三階から一階のあの部屋に行くまで、ひっそりと厳かな雰囲気のまま私たちは進んでいった。そのお陰と運が味方に付いたのか、あの化け物が襲ってくることは無かった。日本さんが手慣れたように金庫のダイヤルの数字を合わせる。すると、ガチャと金属が外れる音がした。中に恐る恐る伸ばした手を引き抜く、掌の中に確かにあったのは”書斎の鍵”とタグがついている小さな鍵だった。

「書斎なら確か奥の和室のとこにあったよね?」
「俺たちが案内しよう。」
「皆さんこちらです。」

 先程は逃げた道を戻り、和室の奥の扉に鍵を指すとすんなりと扉が開いた。扉の先には、黒と白で彩られた部屋があった。真っ白だったり、モノクロだったり、どれかに統一すればいいのにと思ってしまう。部屋の中をぐるりと回ってみるが、これと言って付け足して言う特徴も何もない。上の方になにかないだろうか? 天井を仰ぎみるが、やはり何もなさそうだ。

「あっ、」

 頭上に意識がいっていたせいか、足元を見ていなかった。バランスを崩して前のめりに倒れた。ドイツが「大丈夫か?」と声を掛けてくれた。「大丈夫です。」と力なく返す、鼻を打ったので痛い。早く立たなくては―――鼻を押さえながら立とうと体を横に向けると、机の下にきらりと光る何かを見つけた。

「皆さん! 机の下に、スイッチが!」
「え? ……本当だ、押しちゃうけどいい?」
「早く押せある。」

 手袋をした大きな手で小さなスイッチを押すと、歪な音を響かせて隣にあった大きな本棚が横に動いた。

「大丈夫か?」
「ありがとうございます、イギリスさん。」

 彼の手を借りて立ち上がる。鼻の痛みも引いてきたが、まだ赤いだろう。はたから見たら笑い飛ばしたくなるよう無様な姿を笑わずに、手まで貸してくれるとは優しい人だ。流石紳士ですね、といえば機嫌をよくされたのか、ふふんと鼻を鳴らしていた。
 そんなことをしている内に日本さんが、現れた扉を開く。彼の息を飲む声が聞こえた。

「うわぁ、鉄格子……。」
「……悪趣味ですね。」

 全員で部屋の中に入る、見た所ここから何処かに行けると言う事はないらしいかったので、安全確保の為に最後に入った私がカギを掛けた。理由はそれだけじゃなく、なんとなく、嫌な予感がしたからだ。危機的状況では、勘に従え。そう教えられていた。
 鉄格子の扉を開き、手に入れたのは新しい銀色の鍵だった。タグには”地下室の鍵”と書かれている。
 一体、地下室まであるなんてここはどうなっているのだろう。一階より上の階層は殆ど見て回ったので、これ以上の発見はそこまで期待はできない。何かが見つけられるとしたら、リスクを冒してでも地下室に行くしかないのだろう。


進め、進め


「貴方は、そこに居るのですかね……?」

 震えた声は、誰の耳にも届く前に溶けた。


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