個々の力は小さくとも、合わせればそれはとても大きな力になる。
 1+1が2だなんて、誰が決めた?


 一瞬の瞬きの間に、何かがぶつかり合う音がした。ぐちゃん、と固いものが捩じ切れるような音がしたのはその少し後だった。アメリカさんだ。目を開けるとそこにはあの化け物の口に鉄パイプを捻じ込む彼の姿と、その後ろで目を見開いているイタリアさんの姿があった。
 力強く化け物を押し返すアメリカさんの手からは、つぅと透明じゃない液体が流れだしている。よく見れば手の甲があの化け物の牙に切り裂かれている。あれでは、力が入らない。カナダさんやロシアさんの声が響く中、彼は颯爽と言ってのける。

「悪いけど、イタリアは俺の空気探索仲間なんだ。食べるのは鉄パイプで我慢してくれよ!」

 そう叫んだ後だった、私達が唖然としている内に奴の足元に四つの模様ネオンのような怪しげな光を出しながらが浮き出る。今まで視界の端で分厚い本に片手を翳して、ぶつぶつと呟くイギリスさんのその声が、止まった。

「―――Impedimenta!!!」

 光の柱が棘の蔓のように飛び出て、化け物を絡め取る。それと同時にアメリカさんがイタリアさんのことを突き飛ばした。彼のことをドイツが受け止めると、誰かが「来るぞ!!」叫んだ。
 立ち上がって剣を抜く。
 ”痛い”だなんて言ってられない。今は、戦わなくては。
 ややこしい事は生き残った後で話せばいい。

「武器を取れ全員で掛かるぞ!」
「いつでもくるよろし。」

 各自が闘志を油の様にぎらつかせる。
 その隅で、余りに自然に倒れる一人の男が、くぐもった声で呟く。

「あとは……まかせた……。」



 血しぶきに濡れる剣先をしまったのは、どれくらい時間が経ってからだっただろうか。とても長い時間だったような気もするし、反してとても短い時間だったような気もする。残ったのは硝煙の微かな臭いと、肉が焼ける嫌な臭い。化け物は霊の如くその命が尽きるのと同じように霞の様に消えていった。

「た、倒せた……?」
「お、俺様すげぇ……。」
「さすが、ですね。」
「やっぱりヒーローはこうでなくっちゃね!」

 拳を振り回して喜ぶ彼は、思い出したように「……あ。イギリス回収しないと。」と付け足した。駆け寄って行く姿がどことなく和む。そんな彼にドイツが大丈夫なのかと疑問を投げかけた。今のイギリスさんは死んだように眠っている。微かに上下する胸を見る限りは死んではいないようで安心する。けれど、それ程に力を使ったと言うことなのだろう。私には魔術だとか、魔力と言うものは全く分からないがそのことは素人目でも直ぐ分かる。そもそも国と言うのは人間よりも十二分に力を秘めているものなので、その国が倒れるというのは相当なエネルギーが消費されたことを示しているのだ。眠る場所が欲しい、と漏らすアメリカさんの声は全員の気持ちを代弁しているようだった。
 足元に目線を落としていたドイツが決心を固めたように、よし、と言ってから顔をあげた。

「何度か実験もしたし、大丈夫だろう。日本。二階に、以前俺が籠もっていた扉があるだろう? そこへいこう。」

―――ようやく俺も、役に立てそうだ。
 自信に満ち溢れた表情は、冷静さに大物感を感じるものだった。
 少しの間に成長したものですね、とギルベルトを見やってにやりと笑いあう。
 そんな時だ。

「あ! あのさ!」
「どうしました、イタリアさん。此処も安全とは言えませんので、お早めに。」
「……うん。でも……アメリカ。ありが……とう……。」

 ぎこちない笑みを浮かべて、彼は言う。

「……君はもうちょっと笑顔の練習した方がいいと思うんだぞ。そんな顔で言われても、困るよ。」

 俺んちのスマイルセンター紹介するんだぞ! と言ってへらりと彼は笑った。


あれもそれも盲目


「……っ。」

 クスクスと、笑う声が聞こえる。
 秋風に揺れるススキの様な音を立てて、頭の中を駆け巡る。
 無機質な音がだんだんと大きくなっていく。
 頭が、痛い。

 オメデトー。オメデトー。
 アナタハ―――


「うるせぇ!!」突如隣にいたギルベルトが叫んだ。その声に、かき消されるように頭の中を巡るものが消えていった。わっ、と半ばわざとらしくロシアさんが驚くけれど何に対して煩いと叫んだのかは分からなかったようだった。

「あっ……わ、悪い……。ってお前等、今の聞こえ……。」

 なんのことか分からないで、頭の上に疑問符を浮かべる一同を見て、すぐさま「なんでもない。」と頭を振って否定した後、彼はじっと私のことを見た。
 恐らく、私と同じものを彼も聞いたのだろうと言う事はなんと無く察しがついた。そして、彼が私を見たのは―――
 ギルベルトの揺れる赤の瞳を見据えて、黙って小さく頷いた。

 頭のどこか隅で、”亡国”の二文字がチラついた。


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