このままではらちが明かない、そう言い半ば強引に皆さんの発言を止めたのは、ドイツだった。その後は一人黙りこんだまま、顔を伏せて考え込んでいるようだったのでそっとしておいた。
 何がおこったと言うのでしょう、自分でも分からないことが多すぎて頭をどれだけ悩ませてもピタリと自分の考えと合致するものがない。ギルベルトを省いて話し始めた日本さんのことが無かったら、皆さんこのことに気づかないままに新たに行動を始めていたのかもしれない。そして、誰かを忘れて行っていたのかもしれない。そう思うと頭の芯がスゥと極限まで冷やされてしまったかの如く、今まで見えていなかった現実に対して悪寒が走る。よかった、本当によかった。何時の間にか、話は暗号へと移っていた。

 ガチャン、何かが壊れる音がした。びくりと肩が飛び上がったと同時に、頭が痛くなった。何かが入り込んでくるような、嫌な感覚に目を瞑って耐える。耐える事しかできない、何なんです、これは、嫌だ、イヤだ。

 日本さんとギルベルトとイギリスさんと私。景色は館の外だ。
 和気藹々としている。
 違う、違う! 
 私はこの人たちと来ていないのに、どうして。
 そう思った時、再び場面が移り変わる。
 イタリアさんとフランスさんとギルベルトと私。
 違う、これも、それも、違うんだ……!

 違うと、否定するというのに私の中に映像は流れる。まるでそれぞれ本当にあったかのように、詳細が分かってしまうのは何故?

 最後に見えたのは、日本さんとイタリアさんとドイツ、そしてギルベルトと私の姿だった。
 これだ、そう確信した時には、視界は元に戻り、屋敷の外ではなく元通りの白い部屋の中だった。耳に入ってくるのは、皆さんの話し合う声ばかりだった。自分だけがあの不可解な現象に襲われたのか―――皆さんと自分の相違点と言えば、亡国であることぐらいだ。( まさか、そんな訳ないか )
 きっと疲れがたまって、立ったまま幻覚でも見てしまったのだろう。心労って怖い。
 何時もの調子を取り戻さなければ、小さく「よし。」と呟いて、いつも通りの表情を浮かべた。

 席を外していた日本さんが戻ってくると、様変わりしていた会議の様子に虚を突かれたような顔をしていた。確かに先程の状況からは考えられないだろうとは思う。日本さんも交えて、会議は続行された。中国さんが携帯について触れる、その時、つい先ほどまで考えていたことが脳内で自動再生される。口に出そうとした時、既に誰かが口を開いていた。イギリスさんだ。

「電話っつったら、なんで圏外なのにかかってくるんだ? 誰がかけてきているのかも分からないのに無暗にヒントと信じていいのかも疑問だ。」
「私もイギリスさんと同じことを思っていました。やはり、この屋敷には何か意志といいますか……そのようなものを感じます。背筋が……。」

 ぶるり、震える。ああ嫌だ幽霊だとかスプラッタだとかそんなに強いわけではないのですよ私。こんな時あの人がいたら、ぐしゃぐしゃと髪の毛を撫でつけて一声だっせーと笑いを零すのだろう。何時もならムカつくあの声が、今はとても聞きたい。

「俺なんかお腹すいてきたんだけど……。」
「なんだその顔は……。もっとシャキッとしないか。しっかりしろ。……フリードニア、大丈夫か? 顔色が悪いぞ。」
「ヴェー……ドイツ態度変えすぎ。」

 トマトのように頬を膨らませるその光景にクス、と小さく笑む。ドイツは、はぁ、と呆れていた。こんなちょっとしたこの癒しが、私の活力となり始めている。そんなことを考えてた時に、また、あの音が鳴った。今回は、ドイツから。カナダさんがドイツに携帯を取るのを促し、ドイツはそれに小さく頷き携帯のボタンを押した。


Ein Ton


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