しん、と一瞬静まった場を割った声は、中国さんのものだった。「安心して休める場所が欲しい。」というのは、全員が心のどこかで思っていた事だろう。ついそれを零してしまったために、皆さんの疲れや弱みが表に出て目に見える様になってしまった。それでも、私たちは進まなければいけなかった。 書斎を出て地下室の鍵を握りしめ、やってきたのは閉ざされていた地下室への扉の前だった。新しい場所へと踏み入れると言うのは聊か勇気がいるが、あの人がいるかもしれないと言う僅かな希望が私の足を前へ前へと動かした。階段を下り、開けた場所に出た。その場所にも扉が二つあり、まずは手前から調べて行こう、というイギリスさんの提案によって一つ目の部屋の中を探した。小さな部屋だったので、鍵が見つかるまでさして時間はかからなかった。”格子戸の鍵”と書かれたそれを見て、ドイツと二人物騒だと言っていると、中国さんが「ここ、物騒なものしかないあるよ。」と心理を突いてきた。思わず苦笑してしまう。……早く出たいものだ。そんなやり取りをしていると、日本さんとイタリアさんの会話が耳に入った。
「ねえ。日本。」 「? はい、どうしました?」 「何かずっと考え込んでいない?」
一瞬、ぽかんとした表情を浮かべる日本さんの顔をイタリアさんは心配した顔で見つめていた。日本さんが口が少なくなったのはただ単に疲れているだけだと思っていたので、イタリアさんのその質問は意外なものだった。軽く質問を一蹴する日本さんに、イタリアさんは語尾を強めて若干問いただすように迫る。その体は少し、震えているように見えた。
「……混乱も、ヒントの一つと考えるのは適切ではりませんか? 私は、少し考えを改めようと……。」 「だめ!!」 「イタリアさん……!?」
流石に、今の叫びは全員に聞こえていたようで皆さんの視線が彼らに集まった。どうしたんだと理由をお聞きになられる方も出てくる有様で、そんな中私は首を振る事しかできなかった。
「忘れなよ!! すぐに忘れて! 変なこと、絶対に考えないで!」 「イタリア君……?」 「っイタリアさん!」
そう叫んで、書斎の時と同じように彼は部屋を飛び出していった。追いかけようと部屋を続いて出ても、既にそこに彼の姿は無かった。彼の逃げ足の速さは身をもって知っている分、感慨深いのか、こんな時に発揮しなくてもいいだろう? と呟いたドイツに胃薬を手渡しておいた。
やさしい呪い
ちなみに、イタリアさんは直ぐに見つかった。自分から戻ってきたからだ。屈託のない笑みを浮かべる彼は、何時ものヘタレの彼となんら変わりはなかった。
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