潤い水










暑い…暑い…暑い…


「…暑い」


思わず口に出してしまった自分の声で起きる。
寝ぼけた頭でゆっくり目を開けると右隣には雄二。
むさ苦しい…ただでさえ暑いのに、精神的な体感温度をあげないでほしい。
くるり、と寝返りをうつと反対方向には秀吉。
かわいい…逆にいろんな意味で体温があがっちゃうよ。
秀吉の可愛らしい寝顔を見ながらふと思い出す。
ああ、そういえば昨日はみんなして僕の家に泊まったんだっけ…?
学校帰りに遊びにきてなんだか帰るのがめんどくさくなったとか雄二が抜かし、あれよあれよといううちに秀吉やムッツリーニまでもが面倒くさいと言い出した。
まぁ次の日は休みだったから別にいいんだけど。
あれ?そういえば。
むくり、と起き上がって当たりを見渡す。


「…あれ?」


ムッツリーニの姿が見えない。
悲惨な光景(主にというか全て雄二のせい)の中にいるはずの彼がいなかった。
もう起きたのか、蛻の殻な布団。


秀吉を踏まないように寝室と化している 自室から脱出を果たす。
部屋を出た瞬間、目に入ったのは、いなかった友人そのものだった。


「…何してるのさ、ムッツリーニ。」

「………暑かったから…」


つい、と続ける友人はこの家で最も涼しいであろう玄関でうつ伏せに寝っ転がっていた。
そういえばムッツリーニはなかなかに暑がりであることを思い出す。
夏の暑い日のこれまた暑苦しい鉄人の補修時にクラスメイトがぐったりする中一番ぐったりしていた気がする。
あの密閉されたむさ苦しい空間の中で耐えきれなくなったのだろう。
…だからってこんなところで寝てると風邪引くぞ。


「ここで寝てたの?」

「………さっき脱出した。」


そう言ったムッツリーニのうなじには大粒の汗。
ふつふつと浮き上がったそれに余程暑かったことを想像し、少し可哀相になる。
ぴくりとも動かない友人の汗を拭いてやろうと洗面所に行きタオルをひっつかむ。
ああ、そうだ。
と思い返し、水を出してタオルを濡らす。
吸水性の良いタオルは直ぐに水を含んで重たくなった。
それを水滴が落ちないようにぎゅっと固めに雑巾搾り。
ぺたぺたと裸足特有の音を慣らしながらムッツリーニに近付く。
投下。


「………ひぁ…!?」


ぺちょり、という音と共に小さく友人の声が聞こえる。
僕は友人のうなじ目掛けて冷たいタオルを落としてやったのだ。初めはびっくりして体が固そうに動いた友人だったが次第にまただらり…とした。
しゃがみこんで今の感想を聞く。


「気持ちいい?」

「………気持ちいい…。」

「冷たい?」

「………快適…。」

「そりゃよかった。」

「………最高。」


ぐったりしながら余程お気に召したのか、親指を立てて見せる。
僕は満足して、さて、四人分の朝ご飯を作るか、と立ち上がる。


「………明久。」


名前を呼ばれ友人の顔をみる。
普段ポーカーフェイスな友人は酷く幸せそうな顔をして、


「………ありがと…。」


と僕に言ってのけた。
お陰で僕の方が暑さにやられたのではないかと思うほど熱くなったのだった。




戻る



.