放課後Lilly










状況が、うまく飲み込めない。
俺はただ、明久の女装(アキちゃん)を撮りたかっただけなのに。


「僕だけなんて不公平じゃないか!」


とやいのやいの言われて、得意のだんまりを決め込んだわけだが、ずるずる引き摺られ、逃げ損ねた俺は再び香美ちゃん化(セーラー服ver.)させられたわけだ。


「ムッツリーニ!笑って〜」


こっちこっちとひらひら手を振りながらカメラを構えるアキちゃん(こちらもセーラー服)は凄く、清々しい程に、笑顔だった。


「………なんで俺が…」


思わず洩れる。
なんで俺が撮られているんだろう。
撮るのは得意だが、撮られるのは正直なところ苦手だ。
どんな顔をしていいかわからないし、どんな反応をしていいか分からない。
どうしようどうしようとオロオロしてしまって、軽いパニックに陥って、逃げ出せずに顔を下に向ける。
…なんていうか、その、恥ずかしいのだ。


「どうしたの?ムッツリーニ。」

「………いや、その…。」

「もしかして…緊張してる?」

「…………!(ブンブン)」


咄嗟に拒絶の反応をみせたのだが、そっか〜と納得の表情を見せる明久。
俺が緊張してる云々の前に、何故明久ではなく俺が撮影されているのかを聞きたい。
そして何を思ったのかこっちに近付いてきた。
何をするのだろうと見ていると、胸と胸が引っ付くまでの至近距離。
そして明久が俺から見て右を指差す。
なんだろう…と向くと、あ、眩しい。



…シャッターを、切られたのだ。



「二人なら緊張しないでしょ?」


三歩後ろに行き、嬉しそうに笑いながら言う明久。
呆気にとられた。
嬉しそうに、綺麗に撮れたよ、等という悪友。
もとい、恋人。
さっきの写真より、今の明久の笑顔の方がずっと綺麗に違いないのだ。


一歩、二歩、三歩。
離れた距離を自分の足で埋める。
きょとんとする明久にサプライズを。
目をつむり、狙いを定めて命中させる。
触れるか触れないか、ぎりぎり瀬戸際のキスを。


だって、うれしかったのだ。
凄く、嬉しそうにするから。
場の空気をいつだって和ませて一変させるのは、明久。
いつだって引っ張ってくれる。
そんな彼が、自分を好いていてくれるのが、とても。
少しそういう関係なのが信じられないほど。

「う…うえ…っ!?」

「………反則」

「…ム……康太、こっちの台詞だよ。」


頬が、熱い。
脳がビリビリ痺れる。
俺を抱き締めてきた明久の背中に腕を回す。
お互いセーラー服を着ているから、端から見ると百合に見えるのだろうか。
頭の隅でそんなことを考える。


「…康太が悪いんだからね」


そう言って、俺の肩を押すのだった。





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