真っ白なピアノの部屋に七人全員が集まった。それぞれの無事を喜び合うのもそこそこに、それぞれが自分たちの身に起きたことを語った。その間、私は特に口を出すことも無かったために、迎撃班の三人の手当に奔走していた。
「とまぁ、時計を壊して時間を正す……、というのも重要な役割のようです。二階と、一階にある部屋の時計は壊しました。この階と、それからその上の階はまだです。」
最初に違和感を覚えたのは、時間が狂っていたからか。私は館に入った時を思い出していた。青空、変だと思ったのはそれだった。会議が終わったのは午後一時。そして会食が終わったのは二時半くらいだった。そこから三時間も歩いたのだから、時刻はとうに夕方に差し掛かっていたはずだ。この時期なら、既に空は夕焼けに染まって、東の空は藍色に侵食され始めていたはずなのに。あの時から、既に私たちはこの館に囚われ始めていたのかもしれない。
「俺達はね、変な紙切れを見つけたよ。あと、キッチンの奥の部屋も開けられてね、中は金庫が一つあったってくらいかな。」 「金庫ですか。もしかしたらこの鍵盤の数字……何かのヒントなのかもしれません。」
皆さんの視線が白いピアノに移った。ピアノと言って最初に思い出すのは、オーストリアさんのことだ。そういえば彼らはこの変異に気づいてくれているのだろうか、気づいてほしい、助けにきてほしいと思う反面、こんな場所に来てほしくないと言う相反する感情がひょっこりと顔を出した。どちらも私の本心には変わりはなく、少しだけ胸が痛くなる。
「そっか。そしたら金庫開けてまた先に進むことができるね。それじゃあまずは……イタリア君達が見つけたこの紙切れを繋げた方がいいんじゃない?」
両方の紙切れを手にしたロシアさんが笑いながら言う。その意見に全員が頷き、その紙切れをくっつけることになった。刹那、あの機械音がまた鳴り響いた。全員がその音源を見る、イギリスさんからだった。すまない、と一言断りを入れてから彼は携帯を取り出した。鳴る筈のない携帯は音を発し続けている。ちらとドイツを見る、叫び声こそあげなかったものの表情が石になっていた、怖い。ゲルマンの無表情というのはどうもこう怖いのだろう。
「また……あるか。ロシアにもかかってきたある。」 「イタリアさんの携帯にもです。たしかピアノの音が鳴ったと。」 「ピアノか。とりあえず、出るぞ。」
着信ボタンを押した直後、ぽーんと鍵盤を押した音が聞こえた。やはり、二人に掛かってきたのと同じくピアノの音だった。けれど、どうやらその音は二人のとは違うらしかった。全員に一音ずつ違う音階、これは大きなヒントに違いない。その考えに至った時、一つ疑問が生じた。一体、こんな状況下で誰がどうやって携帯に電話をかけてこられたのだろう。ぞわり、考えれば考える程に背筋が冷たくなる。幽霊? そんな馬鹿な……。「一つずつ皆で解決していこう。」と告げているドイツの声が遠くに聞こえた。
「はい。そうすれば、アメリカさんもフランスさんもすぐにお会いできますよ。「遅い!」って、怒られてしまいそうですけど。」
少し困ったように、日本さんが笑みを浮かべた。
「え?」 「は? お前何言っているんだ?」
日本さんに二人が疑いの視線を投げかけた。
「え、何……と言われましても。私、何か間違っていますか?」
戸惑う彼に、イギリスさんは嘲笑とも捉えられる笑みを浮かべて言う。
「別に訂正して欲しいわけじゃないが……。プロイセンもかわいそうな奴だな。」 「ギルベルトも忘れないでください、日本さん。」
思わず口をついて出た言葉に、更に日本さんの顔が曇って行く。それを不安に感じてしまう、お爺ちゃんしっかりしてください。ここに来たのは―――
「うん。何で日本、フランス兄ちゃんとアメリカが出てきたの? 助けるのはプロイセンとフランス兄ちゃんでしょ? どうしてアメリカが出てくるの?」
「え!?」 「おっおいおい! お前らどうしたんだ? お前達はアメリカを助けるためにここに来たんだろ? フランスもプロイセンも、ここには来ていないだろう?」
何を、言っているのですか? 湖面に投げた石が波紋を広げていくように、怪訝の波は私たちに確かに広がっていく。それぞれの意見の食い違いが激しいこの状況に、流石にドイツも何も言えないようだった。
「アメリカ……さんだけ? いや、待ってください。だって私達……は、そうです。アメリカさんが行きたいと世界会議の会場で言うものだから……。」 「私も一緒に……と言われて……。それで一緒に、アメリカさんとここに……。」 「ちょっ……日本どうしちゃったの? ここに来たのは俺達三人とプロイセンだよ? アメリカは来てないし、フランス兄ちゃんはロシア達と行動中にはぐれたって……。」 「お前ら……。」 「待てよ! いなくなったのはアメリカだけだろ? どっからその二人が出て来るんだ。」 「これは……一体?」
分からないことがまた一つ、増えた。
会議は踊る
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