A whimsical silver cat










はあ、と佐久間が教室に入って来るなり大きなため息をついた。
放課後の教室は、ただただ静かで、酷く響いた。
どうした、と言う前に、俺の座っている席の机の上に乗った鞄を床に投げられる。
それを座ったままぼんやりと眺めていると、机の上にこちらを向いた状態で乱暴に座った。


「…佐久間、行儀悪いぞ。」
「知ってる。」


間髪いれずそう返されて、何だか少し不機嫌そうな佐久間の顔を伺うと、別にそうでもなく。
ふわり、と優しく微笑むので、どうしたものかと戸惑っていると、そのまま腕を俺のくびにま巻き付けてきた。
まるで、猫のように。
非常に気まぐれで。
ごろりとそのまま、俺の顔を佐久間の胸に引き寄せた。
俺もそのまま佐久間の体に腕を回して、抱きしめてやると、満足そうにすり寄ってきた。


「…あ〜、おちつく…」


そう言ってよしよしと俺の頭を撫でてくるので、背中をぽんぽんと叩いてやる。
佐久間から、こうもべたりと甘えてくることはないに等しいことであるから、少々、動揺しつつ。
すると、ふいに佐久間が体を起こした。
やりたいようにやらせてやると、佐久間が指を指す。


「……そっち、いいか。」


指の先は俺の膝で。
普段は横暴で我が儘なのにいちいち了承を得てくる佐久間がどうにも愛おしくて、スペースを開けるように椅子を後ろに引いた。
それを了承、と取ったのだろう。
そのまま机から降りて、俺の膝に向かい合うように座る。
ずしり、とした佐久間の重みを感じながら、落ちないように腰に腕を回してやる。
満足そうに笑う佐久間に俺自身も満足しながら、片手で佐久間の頬に掛かる髪に触れる。
さらりとした感触が心地いい。
そのまままた、今度は体重を預けるようにすり寄ってくるさくまの体を受け止めてやる。
本当にどうしたのだろうと不思議に思いつつ、無言でぎゅ、と抱きしめてやると佐久間が身じろいだ。
頭をくったりと俺の肩に置いて、話す。


「…俺、源田好きだわ。」


付き合ってはいるものの、普段そういった感情を滅多に言わない佐久間が。
急にそう言い出すものだから、少々噎せる。
ごほっと噎せていると肩口が揺れたから、佐久間が笑ったのだろう。
ぽんぽんと先程俺がしたように、今度は佐久間が俺の背中を叩く。


「…なに、噎せてんだよ。」
「す、すまない。珍しいこともあるもんだと思って。」


正直にそう言うと、今度は佐久間が声を出して笑う。
くつくつと、止まらないのか笑う佐久間の頭を撫でながら、佐久間が落ち着くのを待った。


「…たまに言うから良いんだろ?」


落ち着いた頃合いに、佐久間がそういった。
確かに、偶にそういう言葉が聞ける、というのはなんだか特別でいいのかもしれない。
そう考えていると、俺が黙っているのが否定の意と取ったのか、佐久間が続ける。


「…源田は毎日言われたいのか?」
「……いや、」
「毎日か…考えてやってもいいけど、」


となんとも譲歩した答えが返ってくるので、また驚かされる。
本当に今日はどうしたというのだろう。
気紛れにも程がある。
こちらの身が、持ちそうもないだろう。
普段人前でべたついたり、いや、人前じゃなくともこういう行為を嫌う佐久間。
放課後の教室で既に人がいないが、帰ってきて目撃される可能性なんて多いにあるのだが。


「……うん、やっぱ偶にしか言わないから、」
「…」
「しっかり鼓膜に焼き付けやがれ。」


そう言って体を起こす。
その腕は、俺の首に回ったまま。
さらりと流れる青み掛かった銀糸が、視界に入る。
真っ直ぐと見つめる赤い片目が、俺を射抜いた。


「……好きだ。」


真っ直ぐ、真剣に。
そういってそのまま、キスをしてきたので受けてやる。
あまり長くない、短いキスをして、そのままだらりとまた俺の肩口にだれた。
「無理、俺保たない」とぼそりと呟く佐久間は今にも沸騰寸前、といった具合で。
その両方の意味を込めて、「俺も」と返答した。





***
ありまさんから頂きました「源佐久でいつになく素直な佐久間が甘える話」でした。
フリリク企画にご参加、ありがとうございました!
これからも宜しくお願い致します。




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