不意打ちヒット










見るからにふわりとした黄色から、ほこほこと湯気出る。
スプーンでつついて、割ると中はとろりとした半熟だった。
目の前に出されたオムライスは、妙に食欲をそそる迫力のあるクオリティで、市販のケチャップをかけているだけに関わらず、何故か妙においしそうだった。
スプーンの裏の部分でそのかけられたケチャップを伸ばし、そっと掬う。
それを口に入れれば、卵のふわりとした感触と甘み、適度な硬さのチキンライスが絶妙に絡み合って、まあ、簡単に表現すると、非常にうまい。
母が作ったものもおいしいのだが、お店で食べた時の感覚を思い出して感動のあまり作った張本人を見ると、もくもくと同じものを食べている最中だった。


「豪炎寺、これうまいな!」
「・・・そうか。」


その感想を実に率直に告げると、持っていたスプーンの動きが止まり、少し間を置いてから短い返事が返ってきた。
実に豪炎寺らしい返事に少しだけ苦笑しつつ。
もう一口、と口に運ぶとやはりおいしくて、なんだか嬉しくなる。
今現在、俺は豪炎寺の家で昼ご飯をご馳走になっている。
というのも現在はテスト期間中で部活もなく、土日は勉強をせざるを得ないのだが。
成績は中の上といったくらいでまずまずの成績の俺なのだが、今回の数学の範囲が実に苦手な部分だった。
そこで数学が得意な豪炎寺にご教授願おうと頼んだところ、豪炎寺の家に招待されたというわけだった。
開いた教科書やらノートやらを隅に追いやり今昼ご飯を頂いているわけなのだが、俺が問題を四苦八苦しながらといている間にどこかに行ったかと思えば、気付いたら二人分のオムライスを持ってきた豪炎寺の手際のよさには驚いた。
教えてもらっている上に昼食までご馳走になるとは実に申し訳ないと思うが、その豪炎寺が何食わぬ顔で持ってきたオムライスのおいしさはやっぱり異常で。
もぐもぐと咀嚼しながらふと豪炎寺のほうを見ると、スプーンを口元に持っていった状態で固まって何故か此方を見ていた。
不思議に思いつつ話しかけようと噛んでいたものをごくり、と飲み下す。


「・・・食べないのか?」
「いや、」
「・・・じゃあ何固まってるんだ?」


豪炎寺は口数が極端に少ない男である。
良く言えば、クール。
そして言うことは直球ストレート。
気は使える男ではあるけれど、さらりと突拍子もないことを口走ったりもする。
と勝手に分析しているわけだけれど。


「うまそうに食べるな、と思って。」


とやっとそう口を開いたので、いや、実際うまいから、と返した。
そうか?普通だと思うが、と小首を傾げる豪炎寺はなんだか妙に可愛らしかった。
しかし本当に至れり尽くせりなわけで、何かいいお返しが出来ないものか、と頭を巡らせる。
勉強は豪炎寺は頭が良いから教えることなんてなさそうだし、と思いつつ、ひとつだけ思いついた。


「じゃあ今度俺も何かお詫びに作るよ。」


料理なら出来ないこともないし、まあこんなにもうまいものは作ってやれない気がするけれど、そこそこのものは食べさせてやれると、思う。
御礼にならないかもしれないが、まあ、豪炎寺がそれでいいのなら、してもらったことは返したい。
すると豪炎寺はきょとんと目を丸くしていた。
俺がそう言い出すとは思わなかったのだろうが。
でもそれはほんの一瞬で、そのまま穏やかにふ、と笑った。


「・・・楽しみにしてる。」


そう言ってまるで妹をあやしているときと同じように頭の上にぽんと、手を置かれ、二度ほどぽんぽんと優しく叩かれた。
俺にとってもそれは予想外の出来事で、息が詰まった。
頬に熱が集まっているのがありありとわかって、妙に気恥ずかしくなってしまう。
オムライスのことといい、これといい、豪炎寺はふいうちというものが得意技のようだ。
豪炎寺の手が頭から離れて、照れを隠そうとオムライスを頬張ったが、味がよくわからなかった。





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結城さんから頂きました「豪風でほのぼの甘々」でした。
フリリク企画にご参加、ありがとうございました!
これからも宜しくお願い致します。




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