔をして道端にしゃがみ込んだ。 しゃがみ込んで、何かをぶちっとちぎる音がする。 ちぎったあと、俺の目の前でそれをゆらゆらと揺らす。 ねこじゃらしである。 「ほら、これで我慢しなよ。」 そう言ってはい、と渡されたものの、いや、なんというか。 猫=ねこじゃらしだなんて短絡的すぎやしないか。 まあ、くれるならもらっておくけれど、と手に取ると緑川はまた満足したように前を歩きだした。 「……」 手元のねこじゃらしよりどう考えても緑川のポニーテールのほうが俺にとっては魅力的なのである。 見比べてみてもねこじゃらしはあったかくないし、ただの草だし。 それならば前を行く緑川の体温が微かに籠っているような気がしなくもない緑のほうがとても、触れたい。 またぐい、と掴むとこんどはひ、だのなんだか上ずった声を出して、緑川が振り向いた。 「…ヒロト、」 「ごめんごめん。」 つい、というと少しむくれた緑川が俺の左横にやってきた。 そして俺の顔を睨みながら、がっと腕をホールドされる。 「横にいれば触れないだろ?」 そう妙案だと言いたげな得意げな緑川に今度は俺が苦笑する番だった。 二人で並んで草の生えた道をざくざくと歩く。 さんさんと降り注ぐ太陽がどうにも目に眩しい。 ただでも、のんびりとした散歩もたまにはいいものだな、と思う。 のどかな風景に、横に緑川。 なんともいいシチュエーションじゃないか。 まあ、俺にとって、横に緑川さえいればいいんだけれど。 ああ、もしかして。 「緑川、」 「なに?」 振り向いた緑川がとても太陽宜しく眩しくて、という言い回しはあまりにもクサいけれど、実際そうなのだから仕方ない。 左隣の緑川が俺に歩幅を合わせながら歩いているその光景に俺はどうしようもなく満たされるのだ。 先程、緑川のポニーテールを引っ張りたくてたまらなかったのはきっと、隣を歩いてほしかったからなのだろう。 無意識にそういうことをしてしまうだなんて、俺はどれだけ緑川のことが好きなんだ。 不思議そうに見てくる緑川の、俺の腕がまた悪さをしないようにとがっちりホールドされていた左腕をひきはがす。 そしてそのまま緑川の右手に指を絡めてやるとひゃ、と今度は何か冷たいものでも触ったかのような声を上げた。 「ひ、ひ、ひ、ヒロト!!!!!」 「なに?」 今度は俺がなに、と問いかける番。 慌てふためく緑川ににこりと微笑んでやると顔を真っ赤にして黙ってしまった。 うーとかあーとか唸りながらも俺の指をひきはがしたりしない緑川がとても愛おしい。 より一層、絡めてやると一瞬びくっとした緑川だが、今度は大人しく俺の指に自ら指を絡めてきた。 「繋ぐとき、は、言ってよ…」 そうだんだん勢いがなくなる語尾に苦笑しながら、ごめんねと言うと別にいいけど…と返ってきた。 心の準備が…とごにょごにょ言っている緑川の手を引っ張るとついてくる。 ひょこひょこと今度は横で揺れるポニーテールを眺めながら、歩いて行く。 何もない、草しか生えていない道だけれど、緑川がいればそれでいいなあ、なんて本当にどうかしてる。 まあそれを口に出したりはしないけれど、こうしていられるのが本当にたまらなく嬉しくて。 緑川も同じだといいなあ、と考えて、いつのまにこんなに欲深くなってしまったんだろうか、と自らに苦笑する。 「あ、バッタ!ヒロト、走るよ!」 ぐいと手を引かれ、先程までもじもじしていた緑川はどこへ行ったのか、元気いっぱいに走り出す。 俺もたまらず走る。 草を、花を、踏みながら。 「緑川、あんまり走ると転ぶよ!」 「大丈夫だって、サッカーで鍛えてるし!」 あまりにも全力疾走な緑川に、足元の環境はいいとは言えないこの場所に、注意する。 だが聞く耳を持たない緑川はまだ全力でバッタを追いかけているのだった。 しかたないな、と走りながら、手を引かれながら、息を吸う。 そして全力で、言う。 「リュウジ!!!」 「………っ!!!!?」 それはもう見事だった。 緑川の動きを止めようとした手段はどうやら失敗だったようで、緑川は驚きのあまりこれまた盛大に転んだのだった。 まあ、それは手を繋いでいた俺も同様で、緑川に引っ張られるように転ぶ。 鼻孔を突く、草の匂いと視界は緑に一面で、くるりと転んだ状態のまま、緑川がこちらを向いて、照れたように笑った。 「ごめん、ヒロト。」 俺もそれに対して微笑み返してやると緑川も満足そうにまた笑うのだった。 転んでも決して離さなかった手に力を込めてやると、緑川も同様で、いつまでもこうして隣で歩いて行けるといいなとぼんやりと思った。 * * * 瑠稀さんから、基緑で甘甘でした! リクエストありがとうございました。 戻る . |