おひるねタイム 先ほどまできゃあきゃあと騒いでいた園児たちが寝静まって、ようやくひと息入れる時間がやってきた。 といっても、この間に園児たちの日誌など、様々なものを処理していかなければならないので、先程まで園児たちにもみくちゃにされて疲労困憊な体に鞭を打つ。 横目でちらりと絶賛お昼寝タイム中な子どもたちを見ると、幾分、心が安らぐ。 元々子ども好きで、子どもに関われる仕事につけてよかったな、等と思いつつ、職員室から淹れてきた珈琲を一口啜った。 その時、山積みにしていた日誌に肘があたって、床に落としてしまう。 結構な量だったために、それはなかなかに盛大な音を立ててしまい、慌てて拾いにかかる。 どうか折角寝た子どもたちが起きませんように、と思いながらそっと音を立てないように拾っていくと、ふと視界にちいさな足が入った。 慌てて顔を上げると、そこには受け持ちクラスの『佐久間次郎』という園児が眠そうに目をこすりながら突っ立っていた。 「・・・・・・げんだあ、」 「すまない、起こしたか?」 こくり、と黙って頷く次郎の頭をよしよしと撫でてやる。 眠いのか、きゅと唇引き結んで、目じりには涙をためている。 それを親指の腹で拭ってやると、擽ったそうに目を細めた。 そして拭ってやったのがまずかったのか、その大きな猫目がぱっちりと開いてしまう。 しまった、と思いつつ立ち上がると、ぎゅむうと足にしがみついてきた。 「・・・次郎、ねんねしようか。」 「俺ねむくない。あそぶー!げんだあそんでー!」 少しだけ腰を屈めてそういうと、次郎は案の定駄々をこねてしまう。 このままにしておくと、他の園児たちも起きてしまうし、日誌を書かなければ保護者の方々にお渡しすることも出来なくなってしまう。 次郎は寝る気配は一切感じさせないし、どうしようか悩みつつもとりあえず次郎の脇に手を入れて、持ち上げる。 抱き上げて周りを見渡すが、他に起きた園児はいなかったようで安堵した。 みんな先程と同じようにぐっすりと眠っている。 次郎は抱き上げられたことにより少々機嫌がよくなったのか、俺のエプロンの紐を握って遊んでいる。 そのまま先程落とした日誌を、次郎を落とさないように拾いきり、机の上にまた再度盛り上げる。 そして椅子に座り、次郎を膝の上に乗せる。 このまま膝の上であやしながら、日誌を書くことにした。 膝の上に乗った次郎は興味津々といった様子で、きょろきょろと目線を這わせている。 そんな光景にが微笑ましく、ついつい頬が緩みつつも、シャーペンを手に取った。 「あー!!」 取った瞬間に、次郎が声を上げる。 その小さな腕をぴーんと伸ばし、その指が指す先には俺が手にしたシャーペンがあった。 これがどうかしたか?と近くまで持って行ってやると、ぺんぎん!ぺんぎん!とはしゃぐ。 そういえば次郎はペンギンが好きだった。 幼稚園の鞄も、靴下やパンツやフォークとスプーンも何かとペンギンで埋め尽くされている。 絵本の時間も大抵ペンギンが出てくるやつはすごく喜ぶのだ。 だからそのシャーペンに描かれたペンギンに実に興味津々で、その顔を覗き込む。 眼帯をしていない方の目はきらきらと輝いていて、それはもう嬉しそうだ。 「ペンギン、好きか。」 「うん、すきー!きどうのつぎにすき!」 きどう、とは同じクラスの鬼道有人のことで、次郎はいつも有人の後ろにくっついて遊んでいた。 今日も隣に陣取ってお昼寝をしていたのである。 いつも一緒の有人が、次郎にとって一番なんだろう。 次が、ペンギン。 じゃあ、と何故か無性に気になってしまったことを聞く。 「先生は何番目に好き?」 と。 少しまだ難しい質問だったかな、と思いながら様子を伺う。 次郎は指を折りながら、何かを数えているようだ。 そして数え終わったのか、こちらを向いて手をぐっと差し出して、指を数本立ててみせる。 「げんだはな…、さんっ!」 とにこやかに高らかにそう言われて、苦笑する。 出された指は四本で、どっちが正しいのか分からないが、どうやら上位には違いないようだ。 次郎の指を一本折り曲げてやりながら、その柔らかな髪を撫でてやった。 *** たのかさんから頂きました「帝国幼稚園パロで源佐久」でした。 フリリク企画にご参加、ありがとうございました! これからも宜しくお願い致します。 . |