※年齢操作幼少期

はなしてみてきづくこと










幼いころはただ、何事にも懸命で、必死で周りに追いついて、追い越そうと躍起になるのは実に当然と言えば当然で。
俺ももちろん例外ではなく、人一倍負けず嫌いであったがためにそれはもう酷い有様だった。
誰よりも速く走りたくて、かけっこで一番になりたくて、元々足は速いほうであったが、けれどどうしてももっと速く走れるようになりたかった。
いつのころからか始めた、ジョギングは、まあ小学生の身分ではどうにも、ジョギングというか元気に走り回っているだけのようにしかみえなかったが、けれどどうにも、本当に真剣であった。
いつもの通りに鉄塔の下をぐるぐるとまわり、子供の俺にはそれは結構十分に長い距離を、走るのが楽しい、という気持と、もっと速くなりたいという気持ちが合わさって、どんどんと周を重ねていく。
しかし限度というものがあり、1時間程走り回ったところで疲れて、とりあえず休憩することにした。


「…ふう。」


荒い呼吸を整えるということをまだ知らず、ただ為すがままに呼吸をする。
ぜえはあと肺が酸素をほしがって、心臓が血液を作って循環する速度を増した。
そこに。
影が伸びていた。
自分のものとは違う、もうひとつの影が、真っ直ぐに立っていた。
位置的に、俺の横にいるのだろうその影の主の方角に向くと、夕焼けと同じ色のオレンジ色のバンダナを頭につけた、同年代くらいの少年が立っていた。4


「お前、すげーな!」


と彼は第一声でそういう。
よくよく見ると、同じクラスの円堂だった。
筋金入りのサッカー馬鹿で、いつも休み時間にサッカーばかりしているのを見かける。
あまり会話をしたことはなかったが、けれど円堂は良くも悪くも目立っている。
手には矢張り予想通りのサッカーボールを持っていて、ああ、こいつはやっぱり死ぬほどサッカーが好きなんだな、と改めて思った。
着ているジャージはどろどろだし、酷い身なりなのがそれを物語っている。
練習をしていたのだろうか?と思わざる負えない程にぼろぼろで、それが何故だか自分と同じような気がして少しだけうれしくなった。
隣いいか?と円堂が言うので、俺はこくり、と頷く。
ランドセルに突っこんだままのタオルを無造作に取り出して、汗を拭った。


「風丸だっけ。」
「そう、風丸一郎太。」
「だよな、俺同じクラスの…」
「円堂だろ?知ってるよ。」


そう言うと円堂は少し驚いた様子を見せつつも、嬉しそうな顔で笑う。
つられて俺もへらり、と笑うと円堂はまたより一層嬉しそうに笑った。
第一印象が『サッカー馬鹿』なら、次の印象は『よく笑う奴』だった。
笑顔がとても板についていて、太陽の下がよく似合うような、そんな感じ。
円堂からは、そう本人から香っているのかは分からないけれど、お日様の匂いがした。


「お前、足速いな。」
「そうかな?まだまだだと思う。」


円堂は本当に目を輝かせてそういうけれど、俺はまだまだである。
周りの大人よりは全然遅いし、まあ確かに同学年の中では速いと自負してはいるのだが、けれどそれは自分の満足のいく範囲ではない。
もっと速く、誰よりも速く走りたいのである。
だからこそ満足がいかない。
もっともっと前に前に行きたいのである。


「そこがすげーよな。」
「え?」
「速いのに練習するのってかっこいいよな!」


そう言ってなんの屈託もなく笑う円堂に俺は呆気にとられてしまった。
かっこいい。
自分では全くそんなことは思っているわけもなく、ただ闇雲に走っていただけに、そう言われるとどう反応していいのか。
照れるというのは何かが違うけれど、けどとても、なんだか嬉しい。
円堂のその顔には全くお世辞という感が出ていないし、それがとてつもなく嬉しいのである。


「風丸はさ、サッカーしないのか?」


そして次にはサッカーの話を始める円堂に、どうしようもなく可笑しくなって笑ってしまった。
話してみてわかることだが、円堂は確かにサッカー馬鹿で、どうしてそこでサッカーの話になるんだというタイミングだったのでとても自分の変なツボを刺激されてしまった。
俺が笑うのが可笑しくなったのか何故か円堂まで笑いだす始末で、なんだこいつは、と良い意味で思う。


「風丸はさ、足速いから絶対サッカー向いてると思うんだ。良かったら一緒に、どうだ?」


ひとしきり笑ったところでそういう円堂の提案に、俺は頷く。
また今度、一緒に、気が向いたら。
そう返答すると円堂は嬉しそうに笑うので、今度は俺が釣られた。
フィールドは違えど、俺も陸上馬鹿には違いないのであるから、きっと仲良くなれる気がした。




***
三十木さんから頂きました「幼少円風」でした。
フリリク企画にご参加、ありがとうございました!
これからも宜しくお願い致します。




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