何気ない休日の過ごし方 じりじりと肌を灼く日差しは夏そのものだ。 まだ五月も半ばだというのに、その暑さは不愉快な程である。 チッと舌打ちをしつつ履ききれていないスニーカーをきちんと履き直す。 鬼道は身嗜みに関してはとことん口うるさく、まるでどこぞの姑のようでタチが悪い。 特に何の気も使わず適当に選んだ黒いポロシャツは、光を余計に吸収するようで暑くて堪らない。 完全なチョイスミスにげんなりすると同時に携帯の液晶で時間を確認して「やべ」と声が漏れた。 結果的に微妙に遅刻した俺に、ゴーグルを外した鬼道の鋭い視線が飛ぶわけであるが、まぁ毎度のことなので鬼道も幾分諦めているらしい。 盛大な溜め息を吐かれたが、俺も正直もう慣れきってしまっていた為あまり気にならない。 しかし鬼道の妙に神経質なところは一生分かり合えないとは思う。 「で、今日はどこ行きたいの鬼道ちゃん。」 近頃お互い部活がないときはこうやって休日を共にすることが多い。 だから自然とお互いの休みを把握しているというなんとも気持ちが悪いことになってしまっているわけなのだが。 けれどそれが普通になってきているからこそなんだか許容範囲が広くなったな、と感じてしまう。 折角の休みに他人といることなんて負担以外の何物でもないわけだが、けれどそれが許せる程度には鬼道のことは多分好いているんだろう。 多分。 鬼道と遊ぶことにおいてゴーグルを付けて来るのは一緒に歩くの恥ずかしいからやめろ、と最初に条件を出したのだが律儀に分かったと承諾して以来それを付けてくることはない。 まぁお前のその頭だって同等だろう、と反論されたりもしたがそれを言うなら鬼道も人のこと言えない頭をしている。 ゴーグルを外した鬼道の顔は実に端正でかつ目つきが厭に鋭く、行き先を考えて眉間に皺を寄せる表情は悪いことを考えているようにしか見えない。 そして行きたいところが決まったのか鬼道が顔をぱっと上げた。 「……ほう。」 そして此処、である。 休日だからか矢張り人は多く、なんとか席を確保することに成功したわけだが。 目の前には難しい顔をした鬼道が何か感心したように頷いている。 こんなところに来て何が楽しいのか分かったもんではないがけれど鬼道は興味津々といった様子だ。 「で、ここも来たことなかったわけ?」 「ああ。一度来てみたくてな。」 その返答に自然と「これだから金持ちのボンボンは」という感想が出た。 休日に俺たちがしていることといえば、鬼道が行ったことのない、行ってみたい場所に行く、というなんともまぁなことであった。 まぁ仕方ないことなのかもしれない。 引き取られてからずっと帝王学をたたき込まれてきた鬼道にとってはこういう庶民的なところに強い憧れがあるのだろう。 最初も「頼みがある」とやけに深刻そうな面もちでやってきたかと思えばその口から出たのは「ファミレスに連れて行ってくれないか」というなんともしょーもない頼みだった。 そんなこんなで今日の鬼道の興味はファーストフード店である。 全国に展開しているであろうハンバーガーショップを適当に選んで連れてきてみればそれはもう至極興味をそそられるのか実に真摯に辺りを伺っている。 「つーかさあ、鬼道ちゃん。学校帰りに寄ったりとかくらいはあるだろ?」 「貴様何を言っている。登下校時の買い食いは禁止だろうが。」 と輪をかけたクソ真面目なのであった。 やれやれと思いつつ頼んだ飲み物にストローを差し込んだ。 俺が頼んだのは普通にハンバーガーセットで鬼道はてりやきバーガー。 鬼道は恐る恐るといったように、しかし真顔で自分の分のそれを開ける。 「鬼道ちゃん。」 「なんだ。」 「食う時……気をつけろよ。」 「何がだ?」 不思議そうにしているが鬼道は分かっていない。 てりやきバーガーが如何に食べるのにコツがいるバーガーであるかを。 疑問に思いつつも俺がそれ以降何も言わないので鬼道は食べ始めたわけだが、言わんこっちゃない。 ヌルヌルとしたソースが中身を滑らせ、最終的にはバンズが先になくなってしまい非常に食べ辛くなる。 自分が頼んだハンバーガーを頬張りながらちらちらと見ていたがもうズルズル加減が半端じゃなくて気が付いたときには口を出していた。 「鬼道くん落ちる。」 ちゃんとずらしながら慎重に食べろ、と指摘すると鬼道は一瞬呆気に取られたような顔をしてああ、と合点がいったような顔をした。 その顔を見つつ貴重が垂らしたソースをナプキンで拭ってやった。 そして小さく吹き出すのでなんだ、と問う。 「不動は見掛けによらず世話焼きだな。」 「……鬼道ちゃんは見掛けによらず世話が焼けるよな。」 まあ確かにそうかもしれない。 貴重な休日をこんなしょーもないことで浪費しているのである。 少し苛立ちつつストローを口に含みつつ中の飲み物を啜ると鬼道が今度は回転寿司に行きたいなんてぬかしやがった。 お前の奢りなら行ってやってもいい、と告げると鬼道は妙に嬉しそうな顔をした。 . |