保健のお時間〜予習編〜










「では、宜しくお願い致しますっ!」


正座。
両手を膝前に揃えてお辞儀。
土下座に見えなくもない。
僕はベッドの上で目の前の恋人に勢いよく土下座をかましていたのだった。


「………こちらこそ。」


そして、目の前の恋人も土下座返し。
僕らは数ヶ月前に男同士、という障害を乗り越えて恋人同士になったわけなんだけど、元々が友達だっただけに甘い空気になるはずもなく…。
最近になってやっとそういう話題が出たものだから、それではいざ実践!と決行日になったのが今日。
今日明日明後日は姉さんがいないので僕の家に康太が泊まりにきたのだ。


「…とりあえず、脱ぐ?」

「………(コクン)」


土下座の体制のまま恋人に問いかけると布団が擦れる音がしたのできっと頷いたのだろう。
顔を上げるとまだ土下座体制の康太の頭をぺちり、と叩く。
はっと僕が顔をあげていることに気付いた康太は顔を上げ、ボタンに手をかける。


「………」

「………」


ごそごそごそと服を脱ぎ、お互い顔を見合わせること数分。
あれ?そういえばこのあとってどうするんだっけ。
保険の参考書や教育用DVD(AVともいう)での勉学には常日頃から励んでいたわけなんだけど。
よくよく考えてみると、こんなに色気がないものなのだろうか。
お互いはじめてなものでよくわからない。
いや、その前に、一つ気付いた。



同性ってどうやって致すんだろう?



ムッツリーニなら知っているかもしれない…。
目の前のこの男なら。
いや、待てよ、ムッツリーニは女子関連のことなら知識欲旺盛だが男子関連のことについてはどうなんだろう。
まして男同士のちょめちょめなことはムッツリーニの大好きな異性はひとりもでてこない。
知らないんじゃないだろうか。
ならお互いの体のこともあるし、事前に予習は必要なんじゃないか…?
そうだよね、したほうがいいよね。
問題はどうやってするかなんだけど。
あ。


「康太、」

「………なに、明久。」

「…AV借りに行こう!」

「………は!?」


よし、思い立ったら即行動だ!
勢いよく立ちあがって外に行こうとする僕に、後ろからこれまた勢いよく何かが投げつけられた。


「………外に行くなら服を着ろ、このバカ…!!!」


僕の、服だった。



危うく「文月学園男子生徒、深夜に全裸で街中徘徊」という見出しで明日の朝刊を飾りそうになった僕に、とりあえず説明しろ、と康太が服を着ながら尋ねてきた。
そういえば…と康太もよく知らなかったらしく、二人で深夜のレンタルビデオ店に行くことになった。
レンタル店に入ると店員の少しやる気のない「いらっしゃいませ〜」の声が響く。
さっそくカーテンの向こう側に。
そういえば僕らの求める同性同士のちょめちょめなAVというものはあるのだろうか。


「………明久、」

「康太、あった?」

「………あったことにはあった。」


流石ムッツリーニ!カーテンの向こう側のエデンの園の構造は完ぺきに把握してるんだね!
あまりにも早い捜索終了に少し感動する。
康太が呼んでいるほうに行ってみるとそこには僕らの今から足を踏み入れるであろう世界が広がっている。
見た目に関してはむしろちょっとむさくて眩暈を起こしそうではあるが。
眩暈を我慢しつつ、物色を開始する。
ノーマルなものからアブノーマルなものまで、そこらのAVと変わらず種類は多種多様。
どれを借りたものか…とごそごそとしていると、康太が僕の服の裾をぐいぐいと掴む。


「どしたの?」

「………あっちにいく。」


心なしか、康太の顔が赤い気がするのは気のせいだろうか。



さて、物はというと。
結局のところ借りることは叶わなかった。
何故なら僕たちは自分たちが未成年で、レンタルのカードには生年月日が深く刻まれていることをすっかり忘れていたのだった。
法律違反は駄目、絶対。


「ところで康太、」

「………?」

「さっきなんか照れてなかった?」


少し目を見開いてばつが悪そうに目を伏せる。
どうしたんだろう。
康太が口を開くまで待っていると、観念したのか口を開く。


「…………今からそういうことをすると思うと…」


ああ、そういうことか。
妄想力が凄まじい康太のことだから、想像してしまったのだろう。
まぁ確かにあのパッケージ的なことを僕らが行っているのを想像す…あ、僕まで恥ずかしくなってきちゃったじゃないか…!


「………」

「………」


妙な空気が流れつつ、夜道を歩く。
なんかまぁ、もう遅いし、今日は無理だろうなぁとなんとなく思う。
まぁまだ2日あるし。
そう心の中で納得しつつ、少々自分自身の不甲斐なさに落ち込みつつ家路につくのだった。





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