それからのことはあまり覚えていない。ただただ右の手を引かれて走ったこととその手が異様に冷たかったこと以外は頭が白くなって、何も分からなかった。どこかの部屋に飛び込む。内側から鍵を掛ける音がして、私は力尽きたようにへなへなと座り込んでしまった。
「大丈夫かラナ!」 「ギル、ベルト」 「よかった、見たところ怪我はしてねーな?」 「ええ、ありがとうございます。私驚いてしまって。」 「お前あーゆーの苦手だったっけ。」
今となって蘇る灰色の巨人の姿はおぞましい程に鮮明で、軽くショックを受けてしまったみたいだ。荒くなった息を整えて立ち上がると、身を隠すために扉の前からベッドまで移動した。カラカラになった喉が潤いを求めていた。 あれは、一体何だったのだろう? 他の皆は? 泡のように次々と沸き上がる疑問に思考が呑まれていく感覚がした。 どうしてだろう。この感覚に陥ったのは、初めてじゃない、そんな気がする。
どれくらい時間が経ったのかも分からない。二人して体を寄せあって、息を潜めていると廊下から靴音が聞こえてくる。 カツン、カツン。カツン、カツン。身体中の神経が研ぎ澄まされているせいか底に響くような深い音だった。 呼吸を整えて、何時でも技が繰り出せるようにする。手には何時もギルベルトが持っている剣のうちの一本が握りしめられて、じんわりと汗ばんでいた。何で二本も持っているのかはこの際、言及しないことにしておく。足音からしてあの巨人ではなさそうだが、味方とも判断がつかないままなので臆病な程に警戒していることに越したことは無いだろう。気づかれないのが一番だが、どうだろう。 カチャリ、錠が外された音。部屋の中を歩き回る靴の音、そして、再びカチャリと音がした。 出て行ったのか、内側から鍵を掛けたのか。早鐘のようにドクドクと脈打つ心臓に僅かな痛みを感じた。
「っ! 誰だ!」 「あ……。」
一瞬、出遅れた私の代わりにギルベルトが剣を振るう。しかし、その剣は、刀によって防がれていた。
「うわっ! 落ち着いてください! 私です!」
その声に顔をあげる。
「日本さん!」 「あ、わ……悪い。日本か。」 「御無事でしたか。」
安心した表情を見せた日本さんはそう言って刀を鞘に納めた。最近はあまり刀を抜かなくなったと言っていたが、余りにも軽い身のこなしだった。今度、少し勉強させてもらおう。
「ば……化け物がいなかったか!? 見たんだ俺! 腐ったスコーンみたいな色した全裸の巨人を!」
なりそこない
ちなみにお水を勧められたけど、断っておいた。
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