*根本がびっくりするほど駄目男

ぐるぐる廻る










根本に彼女ができたらしい、というのはほんの数日前に手に入れたいくつかの情報のひとつだった。
かつてCクラス代表の小山さんと付き合っていた、というのは知っていたから、さして驚くわけもなく。
そして興味もない、といいたいところではあった。
いいたいところではあったが、どうにも気になってしまった。
それもそのはずで、恋人同士ではなかったにしろ俺たちはお互いの若さゆえの情欲をぶつけあう、所謂セフレという関係だった。
その俺に何も言わず、勝手に付き合うなんて。
と少々悔しがっている自分がいる反面、俺が口をはさむべき問題じゃないと冷静に判断している自分もいた。
どう考えても後者のほうが正しいし、今後根本には必要以上に接するべきではないということも理解した。
根本の馬鹿はどうでもいいことだが、その根本をお付き合いをしているという物好きな彼女にはなんの罪もない。
付き合った男がまさか「男と体の関係を楽しんでいました!」などと告白された日には、卒倒してしまうのは目に見えてる。
俺が女なら絶対そうだ。そうにちがいない。
それに俺はこう見えて、紳士的だし、女の子に対しては妙にフェミニストである。
崇拝している。
女子は神が生み出した奇跡の産物であると。
いや言いすぎかもしれないけれど、やっぱり女子はいいものだ。


だから、である。
今目の前に、俺の体にまるで盛りのついた犬のように欲情している根本がいる。
俺が拒否をするのをどうにもおもしろくなさそうな顔でみるものだから、本当にこいつは馬鹿だ。
馬鹿でなければ何なんだ。


「………おい、」

「な、なんだよ…。」


今まで無言で拒否をし続けていた俺が声を出したものだから、個の三流は少しだけうろたえる。
はあ、とわざとらしく大きくため息をついて、一瞬のすきをついて覆いかぶさっていた根本を押しのける。
立ち上がって衣服の乱れを直しながら、あほにしか向けない、というか根本専用の冷ややかな侮蔑のまなざしを向ける。
根本も根本でその一瞬以外は酷く人を馬鹿にしたような、見下したような眼を向けている。
いつものそれだ。


「………根本、彼女出来たんだろ?」


そうつらつらと唇から紡ぐと根本は一瞬驚いた顔をして、そしてにやり、と不敵に笑った。


「だから?」

「………こういうこと、しないほうがいいんじゃないか。」


だからじゃねーよとつっこみたい気持ちを抑えながら用件のみを淡々と告げる。
もう会わない、こういうこともしない、と拒絶しているのに、Bクラス主席のくせしてわからないのか?
だから根本はきっとAクラスにはなれないんだろうと勝手に頭の中で想像する。
体育倉庫独特のカビ臭いにおいと、埃っぽい空気、じめっとした日差しを浴びながら、その部屋の酸素を少量吸いこむ。
最後のとどめの言葉を浴びせようと思って、背けた顔を根本に向けようとすると後ろから抱きすくめられてしまった。
いつもはこんなことはしない。
ただ行為をして、ハイ終わり。
抱きしめられたとしてもその最中に荒々しく、何故今この状況でこんなにも優しく抱きしめるのかがわからなかった。


「そんな寂しいこと言うなよ、土屋。」


そう耳元で言われて、クスリと笑われて、悲しいかな、少々俺の体が反応してしまったことに驚いた。
ああ、そうだ。
紳士的な前に俺はそれよりも欲望に忠実だったなあ、と今まで苦にも思わなかったそれに少々嫌気が刺す。
腕を払おうかどうしようか迷っていると、全く動きのない俺に良しとしたのか、直したはずの衣服をまた荒らされ、暴かれていく。
どうしよう、どうしようとそればかりで、自分の中ではドライに接していたつもりだったのに、どうしようもなく、俺は根本という男とのこの行為が好きだったのだ、と思い知らされてしまった。
最低だな、と思いながら苦笑が漏れてしまう。
その隙にまわされた腕の片方が、顎に触れた。
後ろから、貪るように、でも位置的に無理があるためバードキスのようになってしまったそれは、この行為をしはじめてから、初めてした根本とのキスだった。


(………誰だか知らないけど、すまない。)


根本の彼女に心の底から謝罪を述べる。
こんな歩く下半身みたいな、だらしない男のどこがいいんだろう。
その子が泣くのは目に見えてるのに。
まあ、俺も人のこと言えないな。
もう一度ため息をついて、根本の腕の中で回って、今度は俺からキスをした。





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