12時過ぎのシンデレラ 2











「辺見殺す死ね今すぐ死ね三秒以内に俺の前から消えろぉおおお!!」
「…っ落ち着けさく、うおっこら、箒振り回すな!!」


あの後、昨日のあの後、俺は源田に全くと言っていいほどばれることはなく(それが逆に俺の男としてのプライドをズタズタにしたのは言うまでもなく)普通に男女がするように近くの珈琲のチェーン店に入って茶をしばきたおし、そんでもって普通に別れたわけだが。
だがしかし、許せん。
罰ゲームとは言え、俺もいやいや了承したとはいえ、目の前の現況を許すわけにはいかないのであった。
というか単なる八つ当たりだった。
掃除用具入れにはいっていた竹箒を振りかざしていざデコ野郎をしとめんとしていた。


「あの後お前、先に帰りやがって…!!」
「あ、いや、その成神が見たいテレビがあるっていうから…!!後輩大事…!!」


逃げまどう辺見の息の根を止めるべく振りかざす。
その時ふいに携帯が鳴るのであった。
マナーモードに設定しているから正確には震えたが正しいけれど。
俺は舌打ちをして携帯を制服のポケット取り出す。
差出人は『源田』。


「…うおっ」


思わず声を出してしまう。
それに気付いた辺見がひょこひょこ近づいてくるが今は携帯のほうが優先だった。
何故なら昨日女装した俺は源田に言われるがままメールアドレスを交換していたのだった。
勿論源田のアドレスは俺だって知ってるし、源田も俺のメールアドレスは知っているから以前なんかの理由でとったサブアドを教えた。
『初対面の人にいきなり本アド教えるのは怖いから…☆』とかなんとかっつって。
昨日は源田からメールは来なかったから結局社交辞令で聞いただけかと思ったけれど。
どっちの俺ご指名かと確認してみるとどうやら案の定ビンゴで。


「…メアドなんて交換してたのか。」
「…聞かれたから…それに変なとこでバレたくなかったし。」


折角ばれていないんだからボロは出したくなかったのである。
なんてったってそこまで完膚なきまでにばれてないのであるから、恥ずかしすぎて死ぬわ。
名門帝国学園の生徒、悶絶死!とかって一面飾るのとか嫌だしな。
そして内容に目を通す。
思いもよらない文面が目に入って思わず体がビクついた。


「………辺見、」
「………名前か?」
「………そう、名前…」


ひょいと俺の携帯を除く辺見。源田からのメール内容は『昨日は楽しかった』という旨と『名前を教えてくれないか』ということだった。
流石に『佐久間次郎』と本名を教えることなんて絶対できない。
ここまでなんとかばれずに着たのにここであほみたいなヘマをして自らばらすなんてどういう了見だ。


「…じろこ?」
「あほ。」


思いついた俺の名前をもじった女子っぽい名前を発するが辺見に即座に却下される。
そんな名前の女子いねーよといわれるがもしいたらどうする気だ。
じろこさんに土下座して謝れよ。
そもそも俺はあまり女子の名前に執着がなく(いたらいたで結構怖いが)、あまり良い名前等思いつかない。
助けを求めるように辺見を見ると辺見も少々困っているようだった。



そして部活も終わり、家である。
今日はポジションごとの練習だったから源田とあまり関わらなかったのが不幸中の幸いか。
自室に入り肩にひっかけた鞄を部屋の隅に投げ捨てて、ベッドに座る。
制服のポケットから携帯を取り出し、今日来た源田のメールを開く。
そして返信。そのまま携帯をベッドの上にこれまた乱雑に放り投げ、おのれ自身もベッドに沈む。
すると結構直ぐに携帯がブブブ、と震えた。


「…ん、」


練習後の体は少しけだるくて、だるさを感じながら腕を精一杯伸ばして携帯を手に取る。
うつぶせの状態のまま携帯を開く。


(あ、源田…)


普段の源田にしては異常に早い返信に少し驚きつつもぽちりぽちりとメールの確認をする。
メールの内容はやはり俺ではなく女装の俺へのさっきのメールの返信だった。


『良い名前だな』


とそれだけ一言綴られていた文面をまじまじと見つめる。
名前は結局辺見と散散悩んだ挙句、『佐久間』をもじって『さくら』となった。
意味はそれともうひとつあって所謂やらせのほうの『サクラ』とかけた!とどや顔で言ってくる辺見にいらっとしたがとりあえずじろこよりはましだろうと。
それに対しての返信である。
源田とはよくしゃべるのだが、メールは業務連絡ぐらいである。
まあ毎日会っているわけだから当然と言えば当然なのだが、こういった会話はとても新鮮だった。
その日はなんだかんだでだらだらと日常会話を続けていたわけだが、自分からメールをきればいいのに、きれない自分に少々驚いた。




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