勝敗は既に そういえば、とふと思うのは、佐久間と喧嘩らしい喧嘩をしたことがないな、ということで。 まあ別に仲が良いということはいいことなのだろうが、何故だかその日は物足りなく感じた。 別にそこまで仲良しこよしをするつもりもないのだが、『喧嘩するほど仲が良い』という言葉は一里あるとは思う。 だからなんとなーく話のネタに織り交ぜて、長い昼休みで昼飯を食べ終わって暇そうに机にだれている佐久間に提案してみた。 「佐久間、」 「んー?」 「喧嘩でもするか。」 「・・・・・・・・・はあ?」 たっぷり間を空けてだるそうに顔を上げながらそういった。 まあ確かに急に喧嘩するかなどと、戸惑うのも無理はない。 多分俺だって普通に戸惑うし2、3度聞き返すと思う。 そしてやめとこう、とか言うと思う。 それが普通の反応だろうし、極力喧嘩なんてしたくないだろう。 しかし佐久間の反応は予想していたものとは違った。 少しだけ考えるように眉間に皺を寄せ、考え込んでいたかと思うとにい、と笑って「いいぜ」と言った。 何か良くないことを企んでいそうな顔をしているが、まあ多分暇すぎて何処かショートしているんだと思う。 そしてガタリと席を立ち、俺を見据えて言う。 「どういう喧嘩にするんだ?殴り合い?」 となんとも物騒なことを言い出したので同じく立ち上がって肩を掴んで椅子に座らせることでそれを静止する。 それは流石に大事になりかねないし、周りに迷惑をかけるので避けたい。 サッカー部ふたりが喧嘩で大暴れして、生活指導室直行などとなれば、多分きっと大会にも出場できなくなるだろう。 それに体力馬鹿な俺たちなので、多分きっと校舎にも損害を与えそうな気さえする。 だから今回は(といっても次回開催など未定ではあるのだが)口喧嘩はどうだろうと提案した。 佐久間はまた少し考えて、「わかった」と小さく声を出して了承した。 それからは沈黙が続く。 まるで荒野のガンナーよろしく、地味にぴりぴりとした空気を醸し出している。 相手の出方を見ながら、どちらから先に攻撃をしかけるか、とまるで口喧嘩ではなく本当に殴り合いの喧嘩をおっぱじめそうな雰囲気である。 そして、どちらも口を一向に開かないのに先に耐えかねたのは佐久間だった。 「おまえさあ、」 あからさまに大きくため息をつきながらさも「すごく呆れてますよ」という体を出すあたり流石と言えよう。 それが実に様になっているあたり普段から口喧嘩するときに使い慣れてるな、という感がする。 そして一度本当にわざとらしく目線を逸らせて、じろり、とその大きな目で俺を見据えた。 俺はなんとなくおお、と内心感嘆しながらその様を見る。 「あれだよな、」 「・・・あれ?」 「そう、あれ。」 あれってなんだ、あれって。 「お前、それは分かれよ」とでも言いたげな呆れた表情は実に喧嘩っぽい。 そして一旦また目を伏せ、来る、と思うと矢張り丁度このタイミングで来た。 「お前いっつもぼーっとしてるよな。あと図体でかくて邪魔だし、なんかへたれっぽいし、なんか髪硬いし、」 「・・・うっ」 一つ来るかと思ったらどんどん来る言葉の数々に思わず唸る。 流石佐久間、まさかこんなにも次々と『喧嘩』という遊びであるにも関わらず本気で突き刺してくるとは思わなかった。 少し佐久間を侮っていた。 遊びだろうとなんだろうといつだって全力なのだ。 そして学ぶ。 そうか、口喧嘩というのはそれそのものには全く関係ない相手の短所をつつくことにあるのか。 となんだか自分でもよくわからない解釈をしてみる。 そして、なら俺もそれに習い、佐久間の短所を言えばいいのだという結論に至った。 「佐久間は…」 「…おう、」 佐久間が小さく息を呑んだ。 俺が何を言うか待ちかまえているらしい。 まぁたしかに幾ら冗談だと言っても何か心を抉るものがある。 しかしこれは言わば試合。 情け容赦は無用なのだ。 「………」 しかし、である。 なかなか他人の短所を見つけるのが難しい。 いや傲慢なところ…とかは裏を返せば自分の意見を貫き通せる強い意志があるわけだし、鬼道に盲目的なのも只単に友達想いな部分であるし。 短所らしきところをあげようにも捉えようによっては長所になる。 まして佐久間のその部分は俺にはない部分ばかりで責められる筈もなく。 不意に笑いがこみ上げてきて吹き出すと、佐久間に怪訝な顔をする。 「ないな!」 「…はぁ?」 「言うことが思い付かない。」 これが答え。 要するに降参、ということだ。 それに今度こそ呆れたようにため息をついた。 そしてビシッと人差し指で指される。 「お前の一番駄目なとこは俺に甘すぎるとこだよな。」 全く持ってその通りだと可笑しくなって、また笑うと人差し指で眉間を弾かれた。 *** 結衣さんから頂きました「源佐久で喧嘩」でした。 フリリク企画にご参加、ありがとうございました! これからも宜しくお願い致します。 . |