違いはあるけれど 週末にお兄ちゃんが「他校の偵察に行くから一緒に行かないか」と誘ってきた。 勿論私も勉強になるし、お兄ちゃんとでかけられることはとても嬉しいから「いいよ」と即答する。 前日からとてもわくわくして、なんだか小さなころ遠足の前の日に眠れなかったそれと完全なるデジャブで、なかなか寝付けなかった。 そのおかげで朝少しだけ寝坊してしまって慌てて支度をする。 鳴りっぱなしであったであろう目覚まし時計はいつの間にか止まっていて、見たこともない小さいおじさんの所為にしておく。 時間がないこともあって服も適当に引っ張り出し、急いでパジャマを脱いで着替える。 お母さんに「朝ご飯は?」と聞かれたけれどもう時間がないから「いらない」と告げて大急ぎで出てきてしまった。 折角作ってくれたのに申し訳ないことをしたな、と心の中でお母さんに謝りつつ、靴を履いて猛ダッシュ。 このまま遅れてしまってはお兄ちゃんにも申し訳ない。 着いたときには待ち合わせ場所ぎりぎりで、お兄ちゃんは矢張り既に来ていた。 「ごめんね!待った?」 「いや、今来たところだ。」 そんなお決まりのやり取りをしつつ、乱れた息を整える。 そんな私にお兄ちゃんは苦笑し「そんな慌ててこなくてもよかったのに」なんて言った。 いつもお兄ちゃんと待ち合わせをするとどう頑張ってもお兄ちゃんがいつも先に待っている。 同じ兄妹なのにそういうきっちりしているところはなんというか、敵わない。 「あ、春奈。」 「ん?何?」 「今日実はもうひとり来るんだ。」 お兄ちゃんが私の顔を見ながらそんなことを言った。 もうひとり?誰だろう。 こともなげにそう言っているお兄ちゃんの顔を見返しながら、誰なのかと考える。 お兄ちゃんと仲が良い人と言えばキャプテンとかかな。 でも豪炎寺さんとも仲が良いし、佐久間さんとか? いろいろな人が浮かんでいっては消え、けれどお兄ちゃんが偵察に誘うくらいなんだからきっととても仲が良くて、信頼できる人なのだろうということだけはわかる。 そして待ち合わせ時刻5分後にその人物はやってきた。 のんびりと歩いてくるその姿は見覚えがある。 不動さんだ。 「よう。」 「遅いぞ、貴様。一体何分待ったと思っている。」 「たかが五分だろ、いちいちうっせぇなあ。」 確かにFFIが終わるときには少し仲良くなっていたかもしれないけれど、休日に会ったりするとは初耳だ。 少しだけ予想外だったけれど、まあ確かに偵察ともなれば不動さんと行っても可笑しいことはない。 だってふたりともチームの司令塔だし、よく夜に部屋で相手チームの分析で討論していたのも知っている。 けれど少しだけ寂しくなったのは、私と不動さんへの対応が違うことだ。 私が多分遅刻したとしてもお兄ちゃんは怒ったりしないだろう。 多分いつものように「今来たところ」なんてそんな言葉を使って私に気負わせないように優しい言葉をかけてくれる。 それはそれで嬉しいし、優しいお兄ちゃんが私は大好きだ。 けれど、不動さんには。 なんというかこれが男同士、というのだろうか。 本音でぶつかり合えるのはとても羨ましくて、少し寂しい。 私が男の子だったらお兄ちゃんはそういう風に接してくれるのだろうか、と思ったが、多分どっちでも変わらないのだろう。 「不動さん、こんにちは。」 「ああ、音無じゃねーか。」 そう言ってお兄ちゃんの方をちらり、と見るところを見ると、私と同様に今日は三人で偵察に行くことを不動さんにも伝えてなかったのだろう。 見られたお兄ちゃんは真顔で「何か問題があるか?」と言う。 私は正直、不動さんの反応に少しだけどきどきしていた。 別に嫌がられようがついて行く気は満々だし、そこらへんはあまり気にはならないのだが、ここで不動さんが帰ってしまわないかが心配だったのだ。 折角来たのに帰ってしまうのはもったいないと思っていたし、お兄ちゃんが呼ぶくらいに認めている不動さんのことをもっと知りたいとすら思った。 FFIの時不動さんと話をしたことはあるけど、あまりそこまで話したことはない。 少しだけ会話した程度だったから、興味があるのだ。 帰るな〜帰るな〜と念を送っていると気付かれたのか不動さんの視線がこちらを向いた。 しまった、と思い思わず目を逸らしてしまったけど、わざとらしかっただろうか。 そして不動さんが小さくため息をついた。 「いいから早く行こうぜ。」 私の予想は嬉しい方向に外れ、なんだか私は嬉しくなった。 その言葉に多分それをお兄ちゃんは予想していたのだろう、にやりと笑う。 不動さんはさっさと踵を返してその偵察する予定の学校に向かって歩きだしてしまった。 それを見て、お兄ちゃんが私を見て言う。 「行くぞ、春奈。」 「うん!」 なんだか嬉しくなってお兄ちゃんに元気よく返事をするとお兄ちゃんも私より少し先を歩いて行った。 そしてお兄ちゃんが不動さんに話しかけている。 何を話しているのかは分からないけれど多分、サッカーのことじゃないかと思う。 そんな二人をみていてなんだか嬉しいのは、なんでだろうか。 けれど嬉しいことには変わりなくて、二人の間に無理やり押し入って両方と腕を組んだ。 . |