化け物を倒した。あっという間の出来事だった。久々に剣を握ったはずだというのに体はまるで現役だった頃となんら変わらず、何度も繰り返したかと疑う程に無駄のない動きをしてみせたからだ。この化け物の動きはそこまで早いというものでもなかったため、傷を負いながらもなんとか倒すことができた。ただひとつ不思議で仕方なかったのは、その姿がまるで煙のように消えてしまったことだった。確かに手応えはあったのに、一体あれはなんなのだろう?

「フリードニア君、腕を斬られていましたが大丈夫ですか?」
「え、ああ……。大丈夫です、少し痛みますが平気ですよ。それよりお二方こそお怪我はありませんか?」
「それよりじゃねえよ!」
「えっ?」
「もっとお前は自分を大切にしろ! その傷だって俺を庇ったからできたんじゃねーか!」
「え、あの、すみません。」

 なんで怒られているんだろう、理由が解らなくて戸惑いつつも頭を下げる。視線の先にはギルベルトの靴の先がくるりと方向を変えて歩き去ったのが見えた。入れ替わるように、白い靴が見えたので私は顔をあげた。苦笑と微笑みをごちゃまぜにしたような表情浮かべた日本さんが私の髪を撫でる。

「貴方は気づいてないでしょうけど、あの人は心配なんですよ。」
「心配……?」
「ええ、フリードニア君は少し自己犠牲が激しいようですしね。まあ元々はあの人の家の軍人だったと聞きましたし、仕方がないのかもしれないのですが。」

 半ば呆れたような口調で日本さんはそう言ったが、表情は反して子供っぽい悪戯な笑みを浮かべており、どことなく楽しそうな様子だ。

「貴方だって、ギルベルト君が自分を守ったから怪我をしてしまったなんて、嫌でしょう? 彼も同じ気持ちなんですよ。……国にとっては自分のためにと命を危険にさらす方々を見ていると、なんとも歯がゆいですから。」

 そう言われてはっとした。
 祖国だからとかお国柄だからとか身近な人だから、守らなければならない。そんな風に思っていた訳じゃない。筈なんだ。貴方というものが私の人生に勝手に食い込んできて、それを甘受している内に少しずつ少しずつ自分の中の均等が崩れていくのを遠目から傍観していた。いつしかそれは信念となるまでにすくすくと大きくなっていった。貴方を、守りたい。一緒にいたい。そんな自己満足をしていた。貴方が私に守られているときにどんなことを思っているのかも知りもしないで、知ろうともしないで。結果的には、私の守りたいと言う理由を明かさなかったばかりに誤解を与えてしまっていたんですね。

 ただ、一緒にいたいだけなんですよ。

「さて、行きましょう? ギルベルト君待ってくださーい、爺にもう少し配慮してくださいって!」

 ギルベルトは少しいった先の廊下の壁に背を預けていた。
 私は自分の言いたいことをまだ口に出せる程、意志が強いわけでもない。恐らくそんなことを口に出してしまえば、私が先に潰れてしまう。それこそ風船から空気が抜けてしまったように、不格好な音をたてて。だから、今はまだしまっておこう。いつか、いつか言えたらいい。


「私、強くなりますね。」


心の中で宣誓


「……おう!」

 貴方の傍に居られるだけの力を持ちたい。
今はこんな言葉でしか言い表せないけれど、それでも私の気持ちを汲み取ってくれる貴方の側に。


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