コンプレックスを三回 鏡で自分の顔をみる度に、嫌気が差す。 妙に女子よりな、中性的な顔に。 昔から可愛い可愛いと言われ続けて早14年。 最初は良かったが年を重ねる毎にどんどん不快指数は昇り調子。 最近なんかクラスの女子たちに「佐久間ってさぁ、絶対女装、似合うよねぇ。やってみない?」だなんて言われる始末。 誰がやるか、誰が。 しかし、周りより細身の自分が女装をしたとして。 筋肉質な足を隠してしまえば似合いそうだ…と自分で思ってしまう辺り、末期である。 そしてそのコンプレックスを刺激する奴が身近にいるわけで。 「………」 「どうした?」 俺の無言の訴えに気付いたのか実に爽やかに問いかけてくる『キング・オブ・ゴールキーパー』こと『源田幸次郎』その人で。 身長も高いしガタイも恵まれている。 顔もイケメン、と言っていい部類。 羨ましすぎて思わずけつキックをかます。 「いって…っ!」 なかなかいいところに入った、と内心感心しつつ。 痛がる源田を横目にまた鏡を見る作業に没頭する。 髪を切れば幾分、男っぽくみえるのだろうか。 でもそれはなんだか、負けた気がする。 「佐久間?」 「…んだよ、」 復活した源田が話しかけてくる。 じい、と見られているような気がして顔をあげると案の定、こちらを不思議そうな顔でみていた。 「そんなに鏡を凄い形相で見つめてどうしたんだ?」 そんな凄い顔してたのか、とまた鏡に視線を戻すと確かに凄まじい眉間の、皺。 だがしかし、それでも女子のように大きな猫目や、長い睫毛なんかはてんで変わらず存在していて、盛大に溜め息をついた。 「どうした、悩みならき…」 「あーっ!うっせぇうっせぇ!」 手に持っていた手鏡をガツンと机に置き、勢いよく源田の方に向く。 源田は固まっている。 そのまま源田をずびし、と指差す。 「お前はいいよなぁ!顔格好良くて!」 「…え、」 「こちとら14年、てめぇの女みたいな顔の所為で悩みに悩んでんの!ここまで、分かったか!?」 「……あぁ、」 「最近益々『可愛い』って言われる機会が増えてイライラしてんの!!それだけ!つまんねー悩みで悪かったなっ!わかりましたかっ!」 「…」 「返事っ!!」 「…わかった。」 ぜぇぜぇと一気にまくし立てて肩で息をする。 完全なる八つ当たりだが、他にぶつける宛もなく。 源田は目を大きく見開いてぱちくり、と二回瞬きをした。 そりゃそうだ。 急に何も悪くないのに怒鳴られたんじゃ誰でもビビる。 俺もビビる。 勿論鬼道さん限定な。 「………」 「………」 妙な沈黙が流れて少々気まずい。 しかしこいつがイケメンなのが悪いわけで。 同情するなら少しその恵まれた体格と容姿分けて欲しい。 「…でも、」 「あ?」 「俺は佐久間の顔、好きだけどな。」 さらりと実にさらりと。 そんなことを言ってのけたKOGこと源田幸次郎。 え? 「…………はぁ?」 たっぷり間を置いて、そう返すと源田はきょとんとする。 いや、待て。 今それは、ない。 ないぞ、源田。 俺の悩み聞いてたか。 「…いやいや、え?」 「いや、佐久間の顔好きだし。」 「なんで二回言った。」 ぎろりと睨むも源田は顔色ひとつ変えない。 なんだか悔しいと思いつつ、座っていた椅子から立ち上がって、源田の前に立つが、その身長差にまた少し苛立つ。 しかし源田はやはり表情を変えず、突っ立ったまま。 そのまま喧嘩を売るように源田にガンを飛ばす。 それでも全く微動だにしなくてイライラが増す。 そのまままた蹴り上げてやろうかと思い、FWで鍛え上げた足を勢いよく振り上げた。 振り上げた、つもりだった。 ぱしりとそれはいとも簡単に源田に止められ、阻止される。 そのまますとんと足を元の位置に戻されてしまう。 唖然とする俺にそのままその手を伸ばしてきて、眉間をぶすり、と人差し指で刺された。 「また、皺。」 「……寄せてんだよ。」 あててんのよ、みたいな言い方で申し訳ないが。 色気も糞もないが。 そのまま今度は手のひらで頬に触れられ、もう片方の手も頬に。 まるでキャッチされたようなボールのような状態で硬直を余儀なくされる。 そのままじい、とどえらい近距離で見つめられてどぎまぎしてしまうのは仕方のないことに違いない。 お前目、悪かったっけ?とつっこみたくなる程近距離で。 この儘では拉致があかない、と判断して口を開こうとした途端、源田が手を離した。 まだ頬に源田の手の熱が残っていて、妙に生々しい。 いや、別にそんなことをしてたわけじゃないんだが。 「うん。」 源田が一人頷いた。 だからなんだっつーんだ、と突っ立った儘、源田に目線をくれた儘。 すると源田が最高にいい笑顔で、言うのだ。 「やっぱり俺は佐久間の顔、好きだ。」 「…散々人の顔見といて三回も同じコメントすんなっ!!」 体が勝手に動いてスコーンと源田の脇腹に俺の跳び蹴りが入る。 断じてわざとではない。 勝手に動いたんだから仕方なかろう。 ぐえ、とかなんとか言って倒れる源田を一瞥して、その場を去る。 源田にこの顔が好きだと三回も言われたことについてはなんというかまぁ普通に嬉しかったわけだが、反応に困るわけで。 けど少しだけ好きになれそうで、そこら辺は源田に感謝である。 まぁ調子こくだろうから言わんけど。 *** 匿名さんから頂きました「女顔佐久間の話」でした。 フリリク企画にご参加、ありがとうございました! これからも宜しくお願い致します。 . |