型に嵌る違和感










普通に遊ぶ分には全くであるのに、どうして『デート』と定義してしまうと妙に焦ってしまうのだろうか。
今だって認めたくないものだが、手汗が半端じゃない。
ただいつも通り源田と歩いているだけであるのに、なんというか。
今まで二人で遊んだことなんか数え切れない程あるのに。


「佐久間、週末、デートしないか?」


などと、練習終わりのバテバテなときに源田に小さな声でそう告げられて、不意打ちすぎて思わず頷いてしまったくらいである。
無駄にいい声している源田にそんなことをぼそりと言われ、どう反応したら良いものか分からなかった。
そしてなんとなく実感がわかないまま、いつも通り一週間部活をやり遂げ、普通に寝て、起きて、着替えて待ち合わせ場所に来た。
時間に遅れたわけでもないのに矢張り先に来ていた源田が俺に気付いて嬉しそうに、照れくさそうに笑った瞬間、鼓動が異様に早くなってしまったのだった。
いつも通りに片手をあげて「よう」とかそんな声を掛けてくれればこれほど緊張することもなかったのに。
いつもと様子が違う源田に、無性に照れてしまった。
思わず目を逸らしてしまい、まともに顔なんて見えやしない。
普段となにも変わりはしないのに、「デート」という言葉に縛られてしまえばこうも易々と心情は変化してしまうものなのか。
デートって一体何様のつもりだ。
認めたくないものの妙に意識してしまって、情けないほどに萎縮してしまう。
促されて他の場所に移動するだけであるのに隣にいるのが少し居心地が悪い。
それは緊張が齎すものであると重々把握してはいるのだが。
けれど一刻も早く帰りたいなどという感情も沸々と湧き上がって、なんというかいたたまれない。
本当になんら変わらずただいつも通り近所をぶらぶらする代わり映えのないもののはずなのだが。
デートという三文字は呪われているに違いない。
その三文字を振り切れれば此方のものであるし、緊張も一瞬で解れる気がするの。
試しに頭をバシッと一発思い切り叩いてみる。
忘れるんだ。
いつも通り、いつも通りと脳内に呼び掛けるように念じ、またもう一発頭に食らわせてみる。
そして一度深く深呼吸をした後、もう大丈夫だと言い聞かせ、顔を上げてみた。


「源田!」
「なんだ?佐久間。」


思い切って源田の名前を読んでみた。
するとそれに応じて振り向いた源田の顔を見た瞬間、どうにもよく分からないものがこみ上げてきて、思わず勢い良く顔を逸らせてしまった。
どっどっと先程よりも早く脈打つ心臓に自分がおかしくなってしまったのではないかとすら思う。
変な汗が出てきて思わず目をぎゅっと瞑れば先程の源田の顔が脳裏に浮き出てどう考えでも逆効果だった。
なんか、やたら格好良く見えたのが悔しい。
別に普段と変わらないのに。
とにかく落ち着け、ともう一度念じてゆっくり恐る恐る目を開けた。
開けた、は良かった。
いや、良くない。
先程より距離が幾分近くなった源田が目の前に心配そうな顔をして立っていた。
やめろ、心臓に悪い。


「おい、」
「大丈夫か?佐久間。」
「近いって。」


心配してくる源田をそうやって遠ざけようとする。
しかし源田は全く物怖じせず、寧ろようやく合点がいったように俺に微笑んで見せた。
やっぱり今日の俺はおかしい。
源田が笑ってくれたことが心底嬉しくて仕方ないと感じてしまったからだ。
調子が狂って仕方がない。
ああ、もう、勘弁してくれないか。


「佐久間、緊張してるのか。」


もう完全な言い切りの形に観念するしかないな、と思った。
お、おうとどもりながら返答すると源田は今度はへらりと笑った。


「俺もだ。」


ぽんと頭に手を置かれ、お揃いだなぁと妙に間延びしながら言われ、うるさい、と返した。
けれどなんとなく嬉しくなったのだけは秘密にして置くことにする。






戻る



.