結局、どうせ。











いくら保健体育が出来るといっても所詮はひとつの教科に過ぎぬ。
それ以外が壊滅過ぎで、次また赤点を取るとえらいことになってしまうと、しょうがなしに目の前の偉そうな三流野郎に勉強を教えてもらうことになった。
Bクラスの教室で休み時間毎にわざわざ教科書とノートを持って通いつつ、分からないところを教えてもらう。
正直なところ根本になんざ教えてもらうなどと、屈辱以外の他はなかったのではあるが、致し方ない。
知り合いの女子に教えてもらうのでは血液的な問題で体が持たないだろうし、久保はなんだか身の危険を感じる気がする。
というわけで仕方ないのである。
そう、仕方ない。


「こんなのもわかんねーのか。」


等と人を見下したようにえらっそーに教鞭を振るってくる鬼畜な奴でもである。
仕方ない仕方ないといいつつ苛立ちを隠せないのは仕方ないのだ。
あとで覚えてろ、と内心思いつつ、黙々と目の前の問題をやっつけに掛る。
その時にがらりと扉が開く音がして、声高らかに呼ぶ。


「恭二!ちょっと、」


そう言ったのは根本の元彼女のCクラス代表の小山友香で、それに根本は「なんだよ、友香」と少しだけけだるそうに、でも心なしか嬉しそうにそれに応じた。
手招きする彼女にそのまま誘導され、教室の外に消えていった。
別れたといってもまだ名前で呼ぶほど親しいなどとは思ってもみなかった。
まあクラス代表同士いろいろと話すことはあるのだろうけれど。
ただけれど、先ほどとは少しだけ種類が違った苛立ちをしている自分に少々驚く。
多分ではあるが調子に乗っている根本に腹が立っているのだろうとそう解釈してシャープペンシルを握りしめた。
そしてまたそいつには目もくれず、問題に挑もうとするが、いかんせん気になってしまうのである。
二人がどんな会話をしている、だとか、そういうことが。
もしかしたらよりを戻してしまったのではないか、等と、妙に女々しいことを考えてしまう。
ぶんぶんと首を激しく横に振ってみても、気になるものは気になるわけで。
なんだか無性に腹が立ってきてしまった。


「ちゃんとやってんのかよ。」


そういってまたえっらそうに帰ってきた根本を一瞥する。
なんだかイライラとしたものが止まらなくて(まあこいつに対してはいつもイライラしっぱなしではあるのだが)、がりがりと問題に移る。
それを根本はいつものいけすかないにやにやとした表情でみてくるものだからまた無性に腹が立って、根本の足を思い切り踏んづけてやった。


「いってえ!!!」
「………フン、」


痛がる根本を一瞥して鼻で笑ってやる。
いい気味だ、と思いつつ少しだけイラつきを抑えることができたのはまあ良かった。
靴を脱いでなんともないに違いない足を大げさに確認する根本はやっと満足したのか革靴を履いた。
やはりBクラス主席である。
革靴は綺麗でぴかぴかと買った当初の輝きを保っていて、そこがまた少し腹が立った。


「…もうお前自分1人で勉強しろ。」


そう睨みを利かせながら言う根本を無視して次の問題に移る。
問題なんて頭に入るわけもなく、ただ沸々と煮えたぎる苛立ちを抑えるように意味もなく問題に目を通していった。
無論意味なんてさっぱり分からないので問題は全く解けていないわけなのだが。


「おい、」


がっとシャープペンシルを握っている方の手を根本に掴まれてしまう。
慌てて「離せ」と抗議しても妙に力の強い根本の手からは逃れられやしない。
自分も運動神経は良い方ではあるのだが如何せん、素早さには自信があるのだが力では圧倒的に不利だった。
離せと抗議しても黙って真顔で俺を見つめるだけで、その顔はにやにやしたいつもの顔よりもっと、嫌いだ。


「もしかしてお前、」


そこまで言って顔がまたにやりと笑った。
見透かされてしまったのだと知った途端、その実に嬉しそうな厭らしい顔に腹が立って、空いてる方の手でその顔面目掛けてグーパンチをお見舞いした。
あまりに唐突だったのか後ろに吹っ飛んでしまったのをいいことに、開放された手をわざとらしく学ランで拭く。
そしてざざっと広げた教科書類を小脇にはさんで、一言。


「………調子に乗るな。」


そしてまた後で来る、と一言加えて。
根本といると腹が立つことばかりではあるが、またどうせこいつの傍に戻ってきてしまう自分に呆れるより他はない。





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匿名さんから頂きました「根康でやきもちをやく康太」でした。
フリリク企画にご参加、ありがとうございました!
これからも宜しくお願い致します。




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