交わることを知らぬ2本の剣










薄暗い廊下の先に、何があるのか。
先の見えない戦いに疲れはたまる一方だった。
相手の軍はまるで、どこから湧いてくるのかわからない程に強大で、夜な夜な作戦会議をするのであるが。
何故か都合のいいことに日中しか仕掛けてこないためにそれはなかなかに有難い。
そしてその会議が終わって、本部の中は殆ど電気が消えていた。
メインの蛍光灯は全て消えていて、足元を照らす黄緑色をしたランプが余計に不気味さを増す。
カツ、カツと革靴で床を打ち鳴らし、歩いて数歩。
前方に見慣れた影が映っていた。
それが誰であるか、それは容易に分かる。
何故なら先程まで会議で話に上がっていたからだ。


「不動。」


その名を呼ぶと、不動は顔を上げてにい、と笑った。
人を小馬鹿にしたようなその笑み。
はあ、とため息をつき、不動に歩み寄る。
不動は壁に背を付けた体制のままただじとりとこちらを見ていた。


「作戦会議には来い、と言っただろう。」
「やだね、そんな堅っ苦しい。」


嫌だ、等と言うが目の前のこいつは俺と並ぶ、司令塔なのである。
であるにも関わらず作戦会議には実に積極性を欠いていて、先程もそれが問題となった。
けれど戦場での動きを見る目と、確実な支持を出すその能力は誰にも文句が言えないわけなのだが。
だからこそ、扱いに困る。
自由気儘に指揮をとるその様は、上層部には扱い辛いのだ。
よく橋渡しに使われるわけではあるのだが、俺はいまいちまだ目の前のこいつのことを理解できないでいる。


「明日は大事になりそうなんだぞ。」


戦場で戦う兵たちが、疲弊しているのは目に見えている。
相手もそうに違いないと思う。
だからこそ明日は大勝負を仕掛けるということだったのに、この肩割れは姿をちらりとも見せなかった。


「明日は死ぬかもしれない。」


俺も、お前も。
それは常に隣り合わせで。
常日頃から己の身には血の匂いが充満しているように感じる。
勝てば生き、負ければ死ぬ。
それは至極単純なことで、自然の摂理。
弱肉強食。
その言葉が今の世には悲しい程に酷く合う。
何時死ぬかわからないという瀬戸際で、ぎりぎりのラインの毎日をただ漠然と生きるのだ。
そう告げてやれば不動が表情を変えた。
にやりと笑った顔ではなく、酷く真剣な。
その目はただ俺を射抜くばかりで、分かってくれたのかどうかは曖昧だ。


「…死なねえよ。」


そうぽつりとつぶやいた不動は壁から背中を離す。
そうして今度は不動から俺に近寄ってきた。
そして俺の肩を押し、今度は俺が壁に縫いつけられる。
どうしたものか、死なないなどと、そんなことはあり得ない。
そんな絵空事を、目の前のこの現実的なものの考え方しかしない男が持っているとは到底思えない。
ずいと近寄ってきた瞳は、ただ真っ直ぐだった。


「鬼道が死ぬわけねーだろ。」


そう言った。
そう真っ直ぐに言いきった。
『鬼道』とそう俺の名を呼び、そして『死ぬわけがない』と。
何処にそんな自信があるのか、生死の可能性など、運次第だというのに。
そしてそのまま不動が噛みつくようにキスをしてきた。
唇を噛まれ、口内をされるがままに受け入れる。
目を開けると、不動の深緑の瞳と視線が合った。
がっつりと開けたまま、じい、と見つめられ、ほら、お前も。
矢張り信じてなどいない。
一分一秒が大切で、目に焼き付けておかなければ、明日どうなるかなど、誰にも到底分からないのだ。
飲み込まれそうになるほど、漠然とした不安。
張り詰めていないと揺らいでいとも簡単に切れてしまう精神。
それらを全て抱えているのは矢張り、同じである。
この薄暗い廊下はさながら、今の自分たちの状況を全て映し出しているような、鏡のようだ。
暗い底から這い出たとしても、そこに残るものは何か、まだ分からずにいるのだ。


「…は、」


不動が唇を離したのを機に今度は立場を逆転させる。
ぐるりとそのまま不動の腰に手を回し、不動を再び壁に縫いつける。
そして今度は此方から。
噛みついて、離してなどやるものか。





***
味噌汁さんから頂きました「鬼不で軍パロ」でした。
フリリク企画にご参加、ありがとうございました!
これからも宜しくお願い致します。




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