相互作用










別に彼女であるからと言って束縛したいとは思わない。
元々自由な奴であるからそこはもう好きにさせておいてやりたいと思うし、まあそういうところが好きになった所以のひとつでもあるので、あまり口出ししたくないのではあるが。
だがしかし。
矢張りどうしても譲れない部分があるというかなんというか。
席に座っている俺の前でほぼ喧嘩腰に会話をしている二人の女子(彼女含む)を見つつ思う。
なんというか、その。


「おい、お前たち。」
「なんですか、鬼道さん!」
「んだよ。」


自分の彼女の方がつっけんどんな対応なのは如何なものかと思いつつ、けれどまあ此方に向いて返事をしてくれたということだけで良しとしよう。
先にも言った通り、細かいことは言いたくないのだ。
しかしながらどうしても、気になる。
俺に対する反応が実に正反対な不動と佐久間に、とりあえず意を決してそれを伝えてみる。


「…スカート、短すぎやしないか。」


やっとのことで言ってやった、とふう、と口から息を漏らす。
あからさまに不機嫌になった不動が、ぴくり、とその整えられた眉を動かした。
指図されるのがとてつもなく嫌いな不動にとって確かに忠告されるのも嫌なのかもしれない。
いや、ましてファッションのことであるし、男の俺にそんなこと言われてもといった具合なのだろう。
佐久間はと言うと一度自分のスカートをちらり、と確認してバン、と俺の机を叩く。


「何を言ってるんですか、鬼道さん。これが可愛いんじゃないですか。」


と、流石の佐久間も今回は反論にまわるらしい。
まあ確かに今この学年の女子の間ではスカートを二重三重に折って短くするのが流行ってはいるものの、この二人、というかまあ不動は群を抜いて短い。
二人とも運動を常日頃からしているしスタイルはそれはもう申し分ない。
だから惜しげもなく出すことにはなんの抵抗もないのだろう。
だが。
その抵抗のなさが此方としては問題なのだ。


「そうだぞ、佐久間、不動。」

そこまで考えたところでタイミング良く源田がひょこりと現れる。
そう言いながら此方に近づいてくる源田に少しだけ安堵する。
女子2人と男子1人では流石に分が悪い。


「まだ肌寒いしな。女子は体冷やすものじゃないぞ。なあ鬼道。」
「お前は母親か。引っ込んでろ。」
「そうだぞ源田。お前は全然分かってない。」


と一人増えた大事な戦力も女子二人にぼっこぼこなのであった。
なんというか尻に引かれてる感が半端じゃないというかなんというか。
そしてなあ、と振られたものの、俺はなかなか言い返すことが出来ないでいた。
そういう純粋な角度から物事を捕えられる源田がどうにも眩しくて、自分がなんとなく浅ましく感じてしまう。
体を冷やすとかそういう心配をしていたわけではない。
それはまあ全くそう思わないわけではないのだが、けれど一番大きな問題はそこではなかったのだ。
お洒落をするのには何も文句は言いたくない、だがしかし。
なんというか要するに、嫉妬、なのである。
正直な話、不動の足はとても綺麗だと思う。
だからこそ他の奴に見せて欲しくないという何とも醜い執着心が、俺の奥底にはあるのだ。


「あ、ああ…そうだぞ、不動、佐久間。」


なんとかそう取り繕うように言ってのけると不動の片眉がまたぴくり、と動いた。
今度はどうにも不機嫌ではない、何故か上機嫌で、多分俺がどもったことに対して俺が何か後ろめたいことがあると察したのだろう。
へえ、といって薄ら笑う不動に源田が不思議そうに小首を傾げた。


「不動はなんだか楽しそうだな?」
「おお、源田にはそう見えるわけか。おもしろいおもちゃ発見した。」


そして値踏みするかのように俺をじろり、と見る。
これは非常に由々しき事態であることは間違いない。
不動はしゃがみ込んで俺の机に腕を置き、俺の顔を下から覗きこんだ。
じっと見られてしまえばどうしようもない。
正直なところ付き合いだしたとは言ってもまだ間もない。
それに中学生に好きな女子にじっと見つめられて冷静であれ、という免疫力なんてそうそう持ち合わせられるわけがないのだ。


「いやでも確かに短いな。パンツ見えるぞ。」


俺がいつものようにポーカーフェイスを装いつつ、しかし今回は試合の時より必死に耐えているところ、源田がとんでもなくドストレートなことを言ってのけた。
そして佐久間の腰のあたりに手をやり、くるくると勝手に織り込んだスカートを手際よく戻してしまった。
それをして満足そうにうん、と頷き、やっぱりこっちのほうが可愛いな、と言った。
一方佐久間は一瞬何が起こったのかわからず、目をぱちぱちと二度大きく瞬かせ、次の瞬間。
サッカー仕込みの蹴りを源田に食らわした。


「源田てめぇ!ふざけんな!ぶっとばすぞ!」


と既にぶっとばした後にも関わらずそう叫ぶのである。
勿論教室中の注目を目いっぱい浴びたわけであるが、そのまま佐久間が走って逃げてしまい、源田も慌ててそのあとを追っていったのでその注目は直ぐに逸れることになるのであるが。
だがしかし、あの佐久間の顔。


「佐久間顔真っ赤だったな。」
「…そうだな。」


不動もそれをばっちり見ていたようだった。
照れ隠しをする度にあの蹴り飛ばされ方は洒落にならないレベルではあるが、まあさっきのは源田が悪い。
けれどそれを耐えうる源田のがっしりとした体格と、それを平気でやってのける気質は称賛せざるを得ないのだが。
そう考えていると不動が机に手をつけてぐっと起き上った。


「で、鬼道くん。」
「なんだ。」
「次は鬼道くんが赤くなる番なんだけど?」
「えっ」


上手く話が逸れたかと思ったが、どうにもそう上手いこと行くはずもなく。
今から理由を問い質され、それを言うには酷く勇気がいることだと分かっている手前、げんなりする他ない。
しかも確実にこいつはその理由と言うものが分かっているからこそのこの物言いなのである。
自分から言い出したものの、正直勘弁してほしい。







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