鎖国しているドイツと対面を果たした時の驚きは言葉に表せられない程だった。なにせ、目の前にはどう見ても厚さがかなりある鉄の扉が轟轟とそびえていたからだ。日本さんはこれを城と称していた。そうか、ドイツ城か……。ギルベルトが声を掛けるとすんなりと開国したドイツに私も声をかける、無事でよかった、と言うたびにドイツは少し申し訳なさそうな顔をした。自分が真っ先に逃げ出したことを恥じているのか伏せ目がちに、すまんと一言漏らした。気にしなくてもいいのに、と彼のハチミツ色の髪を撫ぜた私の心の中は、ただただ安心に包まれていた。
慎重に移動し、とある部屋にはいる。なんでも、ここにオモチと言うものが刺さっているらしい。棚の陰に隠れているそれを見つけると、あ、と小さく声が漏れた。本当にオモチだ、なんだろうこの生物。つぶらな青い瞳、どこかで見たような気もするが思いつかないままただただドイツの苦戦を後ろから見守っていた。 そうしてしばらくして、やはりオモチは壁からとれることはなく、皆がそれぞれ単独行動に出ることになった。私はギルベルトの後に続くように部屋を出たが、階段で別れて下に向かうことにした。
三階に着き、取り敢えず部屋を調べようと手当たり次第にドアノブを握る、空いている部屋もあれば、空かない部屋もあった。そうして三つ目の部屋に足を踏み入れる。真っ白な戸棚がたくさん並んだ書庫だった。そんな真っ白な中に、浮き出る亜麻色の髪。青色の軍服。見間違える筈がなく、私は走り寄った。
「イタリアさん!」 「! ヴェー! フリードニアー! 無事だったんだね!」
ぎゅうとハグをしてきたイタリアさん、その腕の力が余りにも強くてどれだけ不安だったのだろうと彼の心境を垣間見た。
「っ」 「ご、ごめんね。腕、怪我してたのに……!」 「いえ、お気になさらず。」
心配そうな顔をしてくださったイタリアさんに、私は元気なところを見せようと笑みを作った。さっきあの怪物から逃げ回った時に走ったのでアドレナリンが出ているこの体。血のことも考えると本来は安静にしていないといけないのだが少しはしゃぎすぎてしまったらしい。自分に叱咤をしつつ、小さく溜息を吐いた。
「あ、そう言えばフリードニアって救急セット持ってたよね? 俺が手当するから貸して。」 「……ありがとうございます?」
あれ、なんだろうこの違和感。再びやってきた違和感に首をかしげる、少し斜めになった世界から見えた目の前のその人の顔はどこか悲しそうだった。
「イタリア君! フリードニア君!」
手当が終わった、その時聞きなれた声が私たちを呼んだ。
「無事だったんだね、日本!」 「ええ、おかげさまでなんとか。フリードニアくんと合流なさってたのですね。」 「うん。日本が様子を見に行ってすぐにあの化け物が襲ってきたんだ。真っ先に悲鳴をあげたのはドイツだった。聞こえた……よね?」
そういえば、そうだったかもしれない。淡々と事実を告げていくイタリアさんの言葉を聞きながら私も頷いた。
「ドイツの悲鳴にも驚いたけどその時は余りにも混乱しちゃって日本を置いて逃げようとしちゃったんだ。ごめんね……日本……。」 「でも玄関のドアはどうやっても開かなくてバラバラに逃げたんですよね。私は何故かギルベルトに引っ張られていきましたが……。私も逃げてしまいました、すみません日本さん。」 「謝る事はありませんよ。そんな時は誰でもそうします。私だってそうしますよ。」
日本さんはたしなめるようにそう言ったが、多分彼はそんな場面に会ったら立ち向かうんではないかと薄らと思う。許されていることがまたそれはそれで私たちの心を締め付けると気付いているのだろうか。出来る事なら、嘘でもいいから叱ってくれた方が楽になるのに。不意に目に自身の腕が映った。薄らと滲む赤色を見る。やっぱり、私はただの足手まといだ。これ以上、迷惑かけないようにしなければ。意気込んでいると、イタリアさんがついついとわたしの服の袖を引いていた。そして三人一緒に四階へ戻るため、書庫を後にした。
( なんで、でしょう )
イタリアさんの冷静さに、どこか不安を感じながら。
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