最前線サポート










鉄塔広場のいつもの階段を一段一段、登る。
じゃりり、と土をスニーカーが踏みしめて、着々と目的地に近付く。
近付くに連れて、凄まじい音が聞こえてきて、その音が生じさせる状況をありありと想像出来る自分に苦笑した。
あともう少しで頂上、というところでそのトレードマークのオレンジが見えて、登りきる前にえんどう、と名を呼んだ。
すると彼、円堂もそれに気付き、俺の名を呼ぶ。


「おう!どうした?風丸!」
「いや、なんとなく。」


円堂が此処にいるんじゃないかと思って来てみれば矢張り、と言った具合で。
先程までサッカー部での練習があったにも関わらずまた個人特訓とは、流石サッカー馬鹿というところか。
もう季節は冬に差し掛かっていて、五時半も過ぎれば暗くなる。
鉄塔広場は夜も明るいからいいけれど、あんまり遅いとおばさん心配するぞ。
と心の中で言ってみたところであれなんだが。
登りきって、よいしょ、とタイヤが吊された木の近くのベンチに座ると、円堂も練習を一時休憩して隣に座る。
ふう、と息を吐く円堂にベンチに置いてあった飲み物を手渡してやる。
サンキュー!とどんな時でも礼を忘れない円堂は昔から変わらない人懐っこい笑顔を俺に向けた。


「何の特訓してたんだ?」
「キャッチの練習。」


まぁ見れば分かるが敢えて聞いた。
もっとうまくなりたいんだ、とキラキラと輝く円堂の目は綺麗だった。
不意に円堂がふるふると手を振っていることに気付く。
気付いたまま、そのまま。
勢いのままに円堂の腕を掴んだ。


「か…風丸?」


当惑する円堂にいいから、と短く告げてその手からグローブを剥ぎ取る。
やはり、と言った具合にその現れた生身の手は赤くただれ、豆が潰れていた。
もう片方も同様に無理矢理剥ぎ取ってやると案の定で。
じろり、と円堂を睨み付けると円堂は狼狽えた。


「…えんどう、」
「…へへ…」


円堂は面倒臭がりな面がある。
手に豆が出来たらきちんとテーピングをしておけ、とあれほど!と説教モードに突入する。
痛々しい手は、懸命に練習した勲章ではあるけれど、痛いのは円堂だし、何より練習に支障が出たらどうするんだ、皆に心配かける気か、と。
懇々と説教するも円堂はへらりと笑ってごめんごめんと言うだけで、何もわかっちゃいない。


「…わかった。」
「へ?」
「円堂がその気なら俺にも考えがある。」


そういって円堂の腕から手を離す。
そして自分の鞄をごそりと漁って、あるものを取り出す。
そう、水。
それを勢いよく取り出して蓋を開ける。
そしてそのまま、不思議そうに見ている円堂の手にぶっかけてやった。


「いってぇぇえええ!!!」


鉄塔広場に円堂の雄叫びが(というか悲鳴)がこだまする。
そりゃそうだ、傷口に直接噴射だし、何よりこういうのは心の準備というものが大事である。
痛がる円堂を威圧するように、立ち上がって見下ろす。


「…で?何か言いたいことは?」
「…悪かったっ!もうしませんっ!」
「なんだ、分かってるんじゃないか。」


聞きたかった言葉を聞いて、満足する。
まぁこんなことで円堂が無茶をすることをやめたりするわけないのだけれど、暫くは懲りるだろう。
そのまままた座り直して真綿を取り出して吸ってやる。
そして消毒液で消毒する。
我ながら準備がいいことで。
と無駄に感心しつつ、傷口に這わせた。


「痛くないか?」
「最初の一発の余韻が…」


俺の問い掛けに苦笑しながら答える円堂にそれはそうだ、と納得する。
きっとじわじわとする痛みが円堂のこの手には広がっていることだろう。
円堂の、手。
こうしてまじまじと見るのは久し振りな気がする。
骨太で、しっかりとした厚み。
今まで幾度となくこの手にピンチを救われた。
小さな頃は同じくらいだったのに、どう考えても今の円堂の手の方が大きかった。
まぁその分身長は勝っているんだけれども。
豆の潰れていないところの部分をふにふにと触ると、一体どんなことをしたらこれほどまでに、と思うほどに固かった。


「風丸?」
「え?ああ、悪い悪い!」


あまりにもふにっていた所為か円堂は不思議そうな顔をしていた。
慌てて綺麗に拭き取ってやって終了、である。


「ほら、出来たぞ。動かしにくそうだし消毒だけな。」
「おう、ありがとな!」


そしてその手から手を離すとどうにも名残惜しい気がして、なんだか不思議な気分だった。
円堂の興味は既にサッカーに向いているのか嬉々として表情をしていて、微笑ましいやらなんとやら。
少し寂しい気もするが隣でそんな円堂を見れるのは矢張り嬉しいけど。





***
村木さんから頂きました「ほのぼの円風」でした。
フリリク企画にご参加、ありがとうございました!
これからも宜しくお願い致します。




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