「色んなややこしい記憶があるけどまずは、「僕たち」の始まりを思い出そうか。」
最初、全ての始まりは世界会議だということ。ここは行方不明の奴も含めて全員が揃っていた唯一の場所であり始まりはここで間違いないだろう。アメリカさんに伝えられた噂、会議も終わったので、暇つぶしがてらアメリカさん、カナダさん、中国さん、ロシアさん、フランスさん、イギリスさんの六人が向かった。その場で日本さんも誘ったものの、彼は誘いを断った。館につくと、中国さんが館の入り口で日本さんにメールを送った。そのメールを見て、イタリアさんも行きたいと言い出して、私たち四人とギルベルトも向かった。 これが「私たち」の今まであった経緯だ。
けれど現にそうじゃないメンバーと来た記憶もある。全く違う記憶が複数流れ込んできているのは、ドイツ以外全員の共通点だった。
「色んな記憶を混ぜることで、俺達を混乱させようとしているんじゃない? どれが正しいか分からなくなって……判断を誤るのが狙いとかさ。」
今迄消極的だったイタリアさんが、気付いたようにそう言う。しっくりとくる答えに、そうかもしれないと相槌を打った。事実を隠して、偽りを混ぜることで混乱をおこして、何が何だか分からないんだとロシアさんが言う。疑心暗鬼。それが、あの化け物の狙いだとしたら? そもそもあの化け物にそんな能力があるのかと疑え、と言われるだろうが既にありえないことが複数起こっている、その位は考慮してもいい範囲ではないだろうか。むしろ、様々なパターンを考えておかなければ、ここでは身が持たないような気さえする。
「じゃあさ、これから時計を壊す代わりに色んな、嘘ばっかりの記憶が出てくるけど全部信じない方がいいってことだよね!」 「混乱を招くようでしたら……そうですね。その紛い物の記憶は信用せずに切り捨てるべきだと思います。」 「邪魔あるからな。それに、時計壊す度に変な記憶が出てくるって解っただけでも、心構えが違うある。」 「そうですね。気にせず切り捨てればいいのなら問題ないですね。」 「とりあえずこの時計も壊すが、変な記憶が流れ込んできても、すぐに忘れろ。誰とここに来て、どんな経緯で今ここに存在しているのかを忘れるな。」
鞭を手にし、しなりを確かめるようにピンッとそれを伸ばす。使い込まれているように見えるのは気のせいだろうか。微かに見える小さな複数の傷に、密かに弟への不安が高まった。凄いまともなことを言っているはずなのに私にはふいに視界に入った鞭が気になってしょうがないでいた。 足元に狂ったように叫びを続ける時計を置くと、ドイツは手にした鞭を容赦なくそれに振り下ろした。亀裂が入る、欠片が崩れおちる、そして、もう一度振り下ろしたとき、真っ二つに時計が割れた。
「……っあ。」
パンドーラーの記憶
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