薪は楊枝の代わりにならぬ











「………離せ!」
「五月蠅い、普段無口なくせに黙れないのか。」


不覚にも、俺は今根本によって横抱きにされている。
がっちりとホールドされた体は宙に浮いている。
じたばたと暴れたところで、それは無意味で、重力なんて俺の味方を全くしてくれない。
何故こうやすやすと、捕獲されてしまったのか。
目の前に例え、女子が履いていそうな可愛らしいパンツをちらつかされた時点で罠だと、気付くべきだった。
いや、気付いていた、だがそれに飛びついた。
本望だ!
………いや、そんなことはどうでもいい。
この状況を如何に、打破するか。
進行方向とは逆を向いた頭で考える。
暴れても無理、ひっかいてみたが頭を一発はたかれておしまい、噛みつきたくとも口は届かない。
この好奇の目にさらされた状況、どうにかしてほしい。
そして一体この男は俺を連れて行って一体何をする気なのか。


「………おい。」
「なんだ。」
「………俺を連れて行ってどうする気だ…。」


単刀直入に聞いてみた。
根本の顔が見えないからどんな顔をしているかは想像するしかないが、多分いつも通りのすかした顔をしているんだろう。
まあ確かにこいつが俺に恨みつらみを持っているのは前の写真集の件もあるからしかたのないことだとは思う。
だが、ちょっと自分が大きいからって、これはない。
これはないぞ、根本恭二。
この担ぎ方はないんじゃないだろうか。
もっとこう、やり方があるってもんだろう…!!
とイライラが募る。


「どうするってお前、分かってんだろ?」


と頭上から声がした。
確実に、今確実にこいつはにやにやしているに違いない。
そしてこいつはとんでもないことを言ってのけたのだ。


「お前小さいから、持ち運びしやすくて便利。」


………おい、コラ。
本当に、許さんと心が燃える。
分からないから聞いているというのに。
これは何をされるのか分かったものではない。
なんとしてでも脱出せねば…と思う。
そして視界に、獲物が入る。



そう、尻、である。



無駄に小さい(まあ男だからそうだろうけれど)その尻が、目に入る。
少しだけ手を伸ばしてみると、全然容易に届く。
これで俺が身長高くて胴が長かったりしたらもしかすると届かなかったかもしれない。
いや、届くかもだが、小さい自分の身長に、少しだけ感謝する。
そして思いっきり振りかぶる。
根本は案外あほなので、きっと俺が暴れているだけだと思っているだろう。
だが、違う。
俺の狙いはお前の尻だ。
男の尻を狙っているだなんて、勘違いされがちに違いないのだが、この際、仕方ない。
俺は今現在、根本の尻を狙っている!
ここでどや顔だ。
そしてそのまま、その勢いのまま、グーパン。
うっと少しだけ反応したと同時にそのまま、尻を思いっきりつねってやる。
ぎゅううと爪がズボン越しにもかかわらず食い込むんじゃないかというほどに。
ぎちぎちとつねってやると根本があまりの痛さと突然の衝撃に根本の腕が離れた。
そのまま地面に叩きつけられる前に綺麗に着地する。


「てめえ、何しやが…っ!」
「………これで終わりと思うなよ…。」


痛がって俺を睨む根本の腕が伸びてきて、それをかわす。
そしてそのまま脛を思いっきり、蹴飛ばした。
極限までに低姿勢になれるのも、小さい体の特権だ。
図体が無駄にでかいお前なんぞには出来ない芸当だろう。ざまあみろ。
痛がる根本を横目に、どうしてやろうか考える。
そして本当に一体こいつは何をする気だったのだろう。
きっととんでもないことを仕出かそうとしたに違いないのではあるけれど。
大体、想像はつくが、何も学校ですることなんて、ないだろう。
そのまま痛がっている根本の上半身を押す。
廊下に仰向けになった根本の足をひっつかむ。
そのままずるずる、引き摺る。
少々重いが、気にしない。
所謂、人間モップ状態である。


「つ、土屋…っ!!」
「………声上擦ってるぞ、三流。」


前を向いたまま、そう言い放ってやる。
うっと詰まる声が聞こえて実に愉快である。
大は小を兼ねる、だなんて、そんなものは俺が覆してやる。
無駄に長い足を引きずりながら、さて、どうしてやろうかと思案を開始した。





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