※年齢操作で大学生

気まぐれな戯れ











不動の柔らかな髪は非常に触り心地が良くて、人の家で堂々と、あまりにも当たり前のようにソファーに陣取り眠っているコイツのそれを指先でいじる。
ほそくてなめらかで、でも癖のあるその猫っ毛に、動物を撫でているような、そんな感覚で。
人が大学から帰ってきたら大半、勝手に上がりこんで寝ているこの猫のような男の、背を丸めて眠る姿に目を細める。
大抵不動は極端に体を丸めて眠る。
ソファーの背もたれのほうに顔を向け、こちらに背中を向けて。
頭を己の腕で抱え込むようにして、膝を腹にくっつけ眠る。
どうしてこんなに縮こまって眠るのか、不思議で仕方なかったが、本人も特に自覚はないようで、本当にただの癖なのだろう。


(…あ、)


黒のロンTが少しだけめくれ上がって、背中が出ていた。
風邪を引いてしまうだろう、と思い引っ張って元に戻してやろうとその服に手を掛ける。
その時に、その黒と肌の白さのコントラストが妙に眩しくて、くらりとした。
中学の時から。
そう、中学の時から。
この男には妙な色気があった。
当時よりかは筋肉もつき、だがしかし細い腰も、白く艶やかな肌も、切れ長で睫毛の長い目も。
本当に、未だにそれは健在で、大丈夫か、と心配してしまうほどである。
だが本人は至って自覚はないようで、いや、寧ろ自覚していてそれを武器に脅してくることも多々あるわけだが、こう、その意図してそういうことをしてくるときも俺は我慢するのに必死なわけで、無防備な状態でそれを目の前に出されてしまっては。
流石に衝動を抑えられそうもない。
握った不動のTシャツを少しだけめくる。
背骨のあたりに軽く吸いつく。
少しだけ塩辛い、汗の味がした。
ちゅ、と吸いついて、暫くそのままでいると、不動の体がぴくり、と動いた。
それと同時に不動の背中から唇を離すと、不動が身じろぎをして、非常にゆっくりとした動作で仰向けに寝がえりをうった。
額に腕を置いている所為で、ちらりとしか見えないが、うすぼんやりとして寝起きで目じりに水をためた不動の目は、実に揺らいでいて、いい歳をした男だと分かっているし、こんな言葉は不適切だと分かっているが、可愛い、とすら思ってしまう。
ぱくぱくと口を動かし、何か言おうとしているのか、はたまた何か言っているのか。


「………何盛ってやがる…。」
掠れた声でやっとのことでそう言ってのけた寝ぼけ眼の不動は、大きく伸びをした。
その際に、Tシャツがめくれ上がって今度は腹が出る。
その腹の上に思わず手のひらをひたり、とおいてしまうと、不動が可笑しそうに笑った。
そのまま指の腹でするりと撫で上げてやると、びくり、と反応する。


「…何、鬼道、俺に会えなくて寂しかったとか?」
「…………ああ、そうだな。それでいい。それにする。」
「おい、それにするってなんだよ。妥協すんな。」


そう言いながらも可笑しそうににやり、と不動は笑ってそのままよいしょ、となんとも年寄りくさい掛け声とともにソファーの淵に手を掛け、ゆっくりと起き上がる。
そしてそのままソファーに座り直し、両手を広げる。
何だ?と訝しんで不動を見ていると、不動がまたにやりと笑った。
そのまま、俺の頭をがっちりと抱きかかえてしまう。
そして先程、不動が寝ていた間に俺がしていたように、今度は不動が俺の頭を撫でた。
しかし俺は動物のように不動を撫でていたが不動は違った。
母が子にするような、それ。


「よしよし、鬼道寂しかったんだよなぁ、存分に甘えていいぞ。」
「……おい、」
「なんだよ、お前が寂しいっつったからだろ。」
「……不動、貴様。」
「嫌なのかよ。」


不動がこんなにもふざけた戯れをするのも実に珍しい、と思いその体制のまま視線を巡らせると、近くにビールの缶が数本転がっていた。
まだ酔いが醒めていないのだろう、確実に酔っ払いのそれである。
そう思えば少し酒臭いような気もするし、体も熱いような気がする。
しかしこのままここで機嫌を損ねると後々面倒な気もするので、不動にされるが儘にしておく。
けれど、それもなんだか性に合わない気がして、こちらからも手を伸ばす。
不動の腰に両手を回して、ぎゅ、と抱きしめた…というよりかは抱きついた、という表現が実に正しい。
甘えるように擦り寄ってやると、不動は満足そうにまた俺の頭を撫でた。
不動の腹はやはり骨ばっていて、それは気持ちのいいものではなかった。
やはり女子とは違ってふんわりとした感触などないに等しいし、それは当たり前で。
けれど俺は不動のこの骨ばった体に妙に安心感を得ている。
それは紛れもない事実で。
ずり、と抱きついたまま顔を上げると満足そうな不動がそこにはいて。
腕をそのままずり上げて、不動の首に巻きつけて、そのまま。
体をソファーの上に乗せる。
そしてぎゅう、と不動の体ごと抱きしめて頭を撫でてやる。
大学から帰ってきて勉強し疲れた頭と体を修復する。
息を吸って、不動の匂いを取り込んで。
酒臭いながらもその奥にある、不動の本質の香りを吸い込む。


「なに、どしたの。」


動揺しているのが、少しだけたどたどしい言葉に苦笑する。


「……貴様が甘えていいって言ったんだろう。」
「言ったけど、急にそう来られるとなんつーか、」


びびる、と続けた声は微妙に尻つぼみで、不動らしくないな、とまた笑う。
いつも自信満々で、隙など見せないあの不動明王がこれではな、と思う。
酒の所為なのか、まあそうなのだろうか、妙に自分の感情に素直に行動する不動がどうにも愛おしかった。




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